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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Mission.22 ■ 突入







《――各班、配置に到着完了。作戦通りフェイトの突入後、ユリ・ネルシャ班は同時に突入してちょうだい》

 耳につけたイヤホンから聴こえて来る指示に、フェイトは「ラジャー」の一言で応じた。百合とネルシャの二人も、百合が代表して返事をしたようで、百合の特徴的な涼やかな声が返事をしていた。

 今回のフランスエージェントとの対峙という構図は、IO2全体の意思ではなくあくまでもチームとしての任務だ。
 当然サポートに増員は不可能であり、純粋なサポートとしてはエルアナが。そして同時に、能力的にサポートの補佐が可能そうな凜がエルアナの補助につく形となって任務に当たることになっていた。

《作戦はIO2フランスエージェント、ルーシェの確保。及びアリアの保護になります。百合さんとネルシャさんはアリアちゃんの保護を再優先してください。ルーシェの撃破は――フェイトに一任されています》

《なるべくなら殺さないで捕まえて欲しいところだから、銃の使用は特殊弾丸を使ってねー。あ、でも衝撃弾だから殺傷能力は低いけど、顔を撃ったら大変だからなるべく胴狙いでよろしくね!》

 凜のミッションに関する説明の後で憂の少々緊迫感に欠ける補足が飛び、思わず待機しているフェイトの表情に苦笑が浮かんだ。
 サングラスは光源の少ない夜用に憂から与えられたサーモグラフィ機能がついたものが渡され、緑色の瞳は真っ黒なそれによって遮られているが、それでも分かる程に気の抜けかけた表情を真剣なものへと切り替えると、フェイトは慣れた様子で銃の安全装置を外して一つ深呼吸すると、銃弾を装填した。

「エルアナ」

《能力使用は非殺傷レベルで認可。自由にやっていいわ》

 それ以上の言葉などいらないと言わんばかりにエルアナがフェイトに答える。

 4年間のパートナーとしての絆をまざまざと見せつけるようなやり取りに、思わずサポートの人間が乗り込んだ大きな車の中で凜が頬を膨らませるが、そんな凜に向かってエルアナは煙草に火を点けて振り返った。

「リン、フェイトのサポートはこっちに任せていいわ。そっちはエージェント・アリアの位置を割り出すことに専念しながら、ユリとネルシャの二人に指示をお願い」

「はい」

 妙な嫉妬を向けられていると知りながらも、エルアナはそれに対して一切のフォローも入れようとせずに凜へと指示を出した。

 エルアナは知っているのだ。
 自分に向けられる嫉妬というものは、いつだって成果を見せて黙らせるのが最善であり、最良なのだと。だからこそ、一切のフォローも遠慮も見せる必要はない。
 特級エージェントとして最大限のパフォーマンスを見せつけることで、エルアナは周囲をこれまで何度だって黙らせてきたのだ。今更そのスタンスを変えるつもりなどない。

 そう斜に構えるような態度を見せてはいるものの、エルアナはむしろ凜を評価している。

 一級エージェントとして前線に立つ腕を持ち、神気を操る凜。
 それが通用しない一般人に対しては銃と持ち前の運動能力で対峙出来るだけの戦闘能力。加えて、こうして突然サポートの立場に回されていながらも文句も言わずに対応してみせるだけの順応性は、常人のそれを大きく逸脱している。

 もしもフェイトであったなら、サポートなど出来るはずもないだろう。
 エルアナはフェイトの実力は買ってこそいるが、サポートをするような性格ではないことぐらいは熟知している。
 例えアメリカにいる他のエージェントであっても、サポート業務に突然回れと言われて対応出来るようなエージェントは数少ないだろう。

《――ミッション・スタートする》

 フェイトのサングラスが映している映像が一瞬で切り替わり、エルアナは目の前にあった端末を操作する。即座にフェイトの位置を割り出し、内部の地図が3D化されたモニターを隣の画面に映し出し、マイクをオンにした。

「フェイト、そのまま最上階までの調査をお願い。リン、フェイトは6階から上を虱潰しに調べるわ。そっちはその下をお願い」

「了解しました。――百合さん、ネルシャさん。地下から確認をお願いします」

《了解よ。ネルシャ、捕まって》

 百合の涼やかな声がイヤホン越しに聴こえ、今度は凜もまたエルアナと同様に画面を切り替え、即座に3D映像を横のサブモニターに浮かび上げた。

 凜もまたエルアナの実力に何も言わずとも、内心では舌を巻いていた。

 空間移動は座標の指定が難しい。
 一瞬にして場所を移動するというのは位置の予測がつかず、ましてや今回の廃墟内の光景などは一瞬で割り出せるようなものではなく、どの階であっても壁が崩落していたりと判別が難しいのだ。

 それでもエルアナは一瞬で位置を把握して、フェイトにタイムラグもなく指示を飛ばし、あまつさえ自分にまで説明してみせるのだ。
 それは今までに見たサポートの人間とは明らかに一線を画する水準での動きである。

「リン、私はサポート一本よ。そう簡単にアナタに追いつかれるような位置にはいないわよ」

 突然エルアナから告げられ、凜ははっと顔をあげてエルアナを見つめた。
 にやりと挑発するような笑みを浮かべて自分を見つめるエルアナに、凜も思わずくすりと笑みを浮かべる。

「頼りにさせてもらいますね、エルアナさん」

「呼び捨てでいいわ。それでこそ対等というものでしょう?」

 これまであまり関わり合ってこそこなかった二人だが、このミッションを通じて互いを認め合うように、そんな会話が交わされるのであった。



 一方、病院内の地下に入り込んだフェイトは、崩落した場所は空間移動で飛び越え、一つ一つの部屋を調べるように銃を構えながら走り抜けていく。
 予定通り階段を抜けて進もうと曲がり角を曲がった途端、ピピピッと機械的な音が耳に入り、フェイトが慌てて空間転移で移動すると同時に、その場所には銃声が放たれ、銃弾が地面を抉った。

「セントリーガンなんて面倒なトラップだな……!」

 設置型の無人兵器。
 機関銃を搭載したその後方に姿を現したフェイトは、即座にその銃口を念動力で折り曲げ、破壊してみせた。

「エルアナ、設置系トラップが……、――ッ!」

 フェイトがそれだけ告げたその瞬間、セントリーガンの足に絡めてあったピアノ線が引っ張られ、ピンッと金属音を奏でて何かが飛ぶ音に気付き、フェイトは咄嗟に再びの空間転移をして、先程まで自分が進んできた廊下へと戻った。

 爆発音と衝撃。
 そして先程までセントリーガンの置かれていたその場所が炎に包まれた。

「だぁー! あぶなっ! 戦場かっつの!」

《無事みたいね》

「セントリーガン潰したらピアノ線でトラップが動いてドカン、だよ! なんか下手な能力者より厄介なんですけど!」

 フェイトが思わずエルアナに向かって叫ぶ。
 そもそも手に入るはずもないのだから至極当然と言うべきだろうが、使い方であっても一朝一夕で身につけられるような代物ではないだろう。いくらIO2とは言え、こんな兵器が支給されている訳もなかった。
 せいぜいがGUNSで支給されるような銃火器が限度であり、これは明らかにお門違いな武器の登場だと言えた。

《確かにね。クレイモアトラップとかもあるかもしれないし、ハッキリ言って階段は危険だわ。フェイト、作戦を変更するわ。フェイトもユリも屋上から探索を開始して。奇数と偶数階で分けて外からそれぞれの空間転移能力を使って階移動を》

「階段は避けるのか、了解」

《こっちも地下を確認次第、そうするわ。凜、アリアって子の位置は把握出来たら教えてね》

 ――おかしい。
 状況に振り回されながらも、フェイトはこのトラップの意味を考えながら屋上へと飛んだ。

 自分達が攻め込むことを理解していたかのようなトラップに、明らかに時間稼ぎを目的にしたもの。
 殺傷能力は確かにあるが、フェイトの命を奪えるレベルとは到底思えないようなものでしかない。

 ――時間稼ぎをしてルーシェに何の得があるというのか。
 それが分からないのだ。

 逃げるだけならばここを棄てているはずだが、それをせずにトラップを設置しているということは、放棄出来ない理由があるはずだ。



 ――「アナタ達、監視されているわ」。



 アリアと出かけたショッピングモールで告げられた、エヴァの一言がフェイトの脳裏を過ぎる。

「――ッ、エルアナ! すぐに防犯室か警備員室の場所を割り出してくれ!」

《ちょっと待って。――地下駐車場にあるわ。ユリ達が近いわね》

「じゃあ百合、交代だ。俺がアリアを探すから、そっちですぐに地下駐車場に向かってくれ。多分、ルーシェはそこから監視カメラを使って内部の様子を探ってるはず――!」

 フェイトが説明をしている、その瞬間だった。

 ぞわり、と言い知れぬ気配がフェイトの背筋を撫で、慌ててフェイトは前方に飛んで転がり、振り返って後方に銃口を向けた。

「……アリア?」

 屋上の出入口となるその上に、真っ白な少女。
 確かにその姿はフェイトの知るアリアと思しき少女のものであったが、しかし彼女はまるで空中に磔になっているかのようにだらりと力なく浮かび、項垂れていた。

 次の瞬間、再びフェイトの背筋を気味の悪い悪寒が駆け抜け、フェイトは後方へと飛ぶと同時に、フェイトの立っていたその場所が突然粒子となって丸い穴が生まれた。

 その光景にフェイトは思わず息を呑んだ。

 アリアがショッピングモールで見せた能力、言うなれば消失の能力とでも言うべきだろうか。
 それが今、明らかに自分に向けられていた。

「屋上でアリアを発見した。けど、様子がおかしい。無力化するからヨーハンの狙撃は地下だけを注意しててくれ」

 それだけ告げて、イヤホンが煩わしいと言わんばかりにフェイトは耳からイヤホンマイクを外し、サングラスも外してアリアを見上げた。

「アリア! 迎えに来た!」

 フェイトが声をあげてみるが、アリアの反応は何も返ってはこなかった。

 ルーシェのあの態度からして、恐らくはアリアに何かを施したのだろう。
 フェイトはそれを頭の中で理解しつつ、あの嫌らしいルーシェの笑みを思い出して奥歯を噛み締めながら、アリアをまっすぐ見つめた。















to be continued...







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いつもご依頼ありがとうございます、白神です。
お届けが遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

今回のお話でついにフェイトら一行の行動が開始、
同時にフェアリーダンスの続きが色々と動く展開にも繋がる予定です。

昨今ドラッグの事故やらで色々と騒がれていますし、
それ以上に物騒な薬のお話ですね。笑

お楽しみ頂ければ幸いです。




それでは、今後とも宜しくお願いします。
良いお年を!



白神 怜司