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<東京怪談ノベル(シングル)>


―悪魔の卵 〜消えた種の行方〜・2―

「な、何だ!? 鬼か!? でも人間の言葉喋ってる……!?」
 黒服の男は、初めて見る人外の姿にすっかり萎縮している。が、対して瑞科は涼しい顔でそれらと対峙している。
「人間界に住まう人外は、よほど下等な物でない限りは人語を操りますわ。いま、目の前にいるのはピクシー……雑魚と呼んで差支えないレベルですが、数が多くて厄介ですわね」
「レベル的には?」
「んー、ケンカの強い男の子ぐらい?」
 何だ、それなら! と、男は勢い強気に出る。が……
「あ、でも、幻を見せて……遅かったようですわね」
 刹那、男は自らの拳を押さえて涙を流していた。そう、ピクシーの顔面を捉えたと思ったその拳は、あらん限りの力で岩を殴っていたのである。
「道路に見せ掛けて、わたくし達をこのような場所に引き込んだ相手ですわ、甘く見ては命取りに!」
「は、早く言って下さいよぉ」
 涙目になりながら、やっとの事で戦列に復帰した黒服。だが、いちいち眩惑されてしまい、彼は戦力として当てに出来そうにない。
「目に頼ると危険です……そこ!!」
「ギャッ!!」
 一見、鉄球のように見えるソフトボール大の塊を腹に受け、それが貫通して背後の樹にめり込んでいる。そこに居たピクシーは一撃で撃破され、息絶えた。
「くっそ……全く見えねぇ!」
「慌てないで! 動くと却って危険です、ジッとしていてください……ハアアァァァァァっ!!」
 瑞科は次々と掌から光弾を撃ち出し、それらは確実にピクシーたちを直撃して自由を奪って行く。と、同時に幻惑も晴れて、その姿が黒服の彼にもハッキリ見えるようになる。
「野郎! さっきはよくも……喰らえ!」
「ギャッ!!」
 男の拳が、一匹のピクシーの顔面を捉えた。今度はクリーンヒット、見事に相手を仕留めていた。が、彼がその一匹を倒す間に、瑞科は恐るべきスピードで次々にピクシーを倒していく。
「すげ……あんな可愛い顔したお嬢さんが、スカート捲り上げてステゴロとは……ミスマッチだな。お嫁に行けないぞ、ありゃ」
「聞こえてますわよ! ……大丈夫ですの、これは見せても良い下着ですから」
「……残念グッズだったか! って云うかそういう問題なんスか? ……っと、ホンワカしてる場合じゃ無かった……な!」
 瑞科が目印代わりに光弾を当てたピクシーを、今度は膝蹴りと肘打ちで挟み込んでノックアウト。成る程、力量そのものは人間の、ちょっと強い不良少年と同等かそれ以下である。
「確かに……慣れりゃ簡単だけど、数が多くてウザいスね!」
「油断しないで、貴方は目印が無いと相手が見えないんですから!」
 そう、倒しても倒しても、後からどんどん増援が湧いて出るのだ。見れば中にはピクシーだけでなくグレムリンやブラウニーも混じっている。
「くっそ、キリがねぇ!」
「確かに、少々面倒になって来ましたわね……さあ、わたくしの背後に!!」
「な、何するつもりスか!?」
「焼き払います!!」
「はあぁ!?」
 今までは小出しにして連射していた光弾――正確には電気を貯め込んだエネルギー弾であるが――を、両の掌の間でどんどん巨大化させる瑞科。そしてそれを子鬼たちの群れに向けて投げ付ける!!
 ……刹那、地面に激しい電撃が走り、群がる子鬼たちを薙ぎ払う。細い枯れ枝などは、燻って煙を上げていた。
「粗方、片付きましたわね……名付けて、サンダー……」
「いや、それより。ここ、何処っスか?」
 決め台詞を途中で遮られたのが悲しかったのか、眉を下げながら『分かりません』と答える瑞科。流石の彼女も、化かされて迷い込んだ密林の中で、しかも大立ち回りをやってのけた直後に現在位置を把握する事は難しいらしい。
「しかし、あんなのに化かされてたんだとすると……俺らの乗って来た車や、ブツを積んだトラックが行方不明になっても……」
「えぇ、可笑しくはありませんわね……さて、此処は樹海の、どの辺り……危ない!」
「わっ!」
 ドン、と両手で黒服を突き飛ばす瑞科。と、次の瞬間……彼の立っていた場所には巨大な岩が鎮座していた。
「じょ、冗談きついぜ! あんなのに押し潰されたら!」
「……今度はゴーレムですか……豊富なラインナップですのね」
 そう、幻惑使いの子鬼たちが蹴散らされ、正体を隠せなくなったゴーレムがそこに立っていた。これは人を幻惑する力は無いが、物理的な力量と頑丈さはピカイチの……一言で言えば、厄介な相手であった。
「い、岩の化け物かよ!」
「正確には泥の塊ですけどね! ……大丈夫、直撃さえ避ければ大した相手ではありません、このように動きも緩慢ですし……」
「じゅ、充分に怖いんですけど!」
 確かに動きはノロい、しかしパワーが段違い! しかもガタイが違い過ぎる。これは倒さずに逃げた方が……と黒服が考えていると、瑞科は軽いフットワークでゴーレムの肩に駆け上がり、その額に向けて質量弾を撃ちこむ! それも連射でだ。
「ゴアアァァァァァ……!!」
 ゴーレムの弱点、それは額に書かれた文字である。これを消されると、その巨体は元の泥に戻り、無力化してしまうのだ。
「……な、何か……さっきの鬼の方が厄介だったような?」
「そう、ピクシーにしてやられましたからね。まず、現在位置を把握しませんと」
 そう言って、瑞科はスマートフォンを取り出すと、GPS機能をオンにしてマップに照合、現在位置を割り出した。何度も行き来したあの道から、約1キロほど西にずれた位置まで誘い込まれていた事が分かった。
「こんな所に誘い込んだって事は……」
「誘い込んだと云うより、正解を包み晦ます為に罠に掛けたと言った方が良いかも知れませんわね。車で何度も往復していた時は、スピードが出ていたので木々の間まで目が届きませんでしたけど……」
「!! 歩く速度では、見付かってしまう可能性があった……つまり!」
「そう、トラックのような大きなものを、この密林の中に隠す事は逆に難しい。だから簡単なカムフラージュを施しただけで、道路の近くに隠してある可能性があります」
 鬼退治の次は、宝探しか……と、一瞬気が遠くなった黒服ではあるが、道路まで戻ればそう難しい問題じゃあ無い! と考え直し、慎重な足取りで元の道路まで戻って行った。

***

「……無いっスね?」
 道路に戻り、暗視ゴーグルで周囲を偵察すること小一時間。乗って来た車は見付かったが、盗まれたトラックは見付からない。
(まだ、ピクシーの眩惑が……? いえ、乗って来た車は見付かった。つまり眩惑はもう晴れている。しかし……)
 俯いて、眉を下げる瑞科。だが、黒服が『やれやれ』と云った感じで煙草に点火したその炎が、意外な正解を導き出していた!!
「光!」
「え? な、なに!?」
「例のトラックは、消えたのではありません。最初から『見えなかった』のです!」
「な、何を言っているのか……え? あ、あれは!?」
 そう、暗視ゴーグルを外してライトの光をかさずと、一箇所だけ光の通らない個所がある。明らかに怪しい。
「光学ステルス……実験段階だとばかり思っていたのですが……」
「そっか、暗視ゴーグルは赤外線モニターだから、光を屈折させられて見えなくなっていたのか!」
「……此処まで嗅ぎ付けるとはな……見事、と言っておこうか」
「!!」
 振り返ると、そこには……数体のパペットマンに護衛された、人型の男が立っていた……

<了>