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<東京怪談ノベル(シングル)>


白き獣の吠える時

「……前は強かった方なんですね」
 海原・みなもは小さなため息を零す。
 転職を行った事でレベルは下がり、スキルも真っ白。おまけに初期装備状態という始末だ。
「でもレベルを上げていけば、基本ステータスは前の職業の比じゃないはずだよ」
 ため息を吐くみなもを見ながら、瀬名・雫が苦笑気味に言葉を投げかけてきた。
「すみません、雫さんも忙しいのにあたしの用事に付き合ってもらっちゃって……」
 みなもが申し訳なさそうに謝ると「いいって! あたしだってみなもちゃんの新しい職業に興味があったんだから!」とぷらぷらと手を振りながら言葉を返してきた。
「この辺の街じゃ、白虎用の装備なんて売ってないし……初期装備でも十分強い方なんだけどね」
 瀬名がみなものステータスを見ながら「うーん……」と呟いている。
(十分強い方……それじゃ、駄目なんです)
 瀬名の言葉を聞き、みなもはキュッと手を強く握り締めながら心の中で呟く。
(少し強いくらいじゃ、あたしはこの先を生きていけません……強くならないといけないんです)
 基本ステータスは上がったけど、今まで上げたレベルが初期化され、せっせと集めたスキルもすべて消えてしまった。
 その事実がみなもの心に焦りを生み出していた。
「とりあえずスキルショップを見に行ってみようか、転職した事で新しいスキルが発売されているかもしれないし、威力が弱めでもスキルを集めていた方がいいもんね」
 瀬名の提案でみなもは街のスキルショップへと足を運んだ。

※※※

「あ……」
 スキルショップを覗いてみると、今まで現れていなかったスキルが幾つか出現している。
「みなもちゃん、新しいスキルが出てきてる? あたしの方からは見えなくてさー」
「あ、はい……咆撃、虎硬拳、白の炎舞というスキルが出て来ています」
 瀬名の問いかけにみなもが慌てて言葉を返す。
 所持金を見ても、とりあえず3つのスキルを買う事は出来るので、みなもは3つのスキルすべてを購入する事にした。
「販売スキルだから効果はあんまり期待しない方がいいかもね、この手の職業はレベル50を超えてからのスキルが半端なく強いって聞いた事があるし」
 瀬名の言葉に「……レベル、50」とみなもが驚いたような表情を見せた。
(現在のレベルは5、とてもじゃないですけど50なんてすぐにあげられるレベルじゃないです、もしその間に異変に巻き込まれるような事があったら……)
 強さを求めて転職したのに、結果として求めるものが変わらないなんて皮肉なものだ、とみなもは心の中で呟きながら自嘲気味に微笑む。
(どうすればいいんでしょう……)
 みなもが唇を強く噛みながら心の中で呟いた時『ログイン・キー』が激しく輝き始めた。
「み、みなもちゃん!?」
「ど、どうして『ログイン・キー』が……!?」
 みなもは激しく輝く『ログイン・キー』を見ながら呟くが、みなも自身気づいてないのだろう。
 みなもの焦りや動揺に反応して『ログイン・キー』が輝いているのだということに……。
「みなもちゃん! 落ち着いて! 何でこうなってるか分からないけど、みなもちゃんのステータス、どんどんあがっていってる!」
(え? あたしのステータスが……?)
 光に阻まれて上手く操作出来ないけど、みなもは何とかしてステータス画面を開く。
 すると先ほどまで『レベル5』だったのに、既に今は『レベル38』にまであがっている。
(な、何で……っ、う、か、身体が軋むように痛い……っ)
 身体中に激痛が走り、みなもは声にならない悲鳴をあげた。

※※※

「……うっ、あたしは……無事、なんでしょうか……」
 それからしばらく経ち、みなもが気づくと瀬名が心配そうに自分を見下ろしている事に気づく。
「雫、さん……?」
「みなもちゃん、なんだよね……?」
 恐る恐る問いかけられ、みなもは首を傾げる。
「何を言っているのですか? あたし以外に誰が――……」
 その時、近くの家の窓に映っている自分の姿を見て、みなもは言葉を失った。
「……これが、あたしの姿……?」
「光が治まった後、みなもちゃんは気を失って……その時にはもう、この姿だったよ……」
 みなもの今の姿、それはいつもの可愛い女性の姿ではなく、白い獣――……まさに白虎を名乗るに相応しい姿をしていた。
(異変が、一気に進んでしまったという事ですか? でも、どうして……)
 みなもはぐるぐると頭の中で考えを巡らせ、そして1つの答えに行きついた。
(あたしが、強くなりたいと願ったから……? レベルが下がり、スキルや装備も初期化されて焦っていた事に『ログイン・キー』が反応した……?)
 それしか考えられず、みなもは愕然とした表情を見せていた。
(自業自得と言えばそれまでですけど、まさかこんなに一気に異変が進むなんて……)
 みなもが消沈する姿を見て、さすがの瀬名も言葉を掛けられないらしい。
 その日は日が暮れるまで、お互いに言葉を交わす事はなかった――……。


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様

こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます!
今回はちょっと異変が進む形になりましたが、
いかがだったでしょうか?
少しでもみなもちゃんらしい部分が出ていれば幸いです。

それでは、機会がありましたらまた宜しくお願い致します。

2015/1/5