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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 行く末は如何に ――

「……ふむ」
 パソコンの画面を見ながら、松本・太一は小さく呟く。
 先日の調査で転職という存在を知ったけれど、やり直しをするのは少し厳しいと考えていた。
 転職した職業が今より強くなるという確証を得られればいいのだけれど、転職した事により、更に異変に巻き込まれる可能性があるかも、と考えるとどうしても踏み切れずにいた。
(どちらにしても情報が少なすぎる、しばらくは『祈癒術師』を当面の目標にして行きましょう。まだ今の状況では祈癒術師に転職するために何をすればいいのか分からないのですから)
 松本は心の中で呟いた後、とある攻略サイトのページをクリックする。
 その攻略サイトにはクエスト一覧表なるものが作られており、松本はそれを見ながら危険そうなクエストは回避して、地道にプレイをしていた。
 もちろん異変を回避するために、突発的なイベントが起こりそうになった場合は『LOST』をプレイしない、という事も考えている。
「……遊び方としては間違っているような気もしますが、これ以上『女僧侶』にならないためには、これしか方法がないんですよね」
 はぁ、とため息を吐きながら松本は画面を見る。
 すると、新着のコメントが来ていて、それを確認すると瀬名・雫からのメッセージだった。
「ログインしてるから始まりの街においで、ですか……どうしたんでしょう?」
 用件も書かれていないメッセージを不思議に思いながら、松本は首を傾げ、自分のキャラクターを始まりの街へと移動させた。

※※※

「いきなり呼び出しちゃってごめんねー、回復アイテム大量ゲットのイベントがあるからと思って呼んだんだけど忙しくなかった?」
 始まりの街に到着すると、瀬名がすぐに話しかけてきた。
「回復アイテム、大量ゲット……ですか? そんなイベントがあるなんて知りませんでした」
 松本が驚いたようにメッセージを返すと「不定期に開催されるんだよ、主に初心者向けの危険性のないイベントとしてね」と瀬名が答えてくる。
(危険性の少ないイベントなら、私でも参加は出来るでしょうか)
 これから先の事を考えたら、回復薬は幾つ持っていても持ち過ぎと言う事にはならないはず。
「参加する、でしょ?」
「はい、ちなみにどんなイベントなんですか?」
「宝石探しだよ、広場にちりばめられた宝石を1つだけ取る事が出来て、手に入れた宝石によって景品が違うってやつ」
 瀬名の説明を聞いても、特に危険性は感じられず、松本は参加を決意する。
「ちなみに、これは宝石探しよりも交流メインって感じのイベントかなー。初心者さんも知り合いを増やしていこう――……って感じらしいし」
(交流メインならば、色々な情報を聞きだせるかもしれませんね)
 松本は心の中で呟きながら、瀬名と共にイベント会場に向かい始めた。

※※※

「……私が手に入れたのはエメラルド、ですか」
 イベントが始まり、松本が見つけたのはエメラルドの宝石だった。
 ちなみに瀬名はルビーを見つけており、他のプレイヤーと楽しくお喋りをしている。
 もちろん松本も他のプレイヤーに声を掛けたりして、転職に関する事など情報を集めようとしたが役立つ情報は何もなかった。
(まぁ、こんなに簡単に手に入るとも思っていませんでしたが……気長に行きましょうか)
 松本は苦笑すると、広場にイベント終了を告げるアナウンスが流れ始めた。
「あ、エメラルドの人って回復薬50個だって! 良かったじゃん!」
 どうやら松本の入手したエメラルドが一番良い景品だったらしく、見事50個の回復薬を手に入れる事が出来た。
「50個もあれば売っても多少のお金になるし、そのまま持っているのもいいし、どうするかはキミ次第だね!」
「今回のイベントに誘って頂き、ありがとうございました」
 松本が深々と頭を下げながらお礼を言うと、瀬名は照れたように手を振りながら「い、いいってば!」と言葉を返してきた。
「はぁ、ダイヤモンドを取ったからなぁ……回復薬50個、狙ってたんだけど」
 松本よりも初心者っぽいキャラクターが落ち込んだように呟いている。
「特賞の宝石は、毎回1個だけしか設置されてないんだよ。だからキミってば、かなり運が良かった方だと思うよ」
 愚痴を零すプレイヤーを見つめながら、瀬名が苦笑気味に言葉を返してくる。
「……あの」
 松本はそれを見て、初心者プレイヤーを追いかけ、特賞の回復50個を渡してしまう。
「ちょ、ちょっとぉ! 何してんの!?」
 さすがの瀬名も驚いたらしく、慌てたように松本に駆け寄ってきた。
「私は地道にクエストをこなしていますし、回復薬を買うお金はありますし、どうぞ」
 渡された初心者プレイヤーはポカンとした表情で松本を見つめて「い、いいの?」と恐る恐る言葉を返してくる。
「はい」
 松本はにっこりと微笑みながら、その場を去っていく。
 それ以来、初心者プレイヤーの中で松本は噂される立場となっていた。
 困っていると助けてくれる修道女――……聖女が助けてくれるようになる、と。
 もちろん、本人がその噂に気づく事はないけれど。


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

TK01/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

松本・太一様

こんにちは、いつもご発注をありがとうございます。
今回の話はいかがだったでしょうか?
気に入っていただけると幸いです。

最近は寒さが増してきておりますので、
お身体には気をつけて下さいね。

それでは、また機会がありましたら宜しくお願い致します。

2015/1/8