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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 望んだ力の代償は ――

 LOSTにて、白虎の力を得て2週間ほどが経った。
 それだけの時間をかけ、ようやく海原・みなもは自分の心が落ち着きを取り戻したのを感じた。
 無意識のうちであっても、力を望んだ代償……それはあまりにも大きすぎた。
 現実世界でもほぼ獣人化しており、このままでは外にも出られないほど。
「……二足歩行が出来なくなるほど、ギリギリまで削られてしまったんですね」
 鏡を見ながら、みなもはため息混じりに呟く。
 二本足で立つと、かなりの窮屈さを感じてしまい、みなもの人間らしさが失われるのが分かる。
「……それでも、まだこうやって考えられるようになったのはマシな方なんでしょうか」
 白虎の力を得てレベル38になり、現実世界に戻ってきた時、みなもは狂乱したように叫んだ。
 ほぼ原形をとどめていない自分の顔、身体、そして……考え。
 普通の食事が出来なくなり、生肉を見て『食べたい』と思ってしまうほどになっていた。
「みなもちゃん、大丈夫……?」
 みなもの部屋を訪ねてきたのは、唯一事情を知る瀬名・雫だった。
 彼女の支えがあったからこそ、みなもは今のように立ち直ることが言っても過言ではない。
「ねぇ、それを食べても大丈夫なの? 生肉だよ? お腹壊しちゃわない?」
 瀬名が心配そうに問いかけてくるけど、みなもは「……大丈夫です」と寂しそうに答える。
「申し訳ないんですけど、今のあたしは普通の食べ物の方がお腹を壊してしまうんです」
 身体の中身すら作りかえられてしまったように、食べ物の好みも変わってしまった。
 生の玉ねぎが入っているサラダを食べたら、死んでしまうんじゃないか、というくらいの嘔吐感が襲ってきて、部屋の中を転がり回るくらいだった。
「普段は自分の力で外見を以前のように見せているのですけど、雫さんの前では術を解かせてもらっています。少しでも疲労感を抑えたいので……それとも、気持ち悪いですか?」
「そんなことないよ! ただ、みなもちゃんが凄く心配なだけ……」
「無意識ですけど、レベル50までを望んでいたのに38で止まってしまいました。恐らくは、あたしがあたしでいられる限界点だったのでしょうね」
「それって、レベル38以上にあげられないってこと? それとも一気にレベルをあげたのがいけなかったのかな……」
 瀬名は大きくため息を吐きながら、みなもに問い掛けるが、みなもはゆっくりと首を振るだけ。
 LOSTの異変は『起こらないと分からない』という非常に厄介なタイプだ。
 強くなれば異変が進む、という知識はあったけれどまさかここまで急激に進むなんて、恐らくはみなも自身も思っていなかったのだろう。
「……これから、どうするの? あれからLOSTにはログインしていないんだよね?」
 瀬名が恐る恐る問いかけてくるけど、みなもはすぐに答えることが出来なかった。
 なぜなら、みなも自身にも『どうするべきか』なんて答えはなかったから。
「今のところ、それに対するペナルティはないんだよね?」
「はい。この2週間は普通に過ごせていますよ。外見はこんなですけど」
 けれど、みなもの中にも不安はあった。
 そろそろ何かのペナルティが来るんじゃないか、と……。
「何かあったらいつでも呼んでよ!? 異変とか、そういうのに関しては手伝えないかもだけど、あたしはいつだってみなもちゃんの味方なんだからね!」
 瀬名はみなもの手を強く握り締めながら告げてくる。
「……ありがとうございます、雫さん」
 恐怖がないわけじゃない。
 いつかLOSTにログインしなければならない日が来る。
 けれど、瀬名のようにまっすぐと『味方だから』と言ってくれる人がいるだけで心の支えになっていた。
(手伝えないなんて、そんなことはありませんよ……雫さんは、そうやってあたしの支えになってくれているんですから、出来ればこれからもそのままでいてほしいです)
 一気に異変が進んだことで、みなもの気力はほとんど落ちている。
 だからこそ、瀬名の存在がありがたく、またとても頼もしく見えるのだろう。
「とりあえず、雫さんに手伝って欲しいことがあるんですが……」
「何? 何でも言って! あたし、何でも手伝っちゃう!」
「……二足歩行で歩く練習に付き合って欲しいんです、術や道具の力を借りて誤魔化しているとはいえ、歩き方までは誤魔化しが利きませんから……」
 みなもが苦笑しながら呟くと「任せて!」と瀬名は自分の胸をドンと叩いて答える。
 この時、みなもはまだ気づいていなかった。
 バッグの中に入れている『ログイン・キー』が淡く輝き始めていることに……。
 この輝きの意味は、恐らくみなもに逃げることは許さない、という警告なのだろう。
 けれど、今は歩く練習をしているので、みなもがその輝きに気づくのは数時間後――……。


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも 様

こんにちは、いつもご発注をありがとうございます。
今回の内容はいかがだったでしょうか?
あと、いつもご感想を頂き、とてもありがたく拝読しております。
中々お返事が出来なくて申し訳ございません。

それでは、また機会がありましたらどうぞ宜しくお願い致します。

2015/1/19