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<東京怪談ノベル(シングル)>


―夢の裏側・1―

 『魔界の楽園』が、オープンβから再スタート! と云うメルマガがみなもの元に届いたのは30分ほど前の事。彼女は過去の苦い経験から、いきなりログインするような真似はせず、安全性の確保は大丈夫かどうかをオフィシャルに問い合わせていた。
 それに対し……

『先日は当方の管理不行き届きにより、大変ご迷惑をお掛け致しました。
 故意に悪意あるプログラムをシステム内に混入させていた犯人はサイバーポリスによって逮捕されましたので、どうぞ御安心ください。
 尚、あの事件に巻き込まれたユーザー様には、特にクローズドβ時代からのステータスをそのまま引き継いだ状態でスタート出来る特典をプレゼントしております。この機会を逃さず、是非にヴァーチャルな世界でのサバイバルをお楽しみくださいませ。

 追伸

 プレイヤー名:海原みなも様につきましては、開発スタッフよりお願いしたい事が御座います。
 下記URLよりアクセスし、開発チームのスタッフルームにおいで下さいませ』

 ――と云う内容の回答が、メール発信から3分も経たないうちに返信され、みなもは『いちユーザーのあたしに、何の用だろう……』と、些か緊張した面持ちでそのURLにアクセスしてみた。

***

「乗り移りのメカニズムぅ? おいおい、それって開発チームが作ったギミックじゃないの?」
「あたしも『わかりません』としか答えられなかったよー。あの人が居れば助けてくれたんだろうけど、良い時に出て来ないんだよねー彼女ってば」
 先のメールにあったユーザー特典によって、神獣レベルも平気で相手に出来るようになったウィザードとラミアが並んで街を歩いていた。以前の無人島は上級ステージとして別の場所に用意され、先ずはスタート地点の『街』から旅立つように調整されているらしい。この街の中での戦闘行為は一切禁じられており、ルールを破った者は強制ログアウトの上、一定期間のアクセス禁止と云う厳罰が科せられる事になっていた。
「でも、確かにプログラムの結果としては不自然だよね。今こうして話しているのも、立体視覚システムとボイスチャット機能が合わさって実現されてるって説明すれば納得なんだろうけど……こうして触れた感覚とかが、妙にリアルすぎるんだよね」
「つっ、つまりぃ、誰が作ったんだか分からない、ブラックボックスがまだあるって事なのかもね」
 前振り無しで手を繋がれ、みなも……もとい、彼女扮するアミラはすっかり赤面していた。尚、今日の彼女は貝殻ブラを選択
してある、所謂オシャレモードであった。つまり、初めから戦闘に参加するつもりは無かったようである。
「あの、帽子かぶった案内役の女の人も、見える人と見えない人が居るんだよね。俺は見える組だけど」
「あたしは……元々、あの人に誘われて鏡面世界に紛れ込んで、このゲームを知ったの。だから順番が逆なのね」
「鏡面世界そのものが、既にミラクルワールドだからね。つまり、アレを通さずにログインしているユーザーは、マイキャラを持ってはいるけど乗り移りは出来ず、コントローラーでプレイしてる訳だ」
 そういえば、あたしはコントローラーでプレイした事ってあまり無いなぁと、みなもは今更ながらに回想していた。アミラを呼び出すパスコードを入力せずにプレイすると、必ずと言って良い程の確率で瞬殺されてしまうのである。
「で、振出しに戻る訳だけど。スタッフも知らないギミックだとすると、ちょっと謎解きしてみたくならないか?」
「うんうん! あたし達が、どうしてキャラと一体化して、キャラの目線で話したり戦ったり……こ、こうして、その……出来るのか、興味あるし」
「いま濁した部分を、20文字以内で簡潔に述べてください」
「あ、う〜〜……いじわるぅ!」
 ぷぅっと頬を膨らませるみなもに、ウィザードは『冗談だよ』と笑ってフォローを入れた。しかし『乗り移り』は、考えれば考える程に不思議なギミックである。乗り移りの出来ない類のユーザーは、この画面もモニター越しに見ているのであり、会話もマイク装備でリアルタイム会話を申し込むか、文字チャットで実現している訳である。リアル体感システム上でキャラと同化できる者と、そうでない者の境界線が何処で引かれているのかすら、未だにハッキリしないのだ。
「そういえば、最初にオープンβがリリースされた時、システムに取り込まれた人ってみんな『乗り移り』出来る人だよね?」
「そうなるかな。じゃなきゃ、マシンの電源切っちゃえばログアウトも何も無い、強制終了が出来た訳だから」
「あたし、あのハッカーの人が怪しいと思うの」
「あ、うーん……そう言えばそうかも。だって、その人って『中にユーザーが閉じ込められている』事を知っての上で、何か妙なプログラムを追加しようとしてた訳でしょ? それは完全に削除したってメルマガには公開されてたけど」
 そう。あの後、ハッカーが仕掛けようとしていたサブルーチンはバグとして隔離された。その内容を開発チームが解析しようとしたが、恐らくは自己破壊の仕掛けがしてあったのだろう。逆アセンブルを掛けた時、既に中身は空っぽだったという。

 先ず、鏡面世界の謎。あのような幻覚を見せ、ユーザーを誘う必要が何故あったのか。
 ふたつ、乗り移りの謎。これはかなり高度な疑似人格システムを構成できないと実現できない。そんな物を、一体誰が作ったのか。
 そして三つ、帽子の彼女の存在。彼女もまた鏡面世界と同様、見えるユーザーと見えないユーザーが居て、ネット上では論争の種にまでなっている。但し、ゲーム・チュートリアルのページを開くと、それらしい外見の『魔女っぽい』女性キャラが登場し、アニメーション画面でゲームスタートまでの説明をしてくれるそうなのだ。
「逆にそれ、見てみたい気がする」
「だよねー、俺らは『疑似人格』と云うか……画面の中で寛いで、話し掛けると返事してくれる彼女しか見た事ないからね」
 ……とか何とか。話は堂々巡りし、結局は的を射ぬまま一時中断となった。だが、一つだけハッキリさせておきたい疑問が、どうしてもあったようだ。それは、『一体化できないユーザーには、自分たちはどのように見えているのか』と云う疑問である。
「考えるより、ご覧じろ……ってか。よし、俺が一回ログアウトして、パス無しの一見ユーザーとして見てみるわ」
「出来たら画面保存してみせてね? パソコンなら出来るよね?」
 OK、と言ってウィザードは姿を消した。そして暫くすると、見知らぬキャラがみなもに声を掛けて来た。それはウィザードのユーザーが乗り移り無しで参加して来た結果の姿だった。
「普通に、知らない男の人に声を掛けられた……」
『君からは、俺がそう見えるのか。画面を通して見た君は、ポリゴンで作られた3Dキャラに見えるよ』
 みなもから見たその返答は、目の前にフリップを出した感じで目の前にウィンドウを浮かべ、その中に文字が書かれている感じだった。そしてウィザードが『乗り移り』で再ログインして来ると、スクリーンショットは撮ったけど、どうやって持ち込んだら良いか分からなかったという回答をして、みなもをガッカリさせた。だが彼曰く『パス無しでログインすれば、君にも見れるから』とキチンとフォローを入れていた。

 さて、折り重なった謎……これを解明する鍵は何処にあるのだろうか……

<了>