コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 失われゆく人の形 ――

「……ふぅ、やっぱり現実世界でも四足歩行の方が楽ですね」
 海原・みなもは苦笑しながら呟く。
 無意識とはいえ『強くなりたい』と願った代償として、みなもの姿は人とは遠くかけ離れた。
 みなもは『水人形』と称した水の人形の中で空間を歪曲させ、その中で四足歩行をしている。少し窮屈だけれど、これで他の人の前では『普通』でいられるからだ。
 みなもの事情を知る唯一の人、瀬名・雫の前でも四足歩行を行ったまま、以前のような感じで見えているはずだ。
「……そろそろ、戻るべきでしょうね」
 チカチカと明滅を繰り返す『ログイン・キー』を見つめながら、みなもはため息を吐く。
 まるで逃げられない、逃がさないと言うかのように『ログイン・キー』はLOSTへ来るように促してきていた。恐らくこれ以上無視を続ければ、みなも自身の命に危険が伴うだろう。
 それだけは避けたいため、これからみなもはLOSTへ行く事を決めていた。
「しかし、この姿ではキーボードを打つことすらままなりませんね」
 獣の手を見ながらみなもは苦笑する。このままでプレイをしようとしても、恐らくキーボードが壊れてしまうだけ。だからこそみなもは『水人形』を使おうと決めたのかもしれない。
(大丈夫。これ以上無茶をしなければ、まだ大丈夫のはずです)
 みなもは心の中で呟く。
 まるで自分に言い聞かせるような言葉だけど、そうでも思わないとみなもの心は平静を保てないのだろう。以前から戻れる道はないと分かっていたけど、今回の件で本当に崖っぷちに立たされているような感覚に陥ってしまったから。
(現実では人として接してもらえた、恐らくこの姿のあたしが『普通』なのだと『ログイン・キー』は周りの人間の記憶改竄を行っているんでしょうね。現実世界にさえ影響を及ぼす『ログイン・キー』……これは誰が何のために作った物なのでしょう)
 考えても分からないことばかり。ひとつの謎に追いついたと思えば、また引き離すかのように新たな謎を突き付けてくる。これに終わりがあるのか、とみなもはゾッとしていた。

※※※

「みなもちゃん!? もう、こっちに来て大丈夫なの!?」
 LOSTにログインすると、瀬名が慌てたように駆け寄ってきた。
「はい。これ以上先延ばしにする事も出来ませんから……」
「みなもちゃん……」
 ゲームのキャラクター越しとはいえ、みなもがどんな決意を持っているのか瀬名にも伝わる。
「それに戦い方などが、どのように変化しているのかも見てみたかったので」
 みなもは苦笑しながら呟き、ふたりはそのまま戦闘エリアへと移動をした。
「初期装備のままだけど、この辺の敵になら余裕で勝てるはずだよ。あたしもよくは分からないけど……その職業、実際に見るのは初めてだからね」
 瀬名も苦笑しながら答える。
 そして、2匹の雑魚敵が出現して、みなもは戦闘態勢を取る。
 みなもの戦闘コマンドには『戦う、防御、技、アイテム』の表示がされていて、どんな技があるのかを実際に使って確かめてみる事にする。
「白虎・咆哮牙」
 みなもが技を選択して使用すると、激しい咆哮が音の刃となり敵を切り裂いた。
「わぉ、瞬殺……」
 それを見ていた瀬名も驚きを隠せないようで、しばらくメッセージが途切れてしまう。
(これなら、ある程度の敵に勝てるかもしれない。無理をしない程度に装備や技を集めていけば、いつかこのLOSTの異変を解決する際に役に立つはず)
 みなもは自分の手を見つめながら、グッと唇を噛む。
「みなもちゃん! もう少ししたらイベント祭が始まるから、その辺を回ってみるのもいいかも。レアな装備や召喚技とかのアイテムも景品になるって噂があるんだ」
 瀬名の言葉を聞き、みなもは静かに頷く。
 みなもが強くなっていくさまを『ログイン・キー』を通じて見ている者がいた。
「そう、強くなって。強くなってわたしの願いを――」
 少女はそれだけ呟くと、酷く嬉しそうに微笑む。
 みなもが強くなっていく事、それが良い事なのか悪い事なのか――……まだ、誰も知らない。

―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回の内容は如何だったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていれば幸いです。

それでは、また機会がありましたら宜しくお願い致します。

2015/2/4