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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


二人とも、とっても素敵なお人形。

 今回は。

 別世界よりこの東京に異空間転移して来た紫の翼を持つ竜族――の本性を持つファルス・ティレイラが、今居るこの世界で生業としている「何でも屋さん」として引き受けたお仕事の話から事が始まった。

 ティレイラが受けたその「お仕事」の依頼人は、様々な効力を具えた魔法人形と関連グッズ…の類を売る店の女店主。曰く、この後に自分の店の店番の手伝いを頼みたいとの話で、ティレイラは魔法の師匠であり姉同然の関係性な同族でもあるシリューナ・リュクテイアにもその件について話す事をしていた。…場所はシリューナが営む魔法薬屋で――これまたシリューナのお手伝いをしながらの雑談がてら。…もう暫くしたら、ティレイラはその女店主さんのところに出向くと。…まぁ、だからこそその場でそんな話になった――雑談が、その件を話す流れになったとも言えるのだが。
 ともあれ、そんな話を聞かされたシリューナは、おや? と思いその女店主の名前や店の名等の具体的な情報もティレイラに確かめてみる。と、案の定、シリューナにも心当たりがある相手。…趣味嗜好が近いと言うか同じ「同好の士」と言えるちょっとした知り合いである。
 それも、偶然ながらシリューナの方でも当のその女店主にちょうど用事があったところ。その旨シリューナが伝えたら、ティレイラの方でもその偶然にちょっと驚いた。…凄い偶然ですね〜、と軽く感嘆、それから少し考えて、じゃあ、折角だからお姉さまも一緒に行きますか? と軽い気持ちで持ち掛けてみる。
 持ち掛けられたシリューナは、そうね、と軽く受け合った。そして、魔法薬屋の店の方は今日は早仕舞い。…今日は店の方で特別な事情は特に無かったのでそれでいいやと言う事になる。

 魔法薬屋の店仕舞いの後。二人連れ立って魔法人形屋さんの店に着いた時点で、待ってたわー、とばかりに女店主に歓迎されるティレイラ。曰く、今日はこれから予約の品を引き取りに来るだろうお客さんが多く、その上に自分も別件で色々と用事が出来てしまい、急遽お店番の人手が欲しかったのだそう。…ちなみに、シリューナの用事と言うのもその「出来てしまった用事」の内の一つに含まれていたらしい。
 シリューナの方は何やら女店主と軽く話をしていたかと思うと、二人で一度店の奥に引っ込んで――暫くの後、二人してまた店表に戻って来る。それで用事は済んだらしく、シリューナはそのままゆったりと休憩の構え。女店主に言われてティレイラはそんなシリューナに紅茶を用意し、他の来客用にも紅茶を淹れたりする事になる。…そう、これもまたお店番のお仕事の一つ。お待ちしているお客さまへのおもてなし。



 …そして結構時が経ち。
「予約の品を引き取りに来るだろうお客さん」への対応も恙無く終え、店主さんの「別件で出来てしまった色々な用事」の方も粗方済んで目処が付いた時点で、魔法人形屋さんは漸く店仕舞い。やっと店が閉められ、お手伝いを頑張っていたティレイラは、はぁ、と一息。
 ティレイラにしてみれば店番自体は慣れている仕事の一つではあるのだが、今回の場合はお客さんが引っ切り無しに来ていた感じで少々忙しかったので、さすがにちょっと疲れもする。
 疲れたところで、ティレイラの方もシリューナ同様、紅茶とお茶菓子を頂いてちょっとブレイク。お疲れ様との労いとと共に、ほっこり和んでささやかな喜びに浸って、暫し。

 そんな中、これまたささやかなお礼として、興味があるなら店のバックヤードを――奥の部屋を案内すると女店主が提案してくれた。言われ、わ、いいんですか? とティレイラは嬉しそうな弾んだ声を上げている。…元々、店番の最中に垣間見えた諸々の品々――魔法人形やその関連商品はどれも可愛かったり綺麗だったり面白そうな効力がありそうだったりととても興味深かったので。…特に見せて貰えるならもっと見たい。店表に出してないものとなったら、もっと色々な素敵なものがたくさんあるかもしれない。そう、お姉さまとのお付き合いもあるくらいのひとだし――余計に期待もしてしまう。
 ティレイラのそんな様子を見てかそれとも元々その気だったのか、シリューナの方でも、いいわね、とすぐに肯んじて同行を申し出た。
 そして――ティレイラとシリューナは、二人一緒に奥の部屋へと案内される事になる。



「はわ〜、凄いですね〜」
「あら。このくらいで凄いなんて言われてもね」
「でも。貴方も褒められて悪い気はしないでしょう?」
「それは勿論。…でもまだまだなのよ本当に」
 コレクションも商品も。
 真面目な話、今は理想の陶器の人形を探しているところなのだけれど…全然見付からなくて困っているの、と何処か悩ましげに女店主。これだけ色々と揃える事が出来ても、まだまだ理想には遠いらしい。

 案内された奥の部屋。倉庫兼でもあるその場所で、ディスプレイも考えて保管されている人形や関連商品が三人を迎えている。それらの品々を一目見た時点で、わああ、とティレイラはまた感嘆。見ていて気持ちいい程に、本当に嬉しそうに態度に表して喜ぶ姿。そんな姿を見せ付けられれば――素直で純粋な感嘆を見せ付けられれば女店主の方でも悪い気はしない。
 そして幾つか自慢の品を紹介した後、女店主は――もっと色々好きに見て回っていいわよ、とティレイラに自由行動のお墨付きを与えてくれた。有難う御座いますっ! とティレイラの方でも女店主にきちんとお礼。そうしてから、素直に御言葉に甘えてあちこち興味の赴くままに――興味を惹かれたところから次々と見て回ってみる。
 座っているぬいぐるみに近いもの、クラシカルなドレスを纏った陶器の人形、純和風な市松人形的なもの、等身大の蝋人形。…大小種類お国柄も様々、改めて見ると本当に色々ある。人形用の服飾小物に細かい小道具、ドールハウスや箱庭等まで揃えられている――ドールハウスや箱庭の中にはまた別に見合った人形が設置されていたりもする。ティレイラはそのセッティングの絶妙さや細工の素晴らしさに感銘を受け、お姉さまお姉さま見て下さい凄いです! と興奮してすぐシリューナを呼び付けたりもする。

 …そんないつも通りの姿がまた、可愛らしい。

 シリューナは微笑ましくそう思う。シリューナにしてみれば興味の赴くままくるくると目を輝かせて動きまわるこんなティレイラの姿は、決して珍しい事では無い。無いが、そんないつも通りの姿は――くるくると変わっているからこそ、可愛らしさがより引き立つものでもあって。シリューナにしてみれば、こうしているティレイラに一瞬として同じ姿は無い。「いつも通り」と言っても、その一瞬一瞬は常に違う可愛らしさが表に出ているので、見ていて飽きない。飽きないどころか、見れば見る程、もっと眺めて、愛でたくなるくらい。
 こういっては悪いけれど、ここに揃っている魔法人形より、ティレイラ一人の方がずっと可愛いとすらシリューナは思っている。…口には出さないが。…まぁ、こうしている時点で、女店主もティレイラの可愛さには気付いているだろうとは思うけれど。

 …ほら、実際に女店主もティレの姿を目で追っている。



 暫し後。

「?」

 見付けた時点でまずそう思う。今ティレイラが見付けた「それ」は――人形用では無く人間用だろう本当に着られそうな、着られるようにきちんと仕立ててあるように見えるドレス。それも、傍らに置かれた小さな陶器の人形が着ているのと同じデザインの、まるでそのまま再現されたような形のドレスで。
 ティレイラはその人形とドレスを暫しじっと見比べる。そして――うん。と頷くと、そのドレスを手に取った。

 …着てみたい。

 同じドレスを着た人形の可愛さから、そんな好奇心が芽生えたティレイラ。伺いを立てるようにシリューナを見ると、シリューナは柔らかく頷いた。それを受け、嬉しそうに頷くとティレイラはそのドレスを身に纏う。
 それから、まずは縮尺の違う同じドレスを着た人形と同じポーズを取って見せ、そこから、手を伸ばして、くるりとターン。ドレスにふんだんにあしらわれたドレープとフリルを空気で膨らませるようにして、可愛らしく舞う姿をシリューナに見せる。
 舞いを終えると、お揃いの服を着た人形に合わせた仕草でティレイラはシリューナに一礼。優しく見守ってくれるその姿に、ティレイラは、わーいお姉さま、とばかりに抱き付いて甘えている。満足そうなその姿。…確かに可愛いとシリューナのみならず女店主も思う。思うが――それとこれとは別の話。

 今のティレイラの行為は、実は少々危ない。
 女店主としては、そう忠告すべき――なのだが。

 言い掛けた時点で、声が止まった。…このまま黙って見ていたらどうなるか。女店主としてはそっちの方に興味が湧いてしまった――のかもしれない。このドレスの効果が、どう表れる事になるか。ティレイラの――シリューナも含める事になるかもしれない。いや、このドレスの場合は――シリューナの方をメインと考えてもいいか。何にしろ、とにかく、「この先」が見てみたい。
 そんな欲求に負け、女店主は開き掛けた口を再び閉じる事を選んでしまう。

 と。

 楽しそうな二人の間から、不意に、ぴしり、と乾いたような硬い音がした。正確にはティレイラに近い方――ティレイラ自身から、だったかもしれない。一度そんな音が響いたかと思うと、続いて、また、ぴしり。だんだん音が鳴る間隔が短くなり、ぴしり、ぱしり、めきりと何か硬質の物体がぶつかるような音が連続し始める。
 同時に、ティレイラの纏っているドレスが――陶器の塊に変化し始めていた。それこそ、今響いている音を出すのが相応しいような材質の物体に変化して行くのが見ていてわかる。そしてそんなドレスの不自然な変化に巻き込まれるようにして、ドレスを纏っている当人であるティレイラも、そんなティレイラに抱き付かれていたシリューナの身体さえも同じ陶器の塊に変化し始め――二人は慌てて離れようとした。が、間に合わない。固まる方が先で――離れようとしたその時にはもうお互いの腕まで固まってしまっている。
 どうするべきか――その時点でティレイラのみならずシリューナも考えはしたが、考えを巡らせようとしたその時にはもう、完全に陶器と化していて。考えるより固まる方が速くて。最後には、硬質な物体が激しくぶつかるような音を響かせながら、あっと言う間に『等身大の陶器のお人形』が完成してしまう。

 そんな二人の出来上がりを見、ほう、と感嘆の息を吐く女店主。

 こうなれば、忠告しなかった甲斐があった、と言うもの。…今ティレイラが着ているこのドレス。高い魔力を持っている者程美しい硬質な陶器の塊になる効力が付いている。即ち、着ている者、すぐ側で触れている者にそれなりの魔力がある場合、まるで人形の如く変化させてしまう、と言う事にもなる。
 そして今、ちょうど女店主が求めていたのは――『理想の陶器のお人形』。
 ティレイラがこのドレスを纏っているのを見た時点で――シリューナに抱き付いたのを見た時点で、これはひょっとするかも、と期待してしまったのは責められまい、と思う。…元々「同好の士」であるシリューナなら、そしてこれだけここにあるものに興味を持ってくれるならティレイラもまたきっとわかってくれる筈。思いながら、女店主は陶器人形と化したシリューナの頬を指先でそっと触れる。硬質で滑らかな触感。そのまま指を滑らせるようにして、両手で頬を包み込んでじっくり鑑賞。
 その素晴らしい感触に、女店主はまた、嘆息。やっぱりさすがの魔力ね、とシリューナを称えながら、今度はティレイラの方にも視線を流す。そちらにも指を伸ばして、頬をひと撫で。さすがにシリューナには劣るけど、悪くないわねとこちらも値踏み。…二人とも、とっても素敵なお人形。

 やっと手に入った、最高級の『理想の陶器のお人形』。勿論、ずっとこのままと言う訳にも行かないけれど――これ程のものを碌に愛でる事も無くすぐに戻してしまうのも勿体無いし、こうなったなら実際に利用出来る用途もある。
 なら、やる事は決まっている。

 …ごめんなさいね、と予め謝罪。
 陶器と化した二人に悪戯っぽく謝るだけ謝りつつも、女店主としてはどうしても嬉しい方が先に立つ。



 …それから、暫くの間。
 この女店主の魔法人形と関連グッズを売るお店では。

 ショールームに、極上の出来と言える二体の陶器の人形が飾られている事になる。

 勿論、非売品。
 公開も期間限定。…今だけの機会。鑑賞に来るなら、お早めに。

【了】