コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


―― ひかりのきざはし ――

「……解放の珠、ですか」
 先日、海原・みなもが入手したのは呪いを解くというアイテムだった。
 みなもは『獣の証』という呪具を所持しており、それを装備すれば各種パラメーターが上昇するがアイテムが装備出来ず、また使用も出来ない。挙句の果てにNPCからはモンスター扱いされてまともにクエストも受けられなくなるという代償もあった。
「みなもちゃん、それに『解放の珠』を使うの?」
 瀬名・雫が首を傾げながらみなもに問い掛けてくる。
「はい。これを新アイテムにすればどんな効果が得られるのかが気になってしまって…」
 元々が効果の高いアイテムだけに、どんな物に変わるのか瀬名自身も気になっていた。
 けれど、みなもが失う代償の事を考えれば気軽に『使ってみれば?』なんて言えなくもあった。
「大丈夫かなぁ、ちょっと怖いんだけど…みなもちゃん、大丈夫?」
 瀬名は不安そうな表情を浮かべながら、ちらり、とみなもを見つめた。
「心配してくださってありがとうございます。でも、あたしは大丈夫ですから」
 みなもはにっこりと微笑みながら言葉を返す。強くなる事、それは即ち侵蝕が強くなる事。怖くないと言ったら嘘になるだろうが、心配してくれる瀬名がいるからみなもの心は支えられている。瀬名は自分が思っている以上に、みなもを支えているのだけれど本人は気づいていないらしい。
「それじゃ、使いますね……!」
 みなもはアイテムから『解放の珠』をクリックして『獣の証』に使用する、を選んだ。
 すると画面がカァッと真っ白に輝く。
「……っ!?」
 みなもが驚いていると、画面には『魔獣の証を入手しました』という文字が表示されている。
「雫さん、この『魔獣の証』ってアイテムの事を知っていますか……? アイテムの名前的に、更に物騒になっているような気がするんですけど……」
 みなもが苦笑気味に呟くと「あ、あたしも知らないアイテムだ……」と瀬名が答えてくる。
(雫さんも知らないとなると、これはかなりのレアアイテム……という事になるんでしょうか)
 瀬名はレアアイテムを結構保持しており、超難関の特Sランクのアイテムさえ持っている。
(アイテムランクは……ふ、不明? レアなのかそうでないのか、いまいち分かりませんね)
 みなもは首を傾げながら、とりあえず装備をしてみようとカーソルを装備に合わせた。
「みなもちゃん!? ま、まさか装備するつもり?」
 瀬名が驚いたように問いかけてきて「はい。解放の珠のおかげで呪いは解けているはずですし、新たに呪われているとも思えませんから」とみなもは言葉を返す。
 解放の珠以外で入手したアイテムならば躊躇いがあるけれど、今回は呪いを解くアイテムによって生み出された物だから、みなもは多少の安心があった。
「そ、それはそうだけどさ……」
 瀬名はハラハラしながらみなもが『魔獣の証』を装備するのを見守る。
「あ……」
 魔獣の証を装備すると、みなものパラメーターがかなり上昇した。その上昇率は獣の証の比ではなく、特別スキル『共食い』というものまで自動的に覚えていた。
「と、共食い? 何でしょう、このスキル……」
 スキルの説明を見ると、モンスターを食らう事で体力を回復するというものだった。
「とりあえず、戦闘をしてみましょうか? 使ってみない事には分かりませんし……」
 みなもの提案で町近くのフィールドで戦闘をしてみる事にした。

※※※

「……どうだった?」
 もちろん、瀬名もみなもの戦闘シーンは見ていた。
 だから効果は瀬名自身も分かっているのだが、瀬名が問いかけているのはそういう事ではなく、みなもの体調などの変化についてだった。
「特に変化はありません。結構使えるアイテムだと思いますよ。ですが……」
 みなもは苦笑しながら言葉を続ける。
「……モンスターを食らって体力を回復する。既に人間以外の何かになった気分です」
「みなもちゃん……」
 寂しそうに微笑むみなもに、瀬名は何も言えなかった。
 その後、瀬名と共に町に入るけどモンスター扱いはされず、普通のプレイヤーと同じ扱いを受ける事が出来ていた。
(これで回復薬などには困りませんけど、装備には困るんですよね……)
 現在所持している装備は今のみなもには合わず、回復薬も『人間』に合わせられたものなので効果も薄い。
 だから『共食い』のスキルを怯えたのは幸いだったのかもしれない。
(……強さを求めて『人間』を捨てるか『人間』にこだわって、弱いまま命を捨てるか……究極の選択とはこういうものを言うのかもしれませんね)
 目の前を歩く瀬名を見つめながら、みなもはキュッと唇を強く噛んでいた。
 どんな感情で唇を噛んだのか、それはみなもにしか分からない。
 普通のプレイヤーはLOSTで遊んでいるけれど、みなもだけはLOSTに遊ばれている。
 そんな感覚に陥っていた――……。


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様

こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます。
今回の内容はいかがだったでしょうか?
人としてか、獣としてか、みなもちゃんの葛藤を
上手く表現できていればいいな、と思います。
気に入って下さる内容に仕上がっていればうれしいです。

それでは、また機会がありましたらご発注お待ちしております。

2015/4/2