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<東京怪談ノベル(シングル)>


闇に潜む色は、華
「遅くなりました」
 最後の一人、水嶋・琴美(8036)が着席するのを確認すると、リーダーが今回の任務について説明を始めた。
 今回、琴美達に課せられたのは、とある国際テロ組織の殲滅と同時に長年尻尾をつかませなかった黒幕の暗殺という仕事であった。

(少々厄介な相手ですね……)
 リーダーの説明を聞きながらそう琴美は、思った。


 今回の暗殺対象は、少々厄介な立場の人間であった。
 表の顔は、紛争地域で活躍する国際医療ボランティアで有名な医師であり、
 国際的な平和賞の受賞者候補にも名が挙がっている人物であった。

 裏の顔を知らぬ支援者は、欧米の富豪や大企業のみならず、国内外の有識者が多くいた。
 彼らの立場を考え、善良な仮面をつけたまま表舞台から消えてもらうのを、各国は妥当としたが、
 紛争地域の病院から出てこない医師を長年排除するに至らなかった。

 そんな用心深い医師が、急にテリトリーから出てくる事なった。
 善良なる日本人支援者の一人が、講演をオファーしたのだ。

 講演会は、彼の活動資金を集めるのと同時に新たな共鳴者を集めるのに向いていた。
 多くの日本人にとってテロは、国内の話ではなく、遠い国での話である。
 医師も欧米に比べ、出歩いても命の危険が少ない。
 そう判断したようであった。

 この報に沸いた各国は、こぞって日本にエージェントを送り込む事を望んだが、拒んだのは、政府であった。
「自国内の琴は、自国で」
 そうは言っても公安や内調が動けば、ハイエナ以上の嗅覚を持つマスコミが嗅ぎつけるだろう。
 見えないものは、見えないもので処理するのが一番である。


 ──斯くして琴美の所属する特務統合機動課に命が下ったのだった。



 ***

 ターゲットが宿泊するのは、講演会場から近いという理由で繁華街の中にあった。
 人知れず暗殺を行うには向かない、用心深い黒幕の為に相応しいホテルであった。

 外部からの狙撃ポイントは、皆無であった為、テロリスト達を倒すには、直接乗り込むしか方法がなかった。
 問題は用心深いテロリスト達が、ホテルに入ると同時に爆薬を仕掛けていた事だろう。
 敵が何処にいるかは、最新装備を使えばすぐに判る事である。
 爆弾は、事前に解体すれば敵にこちらの動きを察知されるであろうとし、別班が琴美の行動に併せてホテルに突入。
 客は、火災発生という事で退避させ、その場で解体という段取りになった。


 ──屋上で待機する琴美のインカムに、場所が特定できたと仲間から連絡が入った。
 繁華街のネオンが、降下の準備をする琴美を照らし出す。
 琴美の戦闘服は、黒の首から下の全身の魅力的なボディラインを浮き出させる黒のラバースーツ。
 編上げの膝下までのロングブーツを履いていた。
 鍛えられた筋肉を女性らしいボディラインを保つ脂肪が被う。
 艶めかしく上を向いた双丘を描く胸。
 ビル風にパタバタと霹くミニの黒のプリーツスカートを通しても判る肉感的な尻のライン。
 その官能的な姿にサポートの男の目が釘付けになっているのを無視して琴美は、言った。
「風が止む10秒後に行動を開始します。10、9、8……4、3、2、1」
 琴美が言ったように、きっかり10秒後に止んだ一瞬を逃さず、琴美は垂らしたロープで音もなくホテルの外壁を降下した──。


 ──窓から無人の部屋に侵入した琴美は、素早く周囲を確認した。
 爆弾と言う保険に油断しているテロリスト達は手間を惜しみ、使用しない部屋にトラップを仕掛けていないようであった。
 音を立てぬよう注意を払い、ドアに張り付いた琴美が細く開けた隙間から通路を覗く。
 仲間の連絡通り、目的のドアまで5人の男が立っていた。
 ジャケットの不自然な膨らみから全員が銃を携帯しているのが、判った。
 黒幕がいる部屋の中には、黒幕の他に2人いるという報告であった。
(……合計8人)
 身を隠す所は、通路上にない。
 琴美が、ちらりと時計を見た──と、同時にジリジリと大きな音を立てて火災警報器が激しく鳴り響いた。
 一瞬の隙を確認した琴美の行動は、素早かった。

 影のように走り、音もなくテロリスト3人の首を切り裂いた。
 喉を切られた男達は、自分の身に何が起こったか判らぬ内に死んだだろう。

 残り2人が銃を琴美に向け、応戦する。
 ポイントを固定されるよう左右に細かく位置を変えながら接近する琴美。
 狙って放たれる弾丸を、琴美は風を使って軌道を変え、紙一重で避けていく。

 大柄のテロリストが、何かを叫んでいた。
 琴美は、そのまま壁を駆け上がり、その反動を利用して護衛の頭に踵落としを決める。
 床に音なく着地した琴美が、棒立ちの男の襟を掴み、そのまま足を引っかけ全体重をかけて男を床へと引き倒す。
 受身が取れず、脳震盪を起こした男に素早く止めを刺した。

「遅いですね」

 発砲を繰り返すもう一人の護衛の背後に回り込み、首をへし折る琴美。
 行動を開始して数秒の出来事である。

 異変に気づいた部屋にいた敵の護衛が、通路に飛び出してきた。
 続けざまにバンバンと琴美に向かって銃を発砲した。
 琴美が投げたナイフを避ける敵の間合いに入り込み、手首を斬る。
 激しく動脈から噴出す血にひるんだ隙に一人は腹を断ち、もう一人は顔を横に斬り裂き戦闘不能にした。

 手を捻りナイフに着いた血を振り落とす琴美の背中に、パチパチと拍手をするものがいた。
「Brava! 実に惚れ惚れとする鮮やかなナイフ捌きだ」
 ターゲットの医師であった。
「右手には、揮発性の高い可燃性の薬品。瓶が割れれば、この廊下は一瞬で火の海。左手には、爆弾の起爆装置。
 さて、セクシーなお嬢さん。お好みの死に様は、どちらかな?」
「あなたのフラグは、効きません。爆弾は、仲間が解体しています」
「それは、この階以外の事だろう? この階が丸ごと吹っ飛んで、建物が真ん中から折れたらどうなると思う」
 医師は、肩をすくめて見せた。
「『やると決めたら徹底的に』ってのが、持論でね」
 琴美を見つめたまま医師が、言葉を続ける。
「……で、どっちにする?」
「どちらもお断りです」

 琴美が駆け寄るのを見て、医師は瓶を手から離した。
 落下する瓶に向かって、床に体を倒し滑り込んでいく琴美。
 床に瓶がぶつかる瞬間、掌で受け止めた。

 一瞬が、琴美にはスローモーションのように見えた。
 医師が瓶を離した右手を懐に差し入れ、銃を取り出そうとしていた。
 その手を足で蹴り上げる琴美。
「くっ!」
 医師の指が、スイッチに掛かる。
「させません!」
 琴美の短い叫びと共に風の千の刃が、医師を斬り裂いた。
「Bra…va……そうで…な、く、ては…」
 息絶えた医師の手からスイッチを取り上げる琴美。
 スイッチを入れると壁に赤いビームが、ポイントされた。
「ペンライト……」
 間一髪拾い上げたピンの蓋を開け、匂いを嗅ぐ。
「こっちは、香水ですか……やられましたね」
 血溜まりに青いドレスで倒れこむ医師に静かに見つめる琴美。
「私は、あなたが何故、人の道を外れ、狂気にかられたのか理解しようとも、理解したいとも思いません。
 ただ一つお尋ねしたいのは……あなたの死に様は、あなたの満足するものでしたか?」
 そう言いながら女の上にシーツをかける琴美──。




「こちら、水嶋。任務完了しました」
 琴美は、報告を待つリーダーに短く任務完了を告げた──。



 了