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<東京怪談ノベル(シングル)>


強かな彼女は二文字を知らない(3)
 目的が不明瞭な武装団。その正体は恐らく、強化人間だ。
 彼ら……否、彼らを作り上げた者の目的は、技術で強化された人間達の性能実験だったのだろう、と琴美は考える。
 彼女は無線で本部へと連絡を取った。澄んだよく通る声で、琴美は情報部を呼び出す。
 性能実験……琴美の予想が合っていれば、必ずいるはずだ。実験の経過を見るために、先程の戦いを監視していた者達が。
「警察以外で武装団を監視していたチームがなかったかどうか、衛星で捜索なさってください」
 故に、彼女はそんな指示を出す。了承の声を返す情報部に、琴美は「お願いしますわ」と言葉を添えた。
 無線を一度切り、女は深呼吸するように大きく息を吐く。優しくも強い彼女の表情は、いつになく険しい。人を人と思わぬ悪趣味な人体実験に、彼女の中で怒りの炎がくすぶっていた。
 まだ見ぬ彼らに告げるように、琴美は小さな声で呟く。
「逃がしませんわよ、決して」
 程なくして、琴美の無線に連絡が入る。
 相手は、先程琴美が指示をした情報部の者だった。

 ◆

 闇に身を潜め、彼らは音もなく走る。
 しかし、ある場所で不意に彼らの足は止まった。目の前にある壁が、彼らの行く手を塞いでいたからだ。
 らしくないミスだ。先程追手の強さを見たばかりだから、焦ってしまったのだろうか。それとも、追手である『彼女』にいいように誘導されてしまったのか。
「残念でしたわね。そちらは行き止まりでしてよ」
 こつん、とブーツが地を叩く小気味のいい音がした。彼らの背後へと降り立ったのは、スーツ姿の女だ。
 振り返りその姿を視認した者は、息を呑む。彼女……水嶋・琴美の魔性の美しさに、見惚れぬ事は難しかった。

 琴美の予想は、当たっていた。
 衛星で捜索したところ、巧妙に隠れながらも施設を監視していた者達を発見する事に成功したのだ。
 相手も手練だ。すぐに自分達の存在が琴美達にバレた事に気付き、その場から逃走を図ろうとしたのだが、風のように駆ける琴美から逃げきる事は敵わなかった。
 彼らを追い詰める事に成功した琴美は、聖女のように美しく、それでいて凛とした笑顔を浮かべ問いただす。
「貴方様方は何者ですの? 強化人間を作り出した目的は何でして?」
「……」
「黙っているならば、無理矢理聞き出しますわよ?」
 先程、琴美の戦いを見ていたのだ。彼女と対峙したら敵わない事など、彼らだって分かっているはずだ。だというのに、彼らが口を割る気配はない。
 そのプロとしての根性は賞賛に値するが、こんなところでいつまでも睨めっこしているわけにもいかない。琴美は内心溜息を吐きながら、話を続ける。
 落ち着いた巧みな話術で相手から情報を引き出そうとしながらも、琴美は彼らの様子を注意深く伺っていた。
 見覚えのある顔は、一つもない。
 あれ程の数の強化人間を作り出すという事は、裏に大きな組織がついている事は想像に難くない。恐らくバックについているのは、何らかの企業だろう。
 特務統合機動課の仕事は、暗殺や敵のせん滅だけではない。情報収集や潜入等の仕事も得意としている。優秀な隠密が何人もおり、任務のために日々飛び回っている。ありとあらゆる情報が、機動課には集まっているのだ。
 企業についても、粗方調べつくしてある。怪しい動きのある企業や、脅威になる恐れのある企業はチェック済であり、琴美もそれらの企業についての情報はしっかりと頭に入れてあった。けれど、今目の前にいる彼らは、そのどの企業の者でもなさそうだった。
 よっぽど上手く隠れている企業なのか、それとも、こちらがまだ調べあげる段階まで行っていない程最近作られたばかりのところなのか。
「そういえば、最近立ち上がったばかりの企業がありましたわね」
 その新興企業については、未だに明確な情報は入ってこず、何をしている企業なのかは明らかになっていなかった。
「確か、――――」
 琴美がその企業の名前を口にした瞬間、初めて相手の表情に動揺が走った。
 それはたった一瞬の事であったけれど、琴美が見逃すはずもない。
 ――ビンゴだ。
 彼女の艶っぽい形のよい唇が、綺麗に弧を描いた。