 |
とある日常風景 − お花見延期警報中 −
１．
「春は暖かくて、お風も良い香りで‥‥チカ、この時期のお散歩大好き〜」
頭の上に、黒兎の静夜を乗せ日課の夜の散歩を満喫中。千影（ちかげ）はこれまた日課の草間興信所に立ち寄ると深刻そうな顔して話す所長草間武彦の姿を見つけた。
春なのに桜が咲かない。そんな事がこの街で起こっていた。
宴会好きの誰かが言った。
『こんなおかしなことが起こるのは、きっと妖ｋ‥‥オカルトに違いない』
オカルトと言えば草間興信所。そうして草間興信所に集められたメンバー。
『どうにかしてこの原因を追究して、桜を咲かせて欲しい』というのが所長である草間からの頼みだった。
「桜が咲かない‥‥それは問題だね‥‥。龍兄はどう思う？」
八瀬葵（やせ・あおい）は無表情のまま、そう言った。
「さぁな、歌えばいいんじゃないのか」
八瀬に話題を振られ龍臣（たつおみ）・ロートシルトは面倒臭そうに答えた。実際に面倒くさい。
「！？ そう言えば、今年は桜がまだ咲いていないなぁ‥‥」
ちゃっかりとメンバーに入った千影は今通ってきた道を窓から見下ろして納得した。そうか、この季節に桜が咲いていないのは変なことだったのだ。
「時期も時期やからね。早いとこ咲いてもらわんと困るな」
セレシュ・ウィーラーは頷いてそう言った。
「俺、タイミングのいい時に来ちゃったな‥‥まぁ、俺でよければ力貸すよ」
たまたま寄っただけのフェイトとそのフェイトを追っかけてきたルージュ・紅蓮（ぐれん）。
「困りごと？ 困ってる人は助けてあげる。お礼はスイーツでいいわよ」
「無事桜が咲いたら‥‥報酬は、わかってんな？」とニヤリと草間。
「お弁当作って待ってますね」とニコリとその妹・草間零が微笑む。
藤堂皐（とうどう・さつき）はバーから持ってきた品を零に差し出しながら言った。
「試作品のおつまみですが、よければその時にでも一緒に食べましょうか」
そうして、各自が桜のために動き出す‥‥！
２．
外に出て、四方に散っていくメンバーたち。千影は草間の腕を引っ張って窓から飛び降りた。
「れっつごー！」
「うわぁぁぁぁぁぁ！！！！」
勢いよく街に飛び出し、まずは情報収集だ。
「武彦ちゃん。そうさのききこみは大事なことなんだよ？」
「そ、そんなことは知ってる。知ってるけどな‥‥！？」
草間の言葉は続かない。それもそのはず、千影が通るのは普通の道ではない。
廃墟の割れた壁の穴を通り抜け、塀を越え、屋根伝いに道無き道を行く。気分は忍者！
「道じゃねぇ‥‥これは道じゃねぇ！」
「近道、近道♪ 急がば回れっていうでしょ？」
くるんと前転、見事に着地！ 引きずられる草間は危うく転倒しかける。
「それは違う！ お前の言ってる意味は絶対違う！」
「もー、武彦ちゃんはわがままだなぁ〜」
草間の文句は一切気にせず、千影は笑顔で駆け抜ける。
だってししゃもが待っているんだもの！ 冷蔵庫に眠っているチカ専用のししゃもが！！
千影は時折、人外の作ったあやかしの道に入り込んでは人ではないものからも情報を集める。それは知り合いのあやかしや顔見知りの土地神であったりした。
「にゃーお？」
そして何よりも路地裏の猫たちはよくものを知っていた。
美味しいご飯をくれる家‥‥の話ではなく、桜の咲かぬ冬の街のどこかにある温かな場所の噂話。
「おまえ、いつもこんなことやってるのか？」
草間に問われ、千影は楽しげに答える。
「楽しいことはみんなで知っておいた方がずっとずっと楽しいもん♪」
楽しいこと情報網‥‥もとい、独自の人外情報網は千影の強力なネットワーク。
「桜並木だって、武彦ちゃん！ 人外の女の子が泣いてるんだって！」
そう言って、さらに草間を引っぱり飛び跳ねていく千影だった。
３．
千影の言う通り、桜並木の通りに小さな女の子が泣いて立っていた。
「どうしたの？ 春の妖精さん」
シクシクと泣く女の子は千影に声を掛けられると、ビクッと肩を震わせた。
「千影。この子、普通の人間にしか見えないぞ？」
「ちっちっ。甘いなぁ、武彦ちゃんは。よぉく見て？ 向こう側が見えるでしょ？」
千影の言葉に草間が目を凝らす。確かに、女の子はその姿の向こう側がうっすらと透けて見える。
「‥‥マジか‥‥」
草間がやれやれと溜息をつく。女の子はオロオロとしている。
と、桜並木の向こうから、どこかで見た２人組を見つけた。
「あれっ、偶然だね♪」
「おまえたちもコイツに行きついたのか」
八瀬と龍臣だ。２人は千影と草間と女の子を順番に見た。
「‥‥泣かせたの？」
八瀬がそう訊くと草間は全身全霊を込めて否定した。
「俺が！？ まさか！」
「武彦ちゃんは泣かせてないよ。むしろ、泣きやませに来たんだよ。チカとね」
可愛らしくエッヘンと胸を張った千影。
「この子は情報網を駆使して見つけた春の妖精さんなんだよ♪」
「春の妖精‥‥なぁ？」
龍臣はうさん臭そうな眼差しを女の子に向ける。
『あのっ‥‥玉を‥‥隠したの』
女の子はそう言ってまた泣き出した。
「‥‥同じ音だね」
八瀬が耳を澄ませる。千影も耳を澄ませてみるが、特に何かが聞こえる訳ではない。
「あの音楽がまだ続いてるのか？」
「‥‥ずっと先から聞こえている」
八瀬と龍臣の会話に、千影は草間の腕を引っ張る。
「行こう！ 春は近いよ！」
「わっ！ 待て！ けもの道はもう嫌だぞ！？」
並木道を道沿いに行くだけだからけもの道ではない。けれどなぜか草間はぐったりしている。
少し行くと開けた桜の広場についた。そこにセレシュとフェイト、ルージュと藤堂がいた。
「うわっ、ビックリした！」
土まみれになったフェイトが八瀬と龍臣を見て、声を上げた。土遊びでもしていたのだろうか？
「なんやの？ その女の子」
セレシュがそう言って振り向いた時、セレシュの持っていた物が強烈な光を放った。
『見つけた‥‥！』
女の子の姿と光が消えていき、目を瞑らずにはいられないほどの光にあふれる。
『ありがとう！』
そう言って消えた女の子の代わりに、桜の花がやっとその身を開かせたのだった。
これで、ししゃもパーティーだ‥‥！
４．
桜の花は各地であっという間に満開になった。
夜桜の下、草間零はお弁当を持って草間たちと合流した。
「ししゃも〜♪ し・しゃ・も〜♪」
ししゃもの焼ける良い匂いにうずうずと待ちきれない千影。
「お酒やら足りとる？ ジュース飲む人は言うてね。あ、お酌するわ」
セレシュが零の手伝いをしながら色々と気を配りながら用意を進める。
「ルージュはこう見えて小学生だから、ジュースなのよ。あ、乾き物は用意してあるから遠慮せずに食べてね」
各種取り揃えたおつまみやらをどこから出したのか広げるルージュ。
「小学生だった君とお酒を飲む時が来るなんて思いませんでしたよ」
フェイトにお酒を注ぎながら藤堂は少し懐かしそうに笑う。と、フェイトが一口お酒を飲んだところで慌てる。
「お、俺こう見えて小学生じゃないですからね！ ちゃんと成人してますから！」
真っ赤になって否定するフェイトに、草間やルージュ、藤堂が笑う。
「‥‥フェイトさんは相変わらず暇人なの？」
八瀬の言葉にフェイトは頭を横に振りすぎてクラクラしている。どうやら程よく酒がまわっているようだ。
「お前は少し言葉を選ぶことを覚えろ」
龍臣は八瀬を軽く小突いてそれを窘める。しかし、八瀬は何故窘められたのかわかっていない。
「シシャモはやっぱり子持ちやね」
「にゃ！？ やっぱり！ やっぱりそうよね！」
あぶったシシャモを分け合いながら、セレシュと千影は魚談義に花を咲かせる。
「うちとしては酒の肴には鮭なんかもありやと思うんやけど、切り身よりも丸ごと一匹はやっぱ贅沢な気がするんよ」
「ん〜、チカは『サケノサカナ』はよくわからないけど、鮭も好きなの。お魚は全部好き♪」
「カルシウムも豊富やし、美味しいからな〜」
「美味しいよね〜」
魚を肴に花を咲かせる女性２人。まさに花より団子である。
一通り食べ、飲んで話に花を咲かせた。
「日本の桜は綺麗だな」
龍臣は静かにそう言って酒を傾ける。
「‥‥賑やかな花見になったな」
桜の木に背を預け、セレシュも桜を見上げる。
ライトアップされた夜の桜は圧倒的な美しさでありながら、儚さも持ち合わせている。こんな夜も悪くない。
桜の花の時は短い。
その短い時をたくさんの人と過ごせた夜に‥‥。
『ありがとう』
−−−−−−
■□ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） □■
【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
8757 ／ 八瀬・葵（やせ・あおい） ／ 男性 ／ 20歳 ／ フリーター
8774 ／ 龍臣・ロートシルト（たつおみ・ろーとしると） ／ 男性 ／ 26歳 ／ 護衛／スナイパー
3689 ／ 千影・ー（ちかげ・ー） ／ 女性 ／ 14歳 ／ Ｚｏｄｉａｃ Ｂｅａｓｔ
8636 ／ フェイト・−（フェイト・ー） ／ 男性 ／ 22歳 ／ＩＯ２エージェント
8538 ／ セレシュ・ウィーラー（セレシュ・ウィーラー） ／ 女性 ／ 21歳 ／ 鍼灸マッサージ師
8700 ／ ルージュ・紅蓮（るーじゅ・ぐれん） ／ 女性 ／ 500歳 ／ 魔女っ子小学生
8577 ／ 藤堂・皐（とうどう・さつき） ／ 男性 ／ 24歳 ／ 観測者
■□ ライター通信 □■
千影 様
こんにちは、三咲都李です。
この度は【お花見企画】へのご参加ありがとうございます。
大変遅くなりましたことをお詫び申し上げます。
桜の咲く季節からだいぶ遅くなってしまいましたが少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
|
|
 |
