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<東京怪談ノベル(シングル)>


破壊には安らぎを、武装には花を(1)
 山中を走る一台のトラック。闇夜に紛れるように走るその車体が孕んでいるのは、ただの荷物ではなかった。
 高度な武装と、それを扱う組織の組員。ここのところ悪徳な行為を繰り返し世間を騒がせている、非合法の武装組織である。
 鳥や虫の鳴き声すらしない、静かな夜だ。聞こえるのは、風の音くらいなもの。
 その静寂をぶち破ったのは、乱暴と形容してもいいほどのけたたましい轟音であった。
 車体が揺れ、横転する。トラック内にいたのは組織の下っ端ばかりといえど、高度な武装を扱う事を許されている程度には実力を持った者達ばかりだ。車が何者かによる襲撃を受けたのだという事実に、彼らが気付くのは早かった。
 あくまでも冷静に、彼らは武器を構え外へと踊り出る。山中の空気は、いっきに戦場のそれへと変わった。
 そこで彼らを出迎えたのは、たった一人の女だった。
 その姿を視界に入れた瞬間、幾人かは無意識の内に息を呑んだ。否、幾人どころではない。その瞬間確かに、その場にいた全員が彼女に見惚れていた。
 月明かりが、女の姿を照らし出している。女は、一言で言ってしまえば……美しかった。たとえ竹から生まれた月の姫であろうとも、彼女を前にしたら嫉妬の思いを隠せぬであろう。
 組織の者は大勢いるというのに、今宵彼らと対峙するのはこの女一人だけのようだ。その数の違いに、こちらの有利さに、組織の者達の間の緊張が緩んだ。たった一人だけで武装されたこの人数に挑むなど、あまりにも無謀すぎる話だ。
 だというのに、女は笑みを浮かべる。
 風がふき、長い黒髪が揺れ、彼女の魅力的な唇は美しい弧を描く。まるで、今宵の勝利を確信しているとでも言うかのように。

 ◆

 数刻前。
 とある建物の作戦室にて、机を隔てて向かい合う一組の男女の姿があった。
 一人はスーツ姿の男。そしてもう一人は、タイトスーツにタイトスカートを身につけた整った顔立ちの女だ。女の扇情的な足を覆い隠している黒色のストッキングが、彼女の魅力に一層花を添えている。
「……今回の任務は、非合法の武装組織の壊滅、ですわね?」
 女、水嶋・琴美は上司である男が今しがた発した言葉を確認するように繰り返した。司令は、落ち着いた声音で「ああ」と一度頷く。
 壊滅。華麗な女には一見似合わないような物騒な言葉であったが、琴美は眉一つしかめる事すらなかった。
 彼女は、暗殺や情報収集……時に魑魅魍魎の殲滅等の特別任務を請け負う特務統合機動課に所属している戦士なのだ。このような任務を受ける事は、初めてではなかった。
 凛と背筋を伸ばし、真剣に任務の内容を確認する琴美に、司令は言葉を続ける。
「彼奴らは高度な武装を所有しているという情報が入ってきている。その上黒幕の正体はまだ掴めていない。何が起こるか分からない、危険な任務だ」
「あら、この私が負けるとでも?」
「いや、危険な任務だからこそ、信頼している君にしか頼めないのだよ。水嶋くん、受けてくれるね?」
 琴美は愚問だとでも言うかのように、笑みを浮かべた。その瞳に、不安の色はない。黒く長い髪をかき上げ、彼女は臆する事もなく堂々と言葉を紡ぐ。
「もちろんですわ。私にお任せくださいませ」

 一度自室に戻り出撃の準備を済ませ、琴美は廊下を歩いて行く。
 彼女が身につけている衣装は、先程までのスーツではなかった。これから彼女が向かうべき場所……戦場に相応しい、彼女にとっての特別な戦闘服だ。
 臀部にぴたりとフィットするスパッツ。その上にはかれたミニのプリーツスカートが、彼女が歩くたびに踊るように揺れる。
 豊満で魅力的な体によりそうように彼女の上半身を包み込んでいるのは、黒色のインナー。上に纏った着物は両袖が半袖に改造され、帯が巻かれていた。長く伸びたしなやかな腕を覆っているのは、特別な素材で作られたグローブだ。
 女は真っ直ぐに、目的の地へと向かう。ターゲットが姿を現すという調べがついている山中。今宵の、戦場だ。
 琴美の歩みに合わせ、音が響く。カツン、カツン、と。編上げのロングブーツが床を叩く小気味の良い音。
 まるで彼女の自信の程を表しているかのように、気高く高らかで、力強い音が。