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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 日常スキル、いずれはお嫁さん? ――

 夜、寝る前に『LOST』にログインするのが、松本・太一は日課になっていた。
(そういえば、この前の教会はどうなっているんでしょう)
 先日のクエストで解決した教会のことが気になり、松本は行ってみることにした。

※※※

「あ……」
 教会に行ってみると、先日のクエストで助け出した司祭様が立っているのが見える。
「おや、この教会に何か御用ですかな?」
 NPCのせいか、先日の松本のことを覚えてはいないらしい。妙にリアルな部分があるくせに、こういうところはゲームらしい、と松本は自嘲の笑みを浮かべた。
「もしかして、私のお願いを聞きに来てくれた方でしょうか?」
「お願い、ですか…?」
「ええ、少々怪我をしておりまして、まだ教会の雑事すべてに手が回らない状況なのです。ですから、掃除、簡単な教会の雑事を手伝って頂きたいのですが…もちろん、僅かですが報酬を出させて頂きます」
 どうやら、このクエストは司祭様を助けた者のみが受注出来る特別クエストらしい。
「分かりました、お手伝い致します」
 松本がクエストを受ける旨を伝えると、司祭は幾つかの道具を渡してきた。
(……ほうきにチリトリ、こっちは……ハンコ?)
 ほうきとチリトリは分かるけれど、ハンコの使うべき場所が分からず、首を傾げる。
「この書類にハンコを押して欲しいのです。すべて私が目を通してありますので……確認をしながらハンコを押していると、かなりの時間を使うことになり、書類すべてに目を通せないのです」
 司祭様は申し訳なさそうな表情で言い、松本は頷いて答える。
(……こうしていると、なんだか会社にいる時の自分を思い出しますね)
 松本は苦笑しながら、書類のハンコ欄にどんどんハンコを押していく。

※※※
 そして、数百枚の書類すべてにハンコを押し終えて、今度は掃除に取り掛かる。
(……司祭様が囚われていたせいか、埃が結構ある……)
 地味に細かいクエストに、誰がクエストを作っているのか、という疑問がわき出てくる。
 けれど、クエストとして成り立っているから、報酬と経験値は僅かだけど貰える。
 危険がない状態で経験値などが貰えるのはありがたいことだし、地道に頑張ろうと松本は思う。
「ん……?」
 その時、奥の部屋に何かがあるのが見えた。
「司祭様、あれは何ですか?」
 松本が、奥の部屋を指差しながら問いかけると「あれは風呂ですよ」と答えてきた。
(お風呂か……随分と広そうだけど、ゲームの中で『お風呂に入る』ことが出来るのかな?)
 松本がそんなことを考えていると「入ってみますか?」と司祭様から言葉が投げかけられた。
「掃除の時は汗をかくでしょう、それなりに綺麗にしてありますし、後で入ってみては?」
 司祭様の言葉に、松本は何度も頷いて答えた。
(現実の世界でも、あんな広いお風呂に入れる機会なんて、温泉の時くらいだし……)
 松本自身の能力を使用すれば、お風呂に入っている疑似体験、くらいは出来るかもしれない。
 それが楽しみで、松本はほうきを動かす手も軽やかになっていった。

※※※

 司祭様は『それなりに綺麗にしてある』と言ったけど、松本がお風呂に入ると、それなりどころか――……まるで、お城にあるようなお風呂に驚きを隠せなかった。
(教会のお風呂って、こんなに広いもの……?)
 現実の教会と、ゲームの中の教会では違ってくるんだろうが、それでも松本は驚きを隠せない。
 現実世界の松本はホテルのユニットバスばかりで、こんなお風呂は体感できないから、せめてゲームの中だけでも――……と思って、お風呂に入る。
 すると――……。

『日常スキルを取得しました。
 たとえば料理の日常スキルを取得すると、料理大会イベントで有利になります。
 今回、プレイヤーが入手したのは『掃除』と『雑務』の日常スキルです』

 突然、そんな文字が画面に表示されて、松本は驚く。
(……日常スキル?  掃除と雑務……これって、役に立つんでしょうか?)
 そんなことを思いながら『LOST』内の松本は、お風呂を堪能し続けていたのだった。

―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回は日常スキル取得のシナリオです。
内容はお楽しみいただけましたでしょうか?
気に入る内容に仕上がっていることを祈るばかりです……!

それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら、宜しくお願い致します。

2015/4/29