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<東京怪談ノベル(シングル)>


自衛隊非公式特殊部隊特務統合機動課隊員水嶋琴美の休日

 水嶋・琴美(8036)。
 代々忍者の血を引き継いだ家系の生まれにして、自衛隊非公式特殊部隊特務統合機動課隊員として日本の平和を護る現代のくの一。
 夜になればその比類なき戦闘力によって魑魅魍魎を殲滅し、数々の怪事件を解決する。

 が――そんな琴美も実は未だ十九歳。

 任務中のストイックさとは打って変わって、年齢相応に女の子。
 うんと遊んだり羽を伸ばしたりしたい日だってあるのだ。

 という訳で!
 今日は待ちに待った休日である!

「……良し」
 姿見の前、琴美はしっかと頷いた。
 今日の彼女は真っ黒いくの一装束ではない。
 ミニプリーツスカートの白いワンピースに、紺色の甘すぎないデザインのジャケット、ふわりとしたキャスケットを被り、靴は脚線美を更に際立たせるお出かけ用のロングブーツを。
 ほんのり化粧を施した顔は、元が良いだけにその可憐さに磨きがかかっている。長い睫、高い鼻、淡い桜色の頬、薄紅色の柔らかな唇。
「これでOK、っと」
 決して妥協せず依頼を必ず成功させるという仕事っぷり通り、琴美は凝り性なタイプだ。やるからには完璧に。お出かけ用に装った今の琴美は女優もかくやたる美しさであった。

 さぁ、お出かけ準備は完了。

「行ってきます!」
 琴美は久々の休日にうきうきとした気分で家を出たのであった。
 ドアを開ければ眩い太陽が笑顔で少女を出迎えた。







 待ち合わせは駅前で。
 東京は休日でも平日でも賑やかだ。

 待ち合わせの一番乗りは琴美だった。華奢なデザインの腕時計を見やる。集合の20分前。
(楽しみすぎてちょっと早く来すぎてしまいましたわね……)
 琴美は内心で苦笑を漏らした。ここ数日、不可思議な怪奇事件を追っていて非常に忙しかったことも大きいか。
 と、程なくすれば待ち人がやって来た。後輩の特務統合機動課隊員と、同僚の処理班隊員である。
「水嶋先輩お待たせっす!」
「琴美ちゃんいつも早いわねぇ」
 元気良く走ってきた後輩、くすくす微笑んだ同僚。琴美は二人に挨拶をすると、
「だって楽しみだったんですもの」
「くぅー先輩いじらしいっす!」
「あら、そうかしら?」
 なんて、他愛もないやりとりもほどほどに。

 三人の女性隊員はファッションビルへと向かった。
 もうすっかり冬は終わり、季節は春から初夏への移行期間。新しいトレンドが始まり、新しい服が出始める時期でもある。
 ショーウィンドウの向こう側、立ち並ぶのは流行を着飾ったマネキン達。最近流行の音楽が流れ、行き交うのもやはり、お洒落な年頃の女性達だ。
 琴美はこうした賑やかさの中に身を置く事が密かに好きである。とびきり平和な日常――自分の手で秩序を護った成果を、感じられるから。

 さて雰囲気にどっぷり浸かるのもいいが、今日は皆と遊ぶ日だ。「あの店よくない?」「行ってみましょうよ」なんてやりとりをしながら店に入る。三人の関係は長いもので、良い意味で互いに遠慮等しない間柄だ。
 琴美は気ままに友達と他愛も無く会話しつつ、店内を見渡す。
「可愛い……」
 琴美とて年齢相応の女の子だ。可愛いものが好きなのだ。心がキュンとする時だってあるのだ。
 惹かれたものを手にとって、あれこれ見て……店員におずおずと「モデルの方ですか?」と問われるのはいつもの事。
「違いますよ、ただの一般人です」
 苦笑と共に琴美はそう答えた。勿論、後で「ただの一般人じゃないでしょ」と後輩に冷やかされたが、「貴方だってそうではなくて?」と含み笑いを返しておく。返しながら、琴美は手に取ったブラウスをあてがい鏡で確認していた。
 ふわりと白い、透け感のあるブラウスだ。胸元の青いリボンが可愛らしい。
(これいいなぁ……買おうかしら)
 なんて思っていると、
「琴美ちゃんって私服だと白い服好きよねぇ。いつもの反動?」
 鏡の中に顔を覗かせた同僚のニヤリとした顔。
「え。そうかしら?」
 小首を傾げる琴美。
「そうよ〜! 自分の今着てる服を見てみなさいよ」
「……あ。そう言えば、確かにそうかもしれませんね……」
 言われて初めて気が付いたような。確かに普段真っ黒けなので、白い服への憧れが潜在的にあるのかもしれない。
「うーん。これ、似合いますかね?」
 話題を変えて、ブラウスをあてがったまま琴美は友人へ振り返る。
 琴美は可愛い系、というよりも綺麗形、グラマラスな美人系だ。だから本来ならば、ふわりとしたガーリー系よりもキリリとスマートな格好の方が合うのだろう。が……琴美とて女の子、女の子らしいふりふりふわふわしたものだって着てみたい。けれど自分の体型を鑑みれば……というのが、彼女の悩みであった。
 そもそも、気に入った服があっても、その立派なお胸の所為で胸がきつくて着られない、なんて事態も起こりえるのだ。お洋服選びが好きなだけに、何度これで着たい服を諦めてきた事か。
 そういう事情を知っている友人は「うーん」と思案し、「取り敢えず試着してみれば?」と。
「分かりました。ではちょっと試着してみますね」

 2分後。

「どうかしら?」
 ついでに選んだ花柄のスカートとレースが可愛いキャミソールも試着し、琴美はくるりと回ってみせる。
「「「可愛い!」」」
 友人、そして店員の声が重なった。
 ふわりとした作りだった事が幸いして胸の問題もクリアし、普段の凛とした琴美とはまた異なる年齢相応な女の子らしさが非常に愛くるしい。彼女自身の綺麗さを損なわない可愛らしさだ。
「ではこれを頂きます!」
 琴美はこれと決めたら即決するタイプである。







 お買い物を堪能した後は、今人気のパンケーキ屋へ。
 なんだかんだでアクセサリーや雑貨も含め、色々と買ったものだ。
 一休みの時は甘いものに限る。

「美味しい……!」

 チョコとイチゴと生クリームがトッピングされたパンケーキを頬張り、琴美は幸せそうな笑みを浮かべる。いつもは仕事で気張る彼女が解け、等身大の『水嶋・琴美』が垣間見える瞬間だ。
 そんな琴美を見つつ、同僚がふと問うてくる。
「琴美ちゃんは気になる人とか居るの?」
「気になる人?」
「先輩はいっぱいアプローチ受けてそうっす!」
 女子が集まれば自然と恋バナが花開く。が、ストイックな琴美はイマイチピンときていないようだ。
「気になるといえば……今追ってる事件の事かしら。怪奇の動きが奇妙で……」
 もぐもぐとパンケーキを頬張りながら琴美は大真面目に答えた。ああ、と友人二人が苦笑を漏らしたので、琴美は「どういうことですか?」と目をパチクリ。
「まぁ、仕事と結婚とかしないでね」
「結婚だなんてそんな……私はまだ成人もしていませんわよ? それに今は、任務の日々で忙しいですし、私の職業は特殊ですし……」
「先輩はマジメっすねぇ、恋愛したいとか思ったことないんすか?」
「そうねぇ……まだ、良く分かりませんわ。ご縁があればどうなるかは分かりませんけれど」
 苦笑を漏らす琴美。二人は「きっと良い人見つかるよ」と微笑んだ。

 さて、パンケーキのお皿も空になる頃。
 窓の外は平和な夕焼けに輝いていた。
 硝子越しの茜色を眺めながら、琴美は友人達へ笑いかける。

「また、一緒に遊びましょうね」

 こんな日を、また迎えられますように。
 その為には、また頑張らねば。



『了』



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水嶋・琴美(8036)