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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― ふたつの世界を行き交う者 ――

「ふぅ……」
 松本・太一はパソコンを閉じて、小さなため息を零す。
 彼は、魔女としての『情報』という特殊能力を用いて『LOST』で覚えたスキルを現実でも使用することが出来る。まるで本当に『魔法』のようなことで、松本は現実世界と『LOST』、ふたつの世界をそれなりに楽しく過ごしていた。
「このまま、こうやって何事もなく過ぎてくれればいいんですけどね」
 苦笑しながら、閉じたパソコンを見て、松本は2度目のため息をついた。
 報酬の高いクエストをしていないため、松本の所持金は減っていくばかり。セーブとログアウトは宿屋で行うため、他のプレイヤーならいざ知らず、松本のように『LOST』に巻き込まれた者にとっては、所持金がないというのは生死に関わるのだ。
「……まさか、教会に泊まるという選択肢があるとは思いませんでした」
 松本は苦笑しながら、数日前のことを思い出す。
 『LOST』ではフリーシナリオ制のため、決められたクエストも多いけれど、自分の意志でYESとNOを決められるクエストも数多くある。
 所持金の少なくなった松本は、ダメ元で神父に寝泊まりが出来ないかを問いかけたのだが……雑務や家事をする代わりに宿泊を許可、ということになった。
(恐らく、ログアウト出来ない人のための救済措置のようなものなんでしょうね)
 けれど『雑用』と『掃除』、このふたつのスキルは松本にとっても便利なものになっている。
(雑用スキルを現実世界で使うと、仕事の効率が上がりましたし……自室で掃除スキルと使えば、普段以上に綺麗に掃除することが出来ます、あとは料理や裁縫があれば便利なんですが……)
 そんなことを考えていると、街のクエストで『日常スキル』が取得出来るクエストがあったことを思い出して、松本は再び『LOST』にログインをした。

※※※

「あぁ、やはり……」
 日常スキルが覚えられるクエスト、それは料理屋の雑用クエストと、仕立て屋のおつかいクエスト、これらのふたつがまだ残っていた。
「料理と裁縫、それらを持っていれば結構便利なんですよね。難易度も一番簡単なものですし、日常スキルのために頑張ってみますか」
 松本は、そう呟いてふたつのクエスト受注を行う。
「まずは、料理屋の雑用クエストですか。雑用スキルを持っているので、多少は有利になってくれるといいんですけど……」
 クエストが発生している料理屋に行くと、ピコン、とキャラクターの上に何かのマークが表示された。
(なるほど、クエストで日常スキルが発動すると、こんなマークが表示されるんですね)
 雑用クエストは、ミニゲームのようになっていて、雑用スキルを持っているせいか、松本は簡単にクリアすることが出来た。
(結構簡単に『料理スキル』が入手できましたね、次は『裁縫スキル』ですけど……)
 松本自身、料理も裁縫も苦手な方ではない。ただ平均並みというだけで、スキルを入手出来たら『上の中』くらいの腕前にはなれるだろうという感じだ。
 上手くクリア出来るといいけど――と思いながら、松本はおつかいクエストを開始した。

※※※

(……やはり、難易度が一番簡単なおかげですかね)
 10分と経たないうちに、松本は『裁縫スキル』を入手することが出来た。
「とりあえず、今日はこれくらいにしておきましょう」
 ふたつのスキルを『情報』で共有して、現実世界でも使ってみなくては――。
 松本は、そう言葉を付け足しながら『LOST』をログアウトする。
(……けれど、ずっとこのままでいることは出来ないんでしょうね)
 今はまだ平穏だけれど、いずれは厳しい戦いに巻き込まれる。
 それは松本自身の勘なのか、それとも彼の中に眠る魔女の力のおかげなのか――。
 今はまだ分からない。時が来れば、真実は明らかになる。
 けれど、その時はまだ遠く、松本は少しずつ力を蓄えていくことしか出来なかった。


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます!
今回は料理と裁縫を覚えて、
更に松本さんのお嫁さん度が上がった気がしますね。
話の方はいかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていることを祈っております。

それでは、また機会がありましたら、ご発注をお待ちしております…!
今回も書かせて頂き、ありがとうございました!

2015/5/15