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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 白き獣は、鋭き爪を持ちて ――

「雫さんに教えて頂きましたけど、本当に人のいない場所なんですね」
 海原・みなもは周りを見渡しながら呟く。
 認識阻害などで、今のみなもが普通に扱われているとはいえ、獣の身ではあまり目立たない方がいいという結論に到り、レベル上げもひと気の少ないエリアを選んでいた。
 ひと気がないということは、経験値の低い敵が多く、レベル上げをするには少々非効率と言わざるを得ない。
 けれど、無関係な人が『LOST』の異変によって巻き込まれることも考え、みなもはひと気のない場所を教えて欲しいと瀬名・雫に頼んでいた。
(……本当は、雫さんもあたしから離れるべきなんですけどね)
 何度言っても、雫はみなもから離れようとしない。
 それはみなもにとって嬉しいことでもあるのだが、やはり不安でもあった。
(……やめましょう、雫さんを巻き込まないためにも強くなろうと考えたのですから)
 みなもは軽く首を振って、小さなため息を吐く。
 異変からも大事な友人を守れるよう、強くなると決めたのだから――。
 そんな時、何匹めかの敵を倒した時に『守りの雫』という装飾品を入手した。
「……守りの雫?」
 アイテム欄を開き『守りの雫』の説明を見ると、バッドステータスを50%の確率で防いでくれるというものだった。
(単独行動のためには、こういった装飾品は必需品ですよね)
(50%の確率で防ぐ……これでレア度は普通ということは、50%以上もあるということ……)
 超レアで100%防ぐというものもあるんでしょうね、とみなもは言葉を付け足した。
(今後のクエストでは、こういった効果の装飾品がないかも注意しておくとしましょうか)
 みなもは心の中で呟いた後、次の目的のために動き出す。
「回復アイテムの補充ですね、回復薬などは99個持っているんですけど……」
 ゲームに慣れていないみなもとしては、回復アイテムは多ければ多いだけいい。
 だから、動物の肉や植物も集め始めることにしたのだ。
 肉や草類は効果こそ低いけれど、僅かに体力や魔法力を回復することが出来る。
「肉や草類はモンスターから入手出来ますし、レベル上げをしながら回復アイテムも手に入る。まさに一石二鳥の方法ですね」
 みなもは呟きながら、襲いかかってくる敵を鋭い爪で倒していく。
 1匹1匹は経験値が少ないけど、塵も積もれば――…ということもあり、今のみなもはレベル50に達していた。
(とりあえず、これくらいレベルをあげておけば大丈夫でしょうか)
 みなもはため息まじりに、そんなことを呟いた時――。
「グアアアアッ!」
 背後からモンスターが襲ってきた。
 死角から現れた敵にもかかわらず、みなもはそれを簡単に避け、その爪で敵を切り裂く。
 恐らく、そこに他人がいれば銀にも見間違えそうな白き獣がいた――と言うだろう。
 神々しい姿は話しかけることさえ躊躇う、そんな雰囲気を漂わせていたのだから。
 けれど、みなもはひとつのことに気づき始めた。
(……あたし、気性が荒くなっている?)
 倒れたはずのモンスターを見ても、戦いたいという衝動が抑えられない。
 もっと、もっと敵を切り裂きたい――そんな心が現れ始めたことに。
「……あたしは、本当に『白虎』になりはじめている?」
 強さを求めた結果がこれならば、これ以上高みを望めば、どうなってしまうのか。
(『LOST』の異変を解決出来た時、あたしは……あたしでいられるんでしょうか)
 今までも異変はあった。
 けれど、心にまで影響が出てきたなんて――侵蝕は思っていたより進んでいるらしい。
 その時、背後からモンスターが毒の息を吐いてきた。
 だが『守りの雫』のおかげで、みなもが毒に冒されることはなかった。
「……あたしの、邪魔をしないでください」
 みなもにしては酷く冷たい声で呟き、敵を裂く。
 爪から滴る血に心地良さを覚えていて、みなもはそれが怖くて、近くの水場に向かった。
 その走り去る姿は、白き獣の名前に相応しいほど美しかった。

―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様

こんにちは、いつもご発注をありがとうございます。
今回もみなもちゃんを楽しく執筆させて頂きました。
ご満足いただける内容に仕上がっていますでしょうか?

それでは、今回も書かせて頂きありがとうございます。
また、何かの際にはよろしくお願い致します。

2015/5/17