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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


practical experience 3



「やっぱりトカゲの尻尾だったんだね」
 フェイトが感慨深げに声をかけた。無人島で“彼”は自らの足を切って逃げたのだ。
「そんな下等動物と一緒にしないでもらいたいね」
 “彼”は両手の平を空に向け肩を竦めてみせる。“彼”は九字を畏れた。九字を使うのは修験道、つまりは山岳信仰。ともすれば、人を唆し化かすのは狐狸の類か。
 戦場はビルの谷間に広がっていた。そこここでIO2の隊員が悪霊や悪霊を使役する者たちと交戦している。
 フェイトは小さく息を吐いた。
 あの日は暗く狭い建物の中だったが、今“彼”と対峙しているのは広々とした交差点。
 フェイトは片手で右の銃の排莢を済ますと対霊弾を装填しなおした。左の残弾を計算して身構える。
 “彼”は歩道橋の上に佇んでフェイトを見下ろしていた。
「っとに、IO2どもは…我らが主のお目覚めの妨げにならぬよう、うるさい小蠅どもを叩き潰しておくとしようか」
 壊れた信号は赤も緑も灯さない。
 “彼”がフェイトに向かって飛んだ。
 放たれるナイフにフェイトは横に飛び地面を転がりながら引き金を引く。
 互いに手応えのないまま第2撃へ。
 そして――。



 同時刻。
「お待ちしておりました」
 少女が言った。貴女を、と。
「え?」
 真衣は思わず面食らう。
「どういう事ですか?」
「貴女はここへ至る貴女自身に起こった全ての事が、偶然だったとお思いですか?」
「それは…」
 真衣はここまでの経緯を反芻してみた。偶然とはどれの事を指しているのか。少女が言葉を継ぐ。
「私には過去しか視えません」
 言っている意味がよくわからない。ただ。
 ここに真衣が訪れるに至るために起こった全ての偶然とは、無人島や第6エリアでの事も含まれるのか。少女が視える過去とは。

 何故、無人島の任務に真衣が抜擢されたのか。
 何故、思いの外容易く敵の懐に飛び込む事が出来たのか。
 何故、あの暗闇の中、真衣はいろいろなものを視認出来たのか。
 何故、真衣が第6エリアの捜索班に選ばれたのか。
 何故、真衣の通る道のマンホールがうまい具合に開いていたのか。
 そこでフェイトに運良く助けられる確率がどれほどのものなのか。
 何故、真衣はいち早く諸悪の根元たる鼠を見つける事が出来たのか。
 そして、ここに訪れる事になった最大の要因。
 何故、真衣は後方支援と言われながらその実は後方待機となったのか。
 いや、そもそもだ。
 何故、真衣のバディとなったフェイトは普段使った事もない九字をあの時試してみようと思ったのか。
 そこから、だろう。それがあったからここに。

「まるで偶然じゃなかった…みたいな言い方をされるんですね」
 確かに、偶然と片づけるにはあまりにも都合がよすぎる。
「もちろん偶然ではありませんから」
 少女はきっぱりと言い切った。

 人に見えないものが真衣には至極当たり前に見えていて、他人には見えていないことに気づかないほど自然にそれはそこに存在していたのだと。

「ただ、貴女は“それ”に導かれていただけです」
 そうなるべくしてそうなり、それらは起こるべくして起こった。偶然のような必然。フェイトは真衣の傍にいたことによって、少なからず“それ”の影響を受けていた。
「それ?」
 真衣の問いかけに少女はゆっくり歩み寄ると真衣の胸元を手の平でドンと押した。
 刹那、ドクン、と一際高く大きく鼓動が音をたてた…ような気がした。



 ▼▼▼



 10時間前。変死騒動以降閉鎖され、誰もいない東京13地区第6エリアに小さな地震が起こった。
 それを関知する人はおらず、地震を検知する装置が遠く離れた観測舎に機械的なアラームを発したが、大きな揺れでもなかった事、局地的であった事、人々も避難済みである事から些末のように、それは無視された。

 8時間半前。揺れが1時間以上続いていることに誰かが気がついた。しかし、それは第6エリアの狭い範囲内の事だ。とりあえず確認にと第7エリアの片隅にある交番の警官が自転車で遠巻きに確認に向かった。
 彼がそこで見たのは巨大な円柱。それが鳴動と共に地面からゆっくりと伸びる様だった。

 8時間前。円柱が塔となってそびえ立つと、それは第6エリア以外のどこからでも目の当たりにする事が出来た。
 報告を待たずIO2の日本支部からも視認出来る大きさだ。
 塔の上空、晴れた青空を黒い影が埋め始める。悪霊が集っているのか。

 7時間前。フェイトの調査報告から、あの謎の塔が邪悪な神を封印した塔であると断定。IO2は封印を解こうとしている者たちの殲滅部隊を編成した。
 総動員で敵を叩くべく出動する。
 だが、その殲滅部隊に自分の名前がなくて真衣は上官にくってかかった。
「どういう事ですか!?」
「戦える者しか連れて行かん」
 上官は身支度を整えながら応えた。
「なっ…!?」
「お前は、後方支援担当だ」
「そんな…」
 戦えます、という言葉を継ごうとして上官の言葉に遮られた。
「これは、フェイトの提案だ」
「え?」
 真衣は思わず言葉を失った。呆気にとられている内にさっさと上官は執務室を出て行く。それぞれに武器を持って走り出す隊員らを半ば呆然と見送っていると、その中にフェイトを見つけて真衣は反射的に追いかけた。
「どういう事なんですか?」
「神無月には後方支援を頼みたい」
 振り返るでもなく口早にフェイトが答える。
「そんな、私も戦えます」
 真衣はフェイトの背を追いかけた。
「後方支援も大事な任務だよ」
「……」
 言葉もなく足を止めた真衣に、ふとフェイトは振り返って真衣の前まで戻ってくるとその肩を掴んだ。
「もしも…もしも間に合わなかった時は、後を頼む」
「え…」
 間に合わなかった時というのは封印が解かれた時という事で、それは、その時はフェイトは…IO2の仲間は…。
 その言葉の重みと背筋を這い上がってくる恐怖のようなものに真衣は呼吸も忘れて絶句した。

 6時間前。第6エリアにて激闘の火蓋が切って落とされた。
 塔を目指すIO2と、それを阻む悪霊ども。

 1時間前。無人島での因縁に終止符を打ったフェイトは仲間の助けを借りて1人塔へと走る。
 そこで待っているのは――。



 ▼▼▼



 そこにあったビルは塔に串刺されるように一度は上空へ運ばれ程なく落ちると、周囲のビルを巻き込んで瓦礫となって周囲に散在していた。
 その小山を越えてフェイトはその場所にたどり着いた。
 フェイトより縦にも横にも倍はありそうな鬼人のような男が塔の前門にこちらに背を向け立っていた。恐らくは封印を解くための準備をしているのだろう。
 フェイトは空に向けて一発、撃った。
 巨大な金棒を持った男がおもむろに振り返る。
「邪魔をするなよ、小童が」
 地の底から這うような重低音が響いた。纏った筋肉の鎧を覆うようにビジネススーツを着込んでいる。底光りする赤い眼孔がフェイトを睨みつけていた。その膂力に支えられる得物に思わず息を呑む。あれを片手で扱うのか。
 こいつが一連の事件の黒幕か。無人島で会った狐狸など比ではない。
「封印を解かせるわけにはいかないんでね」
 フェイトはにこやかに嘯いて見せた。
 巨体が走る。その体の大きさに似合わず速い。フェイトは右手を払った。真空刃が巨体を襲うが紙一重でかわされる。それを見越して避けた先に銃弾を叩き込んだ。そこに落ちていた壁だったものを盾に防がれる。拳銃の威力では届かないか。フェイトは両手に力をこめた。サイコキネシスに於いて扱いやすいのは最も軽い大気だろうか。だが、その威力にも限度はある。幸い周囲には大量に積み上げられた瓦礫があった。それらを出来る限りの上空へ飛ばす。位置エネルギーに運動エネルギーを加えて数多の土砂を巨体の頭上へ落とした。
 盾に使った壁だったものが木っ端みじんになり更に男に降り注いだ。
 だが、物理攻撃がその体に与える影響はそれほど大きくないらしい。服は裂けようともその肉体には擦過傷ほどの傷もつかない。
 だから、土砂に混ぜて上空に放った銃弾に男を襲わせる。
 被弾。男の咆哮が地軸を揺るがすほどに轟いて、フェイトは半瞬動くのが遅れた。男の得物がフェイトを捉える。
 もし金棒が剣であったなら今頃上半身と下半身は永訣を迎えていたかもしれない。
 出来る限り力を逃がしてみたがフェイトの体は軽々とふっ飛ばされた。ただ、その先にあったのがコンクリートのビルの壁ではなく、金網だったことが幸いしただろうか。息が詰まって咳こんだのも束の間、何とか体勢を立て直すべく足に力を入れて立ち上がった。
 だらんと垂れ下がり使い物にならなくなった左腕に血が流れる。一緒に折れた肋を右手でなぞってみた。吐血はない。肺は傷ついていないという事だ。ゆっくりと息を吸い込んで骨を元の位置へ押し戻す。激痛はほんの一瞬で、程なく大量に分泌されたアドレナリンによってか痛みを感じなくなった。
 小さく息を吐いて地面を蹴る。
 男がそれを迎え撃つべく構えている。
 フェイトは最後の力を振り絞るようにしてテレポートで男の懐に飛び込んだ。超至近で対霊弾を叩き込めるだけ叩き込む。
 金棒がフェイトの頭上に振り上げられ、下ろされた。力をなくしたその威力は金棒の重さ分だけで、それでもフェイトの左肩を抉っていた。男はそのままどうと後ろに倒れる。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 フェイトは荒い息を吐きだした。――やったのか?
 だが。
「我が主よ…」
 男の絶命の瞬間吐き出された言葉にフェイトはハッとして塔を振り返った。
「!?」
 これ以上ないほど見開かれた目に、塔の大きな扉がゆっくりと開かれる様が映る。強い邪気が吹き付けるようにフェイトを襲った。立っている事もままならず吹き飛ばぬように膝をついて姿勢を低くするのが精一杯で。
 やがて、それは全ての希望を奪いさるように強い光と共に現れた。まつろわぬ神。その大きさは奈良の大仏が立ち上がったらかくや、というほどのものだった。
 邪神――アマツミカボシを見上げる。
「くっ…」
 小さく呻いた。間に合わなかったのだ。
 黒幕の男を討ち取った事で一息ついてしまったからかそれとも絶望に気力が絶たれたからか。忘れていた胸の痛みがフェイトの意識を蝕み始める。
 だが、ここで止める。止めなければ。フェイトは再び奮い立たせた気力だけで自らを支えて立ち上がった。
 封印が解かれ覚醒したばかりの今しか倒せる好機はないように思われた。
 邪神が光の矢を現出させるとそれをフェイトに射ようとする。フェイトは防御壁をはろうとしたが力を使うだけの集中力も精神力も残っておらず、脳裏には諦念がチラツく刹那の時。
 万事休すに銃声が2つ連なった。
 光の矢を上空に止めたまま邪神が無造作にそちらを振り返る。
「フェイトさん!!」
「神無月!?」



 ▼



 山奥の人里離れたその場所にひっそりとある集落。その中で一番大きな屋敷へと真衣は駆け込んだ。実はこれまでも何度も訪れた場所だ。
 九字。その起源は中国の道教にあるとされているが日本では主に修験道で扱われる修法の一種である。それを用い悪霊降伏を行っている耐魔組織がそこにあった。
 古よりその力によって裏の日本を守り支えてきた自負と誇りを持つ彼らである。ぽっと出の、しかもアメリカ発祥のIO2を信用出来ない事も受け入れ難い事も想像に難くない。手を貸したくという事情もわかる。
 それでも、真衣にはその門を叩く事しか出来なかった。前線を外され、もしもの時の後を託された真衣に唯一出来る事といえば、これくらいしか思いつかなかったのだ。なんとしても。フェイトの言葉を噛みしめ真衣は門を叩いた。いつもなら、すぐに真衣を追い払いに人が出てくるのに、この日に限って誰も出てこない。
 そこでようやく真衣は、集落があまりに静まりかえっていることに気がついた。
 誰も、いない。
「どういう事…?」
 半ば途方に暮れていた真衣だったが、ふと背後に人の気配を感じて振り返る。
 そこに立っていたのは腰まである長い黒髪を一つに束ねた和服姿の中学生くらいの少女だった。
「あの、ここの人は…」
 真衣が尋ねると少女はそっと東の空に視線を馳せて応えた。
「皆は塔の封印と連動している結界の守りに向かいました」
「結界…では!」
 真衣は一歩踏み出す。
「わかっています。我らの目的はきっと同じ」
 少女は真衣に視線を戻して静かに頷いた。
「ですよね!」
 彼らもまた、塔の封印を解かせないために動いているのだ。IO2が出しゃばっているからといって、彼らが自らの使命を放棄する理由にはならない。目的が同じなら。真衣は期待をこめて少女を見た。だが。
「ただ、やり方が違う」
 少女は目を伏せてしまった。
「それは…でも!」
「いいのです。それで」
 小さく頭を振って少女は応えた。
「え?」
「強大な力は時に黒くも白くもなる。故に我々はその力を誰にでも気軽に与える事は出来ない」
「……」
「否、それを決めるのは我々ではない」
「あの、何を…?」
「皆は反対しましたが、既に“それ”の答えは出ている。私は貴女を…」 まるで独り言のように呟く少女に真衣が困惑していると、少女は真衣をまじまじと見つめて、そして静かに頭を下げて言った。
「お待ちしておりました」



 ▼



「言ったはずだよ。手遅れになった時は…」
 もう、自分すら守りきれそうにないこの状況で、フェイトは真衣に撤退するよう言葉を紡ぎかけた。だが。
「だから、来たんです!」
 瓦礫の山の上に立ち、真衣は銃を邪神に構えたまま言った。
「だからって…」
 もう、気力も体力も限界のはずなのに何故だろう。
「任せてください」
 フェイトは真衣の言葉に、力が沸いてくるのを感じて思わず真衣を見返していた。
 ――まだ戦えるのか。
 邪神の光の矢の攻撃にフェイトは防御壁をはって凌ぎきると、真衣が囮のように銃を乱射する、その間を縫って周囲の土砂を風にのせて舞わせた。
 とりあえず視覚を奪って足下から崩す。土砂で目を狙いつつ、銃弾をその膝に集中させた。
 邪神がそれに気圧されてくれたのか顔の前を手で払いながら後退する。
 とはいえ、こんな物理攻撃や対魔弾では倒しきれないだろう。かといって封印には相応の術式が必要だ。
 ――どうする?
 時間はかけられなかった。相手に攻撃の手を出させないためにこちらから集中できる物理的火力が足りない上に、真衣はともかくフェイトは既に満身創痍なのだ。
 決め手が欲しい。一発で逆転できる何か。
 その時だ。
「これを使ってください!!」
 真衣がフェイトの元へ駆けてきた。
「なっ!?」
 真衣の胸元が金色の光を発していることに気づいてフェイトは驚いた。驚きつつも、何故だかなんの迷いもなくそこに腕が伸びていた。まるで自分はずっと以前からその存在に気づいていたように。
 フェイトの右手が真衣の放つ金色の光の中で何かを掴んだ。いや、何かではない。剣の柄だ。それをゆっくりと引き抜くと巨大な剣身が彼女の体内から姿を現した。

『“それ”によって導かれていたにすぎません』
 ずっと。
 それは真衣自身さえも知らず、気づく事もなかった神殺しの剣。それが彼女の中で彼女とその周囲の者たちに少なからず影響を与えながら眠っていたのだ。
 過去しか視えないと言った少女が真衣の中に眠るその封印を解いた。もしもの時は。
 少女には未来も視えていたんじゃないかとふと真衣は思う。それともこの剣によって未来を視ていたのはフェイトの方なのだろうか。真衣を前線から外し、もし間に合わなかったときは、と言葉を残して後方待機にした事も。
 だから覚醒したのだ。邪神を討つ切り札が。

 神殺しの剣をフェイトは右手に構えた。両刃の剣は重く両手持ち用だ。だが、左腕は使い物にならない。
 ふぅーっと息を吐いて剣を支えようとすると、ふと剣が軽くなった。
 フェイトは真衣を振り返る。
 一緒に剣を握った真衣が一つ頷いた。
 共に戦うのだ、と。
 フェイトは全身の痛みが引いていくのを感じた。もちろん傷が治っているわけではない。ただ。
 風が2人を中心に渦を巻く。それを作り出しているのが剣だと気づいた。ならば、その剣が導くままに。
 2人は走り出した。
 宙を駆ける。何故か大気の階を駆け上ることが出来た。
 2人を襲うように邪神が腕を振り上げ振り下ろす。
 それを避けるように強い風がその軌道を狂わせた。剣が守ってくれているのだ。だからまっすぐに邪神の胸へ飛び込む事が出来る。
 2人はその胸に剣をつきたてた。
 断末魔。
 邪神はよろめき門の中へ吸い込まれ扉が閉じると、塔は映像を巻き戻すかのように出てきた時とは全く正反対の動きで小さな鳴動と共に土の中へ消えていった。



 ▼


 IO2の日本支部があるビルから最も近いところにある総合病院の整形外科病棟には人が溢れかえっていた。その殆どがIO2関係者である。ベッドに寝ていたり車いすに座っているのは殲滅部隊に参加した隊員達であり、立っていたりパイプ椅子に座っているのは見舞いにきた後方部隊や家族らであった。
 そんな人混みを抜けて真衣はその病室を目指した。
 ナースステーションで確認した病室の番号札の下に目的の人物の名札が入っていなくて、一瞬不安が過ぎったが、ノックの後真衣は思い切って扉を開けた。
 心臓が早鐘を打つ。ドキドキしながら、パーティションの奥を覗くと、前年ながらベッドには人がいなくて一瞬拍子抜けた。
 だが。
「神無月?」
 声がして振り返る。そこに目的の人物が車いすに座って鉄アレイをいじっているのを見つけて真衣は思わず声をあげた。
「だ、大丈夫なんですか!?」
 フェイトは笑顔を返す。
「なんだか、手持ちぶさたでね」
 真衣は力が抜けたようにため息を吐くと、持っていた紙袋をテーブルの上に置いた。
「約束だったので、作ってきました」
「約束?」
「はい」
 紙袋の中から重箱を取り出す。
「お弁当?」
「はい」
 真衣は蓋を開けてみせる。ぎっしり詰まったおかずの数々にフェイトは目を丸くした。
「すごいな…」
「頑張りました。ちゃんと栄養も考えて、カルシウムは多めに」
 真衣はにこっと笑顔を向ける。もちろん、カルシウムだけではない。それらの吸収をよくするビタミンやミネラルもふんだんに取り入れたメニューを考えてきたのだ。
「ははは、それはありがたいね」
 フェイトが半ば苦笑を滲ませて言った。
「しっかり食べてください」
「ああ、いただこう」


 神殺しの剣は消えてしまった。また真衣の体の中に戻ったのか、それとも邪神と共に眠りについたのかはわからない。
 ただ、どれくらい続くのかはわからないけれど、穏やかな時間が戻ってきたことに真衣はただ感謝するのだった。





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