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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― それは暗き洞窟の中で ――

「……はぁ」
 松本・太一は小さなため息をついていた。
 それというのも、自分のキャラクター姿が目立ち過ぎるためだ。
 魔法エフェクトはハートが煌めき、有象無象のプレイヤーからは絡まれる。
(この姿になってから、いい事がまったくありません)
 そのため、松本は『消える洞窟』のイベントに参加することを決めた。
(この洞窟にあるアイテムで、この姿やエフェクトを消す物があればいいのですが……)
 逃げ遅れたら次回開催される『消える洞窟』イベントまで閉じ込められるというリスク付き。
 出来るなら松本は参加したくなかったが、この効果を消すためにはリスクもやむなしということなのだろう。
(随分と多くの人が参加するんですね)
 周りを見渡すと、かなりのプレイヤーが集まって来ている。
 普通のイベントでは、ここまでの人数が集まることがないため、松本は少し物珍しい気持ちを抑えられなかった。
「お集まりの皆さん! これより『消える洞窟』イベントを開催致します! 今回もレアアイテムを散らばせていますので、じゃんじゃん参加して下さいねー!」
 司会らしきNPCが叫ぶと同時に、鐘の音が響き、全員が洞窟の中へ駈け込んで行った。
(……鬼が出るか、蛇が出るか……)
 ごくり、と喉を鳴らした後、松本も洞窟の中へと足を踏み出したのだった。

※※※

「……中は、ほの暗いのですね」
 洞窟、というからには真っ暗を覚悟していたけど、そうではなかった。
「あ、宝箱……」
 入った直ぐの場所に宝箱があり、それを開けてみると……薬草がひとつ入っているだけ。
「まぁ、ひとつめの宝箱ですからこの程度でしょうね」
 松本は苦笑しながら、洞窟の奥へ、奥へと進んでいく。
 最初こそ弱い敵ばかりだったけど、奥に進むたびに敵の強さ、宝箱の中身もグレードアップしていく。
『消える洞窟に参加中の皆様! 洞窟が消えるまで1時間を切りました! ギリギリまで粘るもよし、今から引き返すもよし、皆様の自由です!』
 洞窟内に声が響き、周りの空気がザワリと変わったのを感じた。
(誰もいないのかと思っていましたが、周辺には結構人がいるものですね)
 松本が自分も帰ろうと思った時、とあることに気づいた。
(……目印が、なくなっている?)
 洞窟の中で迷わないようにと石を置きながら進んでいたのだが、それがなくなっているのだ。
「まさか、他のプレイヤーがわざと……? いや、そんなことをする意味はないですし……」
 だけど、以前同僚から聞いたことがある。
 初心者や慣れていない人をメインに嫌がらせをするプレイヤーも少なくはないのだ、と。
「……このままだと、私は――!」
 他のプレイヤーならログイン出来なくなるだけで済むだろうが、松本は違う。
 ログイン・キーに選ばれてしまっている以上、ここに閉じ込められてしまえば何らかのペナルティを受けるかもしれない。松本はそう思って急いで入口へと戻り始める。
 だけど、沢山道が分かれている洞窟内で目印無しで入口まで行くのは不可能に近い。
 しかも時間制限があり、今はパニックになりかけていて冷静さも欠けている状態だ。
『もうすぐ洞窟はきえまーす! みなさん、脱出はしましたかー?』
「まっ……!」
 待って、と言いたいのに足が震えてその場に転んでしまう。
『はいはーい、これで今回のイベントは終了です! 次回をお楽しみにー!』
 暗い洞窟の中に不釣り合いな明るい声と共に、洞窟内の雰囲気が更に変わった。
(……本当に、閉じ込められた? いや、そんな事は……入口に戻れば、きっと外に――)

※※※

 あれから、何時間もかけてようやく松本は入口に戻って来ていた。
 けれど、出口は堅い岩で塞がれ、外に出る事は出来ない。
(……本当に、閉じ込められてしまった? 私は、これから一体どうなるんですか……?)
 不安に押し潰されそうな中、松本はひとり心の中で呟いていた。


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます!
今回は閉じ込められるシナリオですが、いかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていますと幸いです。

それでは、また機会がありましたら宜しくお願い致します。
今回も書かせて頂き、ありがとうございました!

2015/7/15