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<東京怪談・PCゲームノベル>


脱出不可能?迷路探検依頼!



「で、依頼内容は何なんだ?」
咥え煙草で頭を掻いた草間・武彦が、面倒臭そうな表情を隠すこともなくビルを睨み付けている。
『怪奇現象』としか聞いていなかった草間が、依頼内容をはっきりと覚えているかと言われれば。そこは、まぁ。同行者である二人が覚えているだろう。
隣に立つ草間をじとりと見上げる草間・零が、やや頬を膨らませつつ口を開く。
「兄さん……ちゃんと話は聞いて下さい」
「聞いて断れるなら聞く」
「に・い・さ・ん?」
軽く足を踏み鳴らす零に、肩を竦めつつ逆隣りに立つ少女を見下ろせば、そこには紅玉と水銀のオッドアイ。
「ご依頼人様曰く、この廃ビルに入った者は二度と出られない。とのことです」
「出られない、ねぇ……」
面倒くさそうにそう言う草間に、遙瑠歌が口を開いた。
「とにかく、参りましょう。草間・武彦様。依頼人様から、後の事はお聞きしましょう」
「ったく……」
珍しく興味を持ったのか、扉へと向かう小さな少女を見て、草間は煙草を深く吸い込み、大きく吐き出した。



カツン、カツンと冷たいコンクリートに足音が響く。
「それにしても……どことなく寒いな……」
冬というわけでもないのに、吐く息が白いような。
フェイト(8636)は闇色の銃を手に静かに歩を進めていた。
人の気配はする。しかし、まだかなり遠い。
(それに。この数は……)
入ったきり出られない。と噂の立っているビルを調査するように、と単独指令を受けたのが1時間前。
愛銃を手にビルに入ったのが20分前。
あえて小さく響かせる足音は、自身の進入と居場所を知らせるためのものだ。
向こうから来てくれるのならば話が早く済む。
相手が敵であるならば排除するだけ。そうでないなら保護なり相手の望む道を照らすなり、いくらでも方法はあるだろう。
「とはいえ……向こうからこっちに来てくれる様子はない、か」
人の気配はかなり先。そしてなぜか、その場所に密集しているように感じられるのだ。
こうなったら、能力を使ってもう少し詳細を探るべきだろうか。
歩を進めながらの逡巡の後、ふとフェイトは振り返った。
新しい人の気配を察知したのだ。
(ひとつ、ふたつ……いや、みっつ……?)
しかし、ふたつは確かに感じられるのに、もうひとつがあやふやで。
「まずは、後方から聞いてみるか」
遥か先の複数より、後方からの数名の方が話を聞くには適しているだろう。
くるりと方向転換したフェイトは、足音を微かに響かせつつ元来た道を辿り始めるのだった。



向かってくる足音に、ゆっくりと零が体勢を低く取る。
「遥瑠歌、後ろに下がってろ」
戦闘を零。その後ろで草間が目を細め、その後ろで遥瑠歌が無機質な色違いの瞳を開き、前方を見ていた。
「足音は一つ、か……」
立ち止まり、相手の出方を確認するように目を凝らす零が、勢いよく日本刀を具現化させ鞘から抜き取る。
そのまま暗がりに一閃させた、その次の瞬間。
ギィン……!
一閃された刀の腹を、硬質な銃底が叩き払う。
思わぬ反撃に目を見開いた零が、正面に現れた漆黒の髪を捉える。
「……っぶな……!」
「……フェイト?」
暗闇に浮かぶ翡翠の瞳が、己を呼ぶ声に大きく開かれる。
「え、あれ。草間さん!?」



「すみません零さん。もっとちゃんと確認出来ていればよかったんですけど」
「いえ、こちらこそすみません」
日本刀と銃をそれぞれ戻しつつ、臨戦態勢を解いた二人が頭を下げ合う。
その姿を眺めつつ、草間がゆっくりと頭を掻いた。
「変なところで会ったな」
その言葉と同時に、草間の背後からゆっくりと銀の髪を揺らしつつ姿を見せた遥瑠歌を確認して、フェイトは一人納得する。
「そうか。あれは遥瑠歌さんだったんですね」
彼の言葉に、人形のような少女は紅玉と水銀の瞳をまっすぐ彼に向けつつ小さく頷いた。
「お久しぶりで御座います、フェイト様」
「あ、名前覚えててくれたんですね」
もう一度頷く遥瑠歌に笑いかけて、頭を掻いたままの草間へと視線を移す。
苦虫を噛み潰した表情なのは、恐らくフェイトが銃を持ってここにいたその理由を察したからだろう。
「お前がいるってことは、完全に『アレ』絡みか」
「あはは……すみません」
草間・武彦の『怪奇嫌い』は筋金入りだ。
この東京で探偵業を営んでいる彼の元には、様々な依頼が舞い込む。
けれど、不思議なことに彼の元へとやってくる依頼の大半が、彼の望まない『怪奇』絡み。
仕事柄、そういう現場で出会うことの多い二人だけに、お互いの存在が揃ってしまえばそれはほぼ『確定』となる。
「……よし。フェイト、情報交換しないか」
「お話し出来る分だけでよければ、是非」
会ったのも何かの縁。
暗く寂れた廃ビルにいつまでもいたい人間はそうそういないだろう。
「それじゃあ、私は少し周りを見てきますね」
告げて、零が周囲の確認に向かい、遥瑠歌がそれに付随してついていく。
草間が新しい煙草に火を着けた屈み込んだところで、情報交換開始となった。



ビルの奥で、幾つもの気配が蠢いている。
情報交換の末、零と遥瑠歌が再び合流した一行はビルの内部を進んでいく。
「『無職、あるいはクビになった人間』ばかりが消えていくビル、ですか」
首を傾げつつ、フェイトは考える。
これが、人種を問わずであればこんな疑問は浮かばない。
しかし入っていった人たちに『共通点』があるのなら、話は別だ。
「草間さん、ちょっと『あれ』使ってみます」
フェイトの言葉に、咥え煙草の草間が肩を竦めつつ頷く。
「零、遥瑠歌。出来るだけ『邪魔』しないようにしておけ」
付け足されたような言葉に、一瞬苦笑が漏れる。
(そんな気遣い、しなくてもいいですよ?)
きっと草間は、フェイトの邪魔にならない様にと言ったのだろう。
けれどフェイトにとって草間も零も、そして遥瑠歌も。
邪魔になるような『対象』ではない。
配慮されることにくすぐったさを感じつつ、そっと目を閉じる。
(ビジョンは明確。ビルの構造は叩き込んでる。それじゃあ……始めよう)
ビル全体へと、余すことなく自身の意識を張り巡らせる。
『テレパシー』と呼ばれるその能力は、かつてフェイトにとって苦手とする分野だった。
しかし、彼は苦手をそのままにすることをよしとするタイプではない。
苦手なものは得意へと昇華させるべく、努力と鍛錬を怠らないタイプだ。
探り、得た情報をまとめ。
ゆっくりと目を開くと、一瞬鮮やかな翡翠の玉が煌めいたように見えた。
「どうだ?」
常と変らぬ草間の口調に、フェイトは躊躇いつつそっと口を開く。
「それが……」



確認できた気配は全て人間だけ。
それも、最上階に複数の気配がまとめて存在している。
とにかく、怪奇もその他の人間も他の階に存在しないのならば、警戒して歩みを遅くする必要はないだろう。
そう判断した4人は、一直線に最上階へと向かう。
「怪奇がないなら、最上階で何やってんだ?」
「分かりません。ただ、気配は特に動き回ったり止まり続けたりしていたわけではないので……。事件等というわけでもない、みたいです」
誰かに脅されていたり、事件に巻き込まれて恐怖に苛まれていれば、人は逃げ回ったりもしくは一歩も動かずにいるものだ。
けれど、フェイトが確認する限り、その気配たちはまるで『穏やか』に日常生活を送っているかのような動きしかみせなかった。
最上階へと続く扉を慎重に押し開き。そして、眼前に広がる景色に。
草間、フェイト、零の3人は、思わず言葉を失うのだった。



「草間・武彦様。何故あの方々は紙の箱で家を模したものを作っていらっしゃるのですか」
言葉を失う3人に代わり、まっさきに口を開いたのは紅玉と水銀の瞳を持つ少女だった。
押し開かれた扉のその奥に広がる景色。それは。
「……え。ホームレス……?」
まるで、街中の公園で見られる、いわゆる『ホームレス』の集団そのものだった。
「おぉ、なんだ?珍しいな。一家丸ごとで来たんか?」
固まったまま動かない草間たちへと歩み寄ったのは、一人の男。
男はへらへらと緊張感のない表情で笑いつつ話しかける。
「ここに来るやつらはみんな、仕事なくしたり家族に出ていかれたりしたやつらばっかやからなぁ。一家丸ごとはあんたたちが初めてだ」
「あ、いえ。僕たちはそういうのでは」
我に返ったフェイトが否定するも、男は「分かってる分かってる。気にするな」とまるでそれを否定として受け取らない。
「気にせんでも、ここのやつらはお互い似た境遇やからな。恥ずかしがることないぞ」
ここは天井があるから雨もしのげる。それに、囲まれているから冷たい風にさらされることもない。
「気が付けば、入ったきり出られないビル。なんて言われて、変なやつらも入らなくなったからなぁ。安全だ」
だから心配するな。と最年長の草間の肩を叩き、男は手を振って離れていった。
「……えー、と?」
困惑しつつ振り返ったフェイトは、思わず顔を引きつらせる。
肩を震わせ俯いた『彼』は、低く唸るような声を発した後に大きく息を吸い込んで。
「俺らはホームレスじゃねぇ!!!」
廃墟のビルに、一人の男の怒号が響き渡るのだった。



<経過報告>
担当者:フェイト
対象である廃ビルを捜索。
怪奇とは全くの無関係であり、事件性も皆無であることを確認。
経過観察も不要と判断。

尚、今任務中に探偵の「草間・武彦」氏と同行したことを、追記とする。


ペンを置いて、大きく伸びを一つ。
何とも不思議で間の抜けた任務が、やっと終わりを迎えた。


END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8636/フェイト/男/22歳/IO2エージェント】
【公式NPC/草間・武彦/男/30歳/草間興信所所長・探偵】
【公式NPC/草間・零/女/年齢不詳/草間興信所の探偵見習い】
【NPC4579/遥瑠歌/女/10歳(外見年齢)/創砂深歌者】      


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■         ライター通信          ■
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大変お待たせ致しまして申し訳御座いません。
三度目のご依頼、誠に有難う御座いました。
今回はフェイトさんの能力について書かせて頂きました。
銃でのアクションも少しだけ描写させて頂きましたが、お気に召すと嬉しいです。