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<東京怪談ノベル(シングル)>


黒の降る夜(2)
 星明かり一つ見えない、嫌な夜だ。雲間から僅かに覗く夜空も、異形が我が物顔で隠してしまう。
 背中に生えた漆黒の翼で空を飛び街を襲っていた悪魔は、不意に目の前で起きた異変にその手を止めた。
 彼らの視界を奪い去ったのは、落雷かと見紛うばかりの眩い光。それは、まっすぐに悪魔へと向かって行きその体を包み込んだ。襲いかかる強烈な痛みと痺れに、直撃を受けた数体の悪魔は悲鳴をあげながら地へと落下していく。
 瑞科の放った、電撃攻撃だ。杖を構え、彼女は息をつく間もなく悪魔に第二撃を与える。再び辺りを閃光が照らし、悪魔の甲高い悲鳴が響き渡った。
 残った悪魔達は一斉に彼女に殺気を向け、襲い掛かってくる。
 二度の電撃攻撃を見て、悪魔は瑞科が遠隔攻撃にしか優れぬと踏んだのだろう。しかし、それが大きな思い違いだったと気付くのにそう時間はかからなかった。
 ひらり、とプリーツのミニスカートが揺れた。瑞科は近づいてきた悪魔に、華麗な動きで回し蹴りをお見舞いする。
 そして、背後に忍び寄ってきた悪魔に振り向き様に杖の一撃。更に杖の長さを利用し、近くにいたもう一体の悪魔も巻き込み弾き飛ばした。
 攻撃を加えている最中の彼女の隙を突こうと、一体の悪魔が死角から彼女の懐へと飛び込み鋭い爪で引っ掻こうとする。しかし、瑞科に隙などというものは存在しない。
 ステップを踏むように、瑞科は軽快に相手と距離をとる。標的を失い体勢を崩しかけている悪魔に追い打ちを加えるように、彼女は杖で相手をなぎ払った。
 そう、瑞科は接近戦においても他の追随を許さぬ実力を持っているのだ。
「教会」が手配を済ませていたので、周囲に一般人の姿はない。
(おかげで思う存分、力を発揮出来ますわ)
 瑞科は胸中で、今回仕事に協力してくれた「教会」の者達に感謝の言葉を述べる。
 彼女は駆け、武器を振るい、電撃にて敵を狙い打つ。戦場を華麗に舞うその姿は、たとえるならば天使だろう。数多の悪魔と対峙する、一人の天使。
 心優しき天使であれど、街を荒らす無遠慮な悪魔に対しては無慈悲である。
 遠慮も手加減も必要ない。彼女は次々に、悪魔達に鉄槌を下していく。
『くくく、なんて強さだ……! 貴様の魂、さぞ美味い事だろうなぁ』
 不意に瑞科の鼓膜を震わせたのは、泥の中を這いずるようにどす黒くねっとりとした低い声。その声は確かに、今彼女と対峙している一体の悪魔から発せられたものであった。
「あら、ずいぶんと……お喋りがお上手ですのね」
 瑞科は、扇情的な瞳を細め僅かに瞠目する。
 人語を解する悪魔。決して存在しないわけではないが、そのような悪魔は上級悪魔である。
 今回のような、街中の襲撃程度に出て来るようなレベルではないはずだ。不審に思い、瑞科は少しだけ眉を寄せた。
 けれど、それもほんの一瞬の事だ。隙を見せる事なく、彼女は次の攻撃に移る。
 瑞科は、いっきに相手との間合いを詰める。悪魔の体に、彼女の持っている杖が触れた。 
 瞬間、周囲を支配する閃光。響き渡る、悲鳴。
 上級の悪魔といえど、瑞科の放つ強力な電撃を至近距離で喰らえばひとたまりもない。
 悪魔はふらふらとその体を地へと横たえ、そして宙へと溶けていった。

 ◆

 空を覆う程いた悪魔も、気付けばいなくなっていた。
 たった一人で、彼女はあれ程の数の敵を全て倒してみせたのである。
 けれど、その体には傷どころか汚れ一つついていない。
「教会」随一の力を持つ彼女にとって、このくらいの敵の相手など準備運動にもならないのだ。圧倒的な実力差で、今宵も彼女は任務を終えたのである。

 後は、帰って司令官に任務達成の報告をするだけだ。
 そんな時、ふと彼女の視界を一匹のコウモリが横切った。
「あら……」
 コウモリは力なく飛びながらも、逃げるようにとある場所へと向かい飛んで行く。
「確かあちらの方向にはー―」
 コウモリが向かっていった方向にある、とある建物の事を思い出し、瑞科は思考を巡らせた。
 整った顔立ちの女性は、花が咲くような笑みを浮かべる。パズルのピースのように、彼女の中で何かが繋がったような気がした。