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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 死を味わいて、現実に戻る ――

「……さて、どうしたものでしょうか」
 松本・太一は小さなため息を零す。
(『消えるイベント』に参加したまではいいんですけど、戻れなくなるなんて……)
 一種のバグのようなものなのだろうが、これが自分にどんな効果をもたらすのかと思うと、松本は恐怖で僅かに身体が震える。
(普通のRPGならば、お約束として脱出アイテムなり、脱出ポイントなりあるんでしょうが……さすがに、それは期待出来そうにもありませんね)
 他の者にとっては『普通のゲーム』でも、松本にとっては普通ではない。
(……まさか、このままゲームオーバーで死ぬ、なんてないですよね?)
 誰に問い掛けるでもなく、松本は心の中で呟き、そして拳を強く握り締める。
 握り締めた拳には、じわり、と汗が滲んでいて、それがやけにリアルだった。
「ここでこうしていても始まりませんし、せっかくですから進んでみましょう」
 入口付近で座り込んでいたけど、松本は自分の心を奮い立たせ、ゆっくりと歩き始めた。

※※※

 あれから松本は『消える洞窟』内の散策をすることにした。
 時間だけはあるため、罠やモンスターの大群に合わないように、ゆっくりと、慎重に進み、現在では地下11階までやってきた。
「……聖剣に聖杖、レアリティの高そうな武器ばかりごっそりと出てきますね」
 これを持ち帰ることが出来れば、結構な高値で売れるだろうし、松本自身のプレイにも役立つ物を多く手に入れる事が出来た。
(レベル上げもしたいところですけど、侵蝕のことを考えると……)
 ただでさえこんな状況なのに、レベルを上げ過ぎて戻った途端にゲームオーバー――……なんてことにもなりかねず、松本はレベル上げを躊躇っていた。
「それにしても、こんな風に私が終わったイベントの洞窟内にいるのですから、やっぱり『LOST』は普通のゲームではないのでしょうね……」
 こうして、意志を持った自分がゲーム内にいること――それが凄く不思議で仕方ない。
(私は『LOST』というゲームの中で、どんな存在になっているのでしょうか)
 考えれば考えるほど、不安になり、松本の心を恐怖が蝕んでいく。
(……いえ、やめましょう)
 軽く頭を振り、松本は再び前へと進み始める。
 そんな時だった、背筋が粟立つような感覚に襲われたのは――。
「……なんでしょうか、何か嫌な気配が……」
 その時、ひゅ、と風切音が響き、松本の頬を何かが掠める。
「シンニュウシャ ハイジョ シンニュウシャ ハイジョ――……」
 黒い布に身を包み、死神のような鎌を持った『何か』が、松本を狙っていた。
「いべんと 終ワッタ シンニュウシャ ハイジョ――……」
 どうやら、イベントが終わったにも関わらず洞窟内に残っている松本を『侵入者』として認識したらしく、死神は容赦なく襲いかかってくる。
(逃げないと……)
 そんな時(いつまで?)という考えが頭を過ぎった。
 次のイベントが開催されるまで、あれから逃げ続けるのは困難――いや、不可能だろう。
(……もし、あれにやられてしまったら私はどうなるのでしょうか)
 現実世界でも死ぬのか、それとも『LOST』の中だけで死ぬのか――。
 どちらにしても、松本にとって良い終わり方ではないことは確かだ。
「に、逃げなければ……」
 そう呟き、背中を向けた瞬間――。
 ドス、と鈍い音が響き、松本の意識はブラックアウトした。

※※※

「……う」
 気がつくと、見慣れた天井が視界に入ってきた。
「……私の、部屋?」
 床に倒れていたらしく、身体の節々が痛くて仕方がない。
「なんとか、生きて現実に戻って来られたみたいですね」
 立ち上がろうとした時、胸に激しい痛みが生じて、松本は服を脱いで胸の辺りを見る。
「これは……!」
 すると、胸には刺し傷の痕のようなものが残っていて、それは『LOST』内で死神に刺された場所だということを思い出す。
 僅かに心臓を逸れていて、もし心臓を刺されていたら、と思うとゾッとした。
 そして、パソコンの画面には――…。

『またのログインをお待ちしております――』

 ……とだけ、表示されていた。



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回は『死に戻り』の話でしたが、いかがでしたでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていますと幸いです。
今回も書かせて頂き、ありがとうございました。
また、機会がありましたら宜しくお願い致します……!

2015/8/7