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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 少女カスミの謎冒険譚

 「自分の創ったミステリー小説に幽霊が現れただと?」
 少女カスミはコクリと神妙な面持ちになって頷く。
 最早ここまでくると探偵もこの『草間興信所』と言う立て看板も『心霊研究なんでも屋』に切り替えた方が儲かるかもしれない。
 「いや、今はそんな事はどうでも良い」思わず煙草の煙とともに独り言を吐き出す。
 「どうでも良くない! 私にとっては一大事なの!」
 武彦のどうでも良い妄想&独り言をどう受け取ったのか、またもや誤解を招いて喚き散らすカスミ。
 「具体的にどう言う事? カスミさん」
 草間零だけが場の空気を取り仕切る。どうやらここは彼女のテリトリーだ。
 「知ってる? その幽霊はね」カスミは優しく聞いてくれる零になんだか好意を抱いたみたいだ。
 「私の家のご近所さんなんだよ!」

 「――と、言う訳でアルバイトがてら今回の件はお前に任せた。海原みなも」
 「何が――と、言う訳なんですか? 草間さん」
 海原みなもは武蔵野にある公立初等中等高等学校の中等部1年生。彼女はこの草間興信所にアルバイトにやって来た。
 「何せ今回の依頼が依頼ですから…こう見えてもお兄さんはみなもさんに期待してるんですよ」
 思わず笑みを零してしまう。草間零。
 「期待? この俺が? 今回の依頼相手は小学生だぞ」
 ムスッと踏ん反り返りながら、武彦は狭い事務所のデスクにある小汚い埃被ったソファーでコーヒーを啜る。
 たまにはコーヒーも良い。ハードボイルド路線がそう言っている。脳内と肺はニコチンで満たされていたが。
 「でも。その問題は解決所か手掛かりだって掴めていないんでしょう? 相手は小学生なのに」
 ブハッ! 思わず熱いコーヒーが喉の奥に引っ掛かり咽てしまう。痛い所を突かれてしまった。
 衝動的に煙草を探すがあいにく切らしてしまっている。何だかあの謎少女カスミといいこの目の前の少女みなもといいこの世は異能で満ちている。
 もちろんそんな事断じて認めないのが草間武彦の性分だが。それより煙草を買わねば死んでしまう。これから先、生きていけない。
 「て、手掛かりならある」最早瀕死の重傷でも負ったのか未だにゲホゲホ咽ている武彦。口からは血ではなくまさかのコーヒーが滴っている。何だか温い。
 その姿を見るに見かねた草間零は彼の口元をキレイに布巾で拭ってやりサッサと本題に移る。
 「そ、そう。手掛かりならあります。そのカスミさんの幽霊は何でも近所に住んでいる大学生くらいの女性らしいの」
 「生きている人が幽霊?」
 「だからこそ触れたいんだ」やっとこさ呼吸困難から解放された武彦。
 「何にですか?」
 「カスミのミステリー小説の内容にだ」
 その前にキーアイテムの煙草を買ってこなければ戦闘不能に陥りそうなハードボイルド男。草間武彦だった。

 少女カスミが住んでいるのは都内にある高級住宅地の片隅にひっそりとたたずんでいる分譲マンションだった。
 「全く。あのガキも大層ご立派な所に住んでるんだな」
 キーアイテムの煙草を手にし己のハードボイルド路線をなんとか生き永らえにして貫徹した武彦はいつの間にか満身創痍で復活していた。
 「カスミさんのミステリー小説ってどんなもの何でしょう?」
 草間零はいつも通りだったが、やや好奇心が勝っている様子。
 「確かに気になりますね。でも私は今回アルバイトとしてやって来たんですが…」
 海原みなもはとても冷静沈着に今回の件に自分は関係ないのではないかと主張していた。
 「まあ、ちゃちなガキが創り上げたミステリー小説とやらにとんでもない怪物が潜んでなけりゃ良いがな」

 エントランスホールのオートロックを解除した草間兄妹と海原みなもは廊下を伝ってエレベーターへと乗り込む。
 カスミの住んでいる階は7階。すぐに【7】と表示されているボタンを押すと音もなく扉は閉まり機械で出来た箱は上昇する。
 突然だった。
 海原みなもは何者かの気配を感知した。いや、具体的に言えばこのエレベーターホール自体が締まった瞬間に微かに水の気配を感知したのだ。
 彼女は南洋系人魚の末裔としてこの世に生まれた時から水に対しては常に敏感であり、いやそれ以上にそれは彼女の特殊体質の1つでもあった。
 「!」
 明らかにピリピリとしたその場の空気を察知したのか草間武彦は静かに問い掛ける。
 「どうした? 何かあったのか?」
 みなもは神妙な面持ちで信じがたい一言を告げる。
 「分かりました。草間さん。カスミちゃんの言っている事は全て本当です。カスミちゃんが書いたミステリー小説には本物の幽霊が出ます」
 「え?」
 「何だって!?」
 草間零も草間武彦も内心で何かの間違いだと思った。
 「どういう事だ? 具体的な説明を頼む。教えてくれ。海原みなも」
 「答えなら目の前です」
 ――チン――
 その時、エレベーターは止まった。7階だ。扉の前には何者かの人影が佇む。
 それは若い女性だった。まだ20歳にも満たない清楚な感じの雰囲気にどこか自然とした色気を備えている。
 白と黒のボーダー柄のキャミソールに少し短めのピンクのキュロットスカートを履いている。
 肌が異様に白く透き通っているみたいだ。化粧はほんのりと口紅が紅の光沢を宿していた。
 この時、初めて草間零は気付いた。この人は人間じゃない。人外の生物。だけどなぜ霊感のある自分はもっと早く気付けなかったのか?
 「あなた達が私の邪魔をしに来たカスミのお客さんね」

 「邪魔をしに来た?」その女の発言に少しムッとなって言い返す武彦。
 「どう言う事なの? みなもさん!」零は自分の能力の届かない範囲でしどろもどろしてる模様。
 「大丈夫です。皆さん。慌てないで下さい。この人は水を媒介にしてこのマンションのある程度の範囲を乗っ取ったある種の地縛霊です。ですが――」
 「そう。私は誰にも危害を加えない。私は私の拠り所を彷徨う浮遊霊でもある。そこで近所のカスミちゃんに憑りついた」
 「何の為にだ?」
 「カスミちゃんに私の正体を知らせない為よ。結局裏目に出ちゃったけどね」
 「裏目に出た? 水を媒介にしてマンションを乗っ取った? そんな事って出来るの? 一体カスミちゃんはどんなミステリー小説を創ったの?」
 「私が説明します」海原みなもは冷静にだけどやはりどこかもの悲しい顔をして今回の事件のあらましを語った。

 現在は夏。そしてこの目の前の女性はつい最近まで生きていた。カスミの面倒を見てくれた近所のお姉さん。
 だがある日、事件は唐突に起こった。大学から帰宅したこの女性はいつもの様にエレベーターに乗り込み7階にある自分の家へと向かおうとしていた。
 しかしエレベーターは途中で急停止し、蛍光灯は消え室内は真っ暗闇に満たされた。先月での出来事だ。

 「先月?」
 「そうです。その日は6月の中旬。日本の季節で言う所の夏と言うよりも――梅雨の時期」

 その日は生憎の土砂降りに豪雨が日本の関東圏を襲っていた。

 「その影響でこのエレベーターがぶっ壊れたと」
 草間武彦は言う。しかし事件は意外な方向へと発展する。
 「いいえ。違います。このエレベーターは壊れていません。問題なのはこのエレベーターに憑依、つまり住みついている何者かです」

 エレベーターは一度は停止したものの壊れてなどいなかった。ここに住む主が、不意に目の前に立っている女子大生を襲ったのだ。

 「その主こそが今回の事件の首謀者です」
 海原みなもは真剣にかつハッキリとした口調で断言した。
 そしてその時!

 「ククク。こうも容易く正体がばれるとは思わんかったのう。さすがは人魚の末裔。みなもと申したか」
 女子大生に憑依していた大蛇の化け物がいきなり姿を現した。まとわりつく様にその女子大生にとぐろを巻いている。
 「あなたは蛟(みずち)ですね。太古の昔に滅ぼされたものと思ってました。まさか梅雨の時期を狙ってこんな所で出くわすとは」
 「蛟(みずち)? それってもしかして――」
 「何だコイツは一体!」
 草間武彦はともかく草間零は何かに気付いたようだ。
 「そうです。零さんの霊感が鈍っていた訳ではありません。私は人魚の末裔ですからいち早く察知したまでの事。何せ相手は水の霊ですから」
 「でもそれとカスミさんのミステリー小説と何の関係が?」
 「それは直接本人に聞かなければなりませんね」
 蛟(みずち)はゆっくりと語り出す。自分は水の霊であり、ある日を境にしてこの湿気の多いエレベーターホールに閉じ込められてしまった。
 そして梅雨の時期をひっそりと待った。そして最初に現れたのがあの少女カスミだった。
 カスミの傘に滴った水を命綱としてなんとか蛟(みずち)はそのホール内から出てマンションの一部を乗っ取るまでに回復した。
 蛟(みずち)はカスミに恩返しがしたかった。そこでカスミがミステリー小説を書いている事に気付いた。幽霊が出るミステリー小説。
 そこで蛟(みずち)は閃いた。ならば本物の幽霊である自分の正体を明かそう。だが、それにはどうしても他者の力が必要だった。
 そしてあの女子大生を襲った。

 「そうして女子大生を生け捕りにした蛟(みずち)はカスミさんのミステリー小説に出てくる登場人物になりきって目の前に現れる様になった」

 「我を殺すつもりか?」
 「残念ですがどの様な理由があろうとも人を殺してしまった霊を放っておく事は出来ません」
 「フ――フフ。そうか。最後に良い思いをさせてもらった」
 「あなたが良き人に生まれ変わる事を私も祈っています」
 みなもは蛟(みずち)に最後の一撃を放った。

 「これで良かったのかどうか…」
 「良かったに決まってる。あの蛟(みずち)とやらの化け物も倒したんだし、女子大生の怨念もきっと晴れた」
 「そうですよ。それにしてもあの女子大生さんは――浮かばれないですね」
 こうして事件はなんとか一件落着した――かに見えたが…
 「あ、オジサン達。やっと来てくれたんだね! 遅いから飛び出して来ちゃった。早く私のミステリー小説読んでよ!」
 少女カスミが出現!

 どうやら最大の難関はこれから始まるみたいだ。(了)


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/女性/13歳/女学生】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして。海原みなもさん。ライターを担当したくをんです。
 今回初めての御依頼ありがとうございます。
 正直言って緊張しました。何せ今回、初仕事でしたから。
 だからあなたがお客様第一号です。
 果たして気に入ってくれたかどうか…気になります。
 ではではぜひ今後ともくをんを宜しくお願いします。