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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― BAD END ――

「……はぁ、はぁ……っ!」
 松本・太一は『アレ』から逃げるため、必死に洞窟の中を走り回っていた。
 消えた洞窟イベントにて、松本は洞窟内に残されるというハプニングが起こり、最初は宝箱を探したりなど、あまり今の自分の状況を深く考えていなかった。
 しかし『アレ』が現れ、松本は初めて自分の置かれた立場に気づいた。
(……あれは、一体何なんでしょうか……!)
 洞窟の中をあてもなく走りながら、松本は心の中で呟く。
 てっきりゲームオーバーを示す死神でも現れるのかと思ったら、サキュバス(女夢魔)が現れ、松本の経験値をエナジードレイン……つまり、精気吸収で奪い始めたのだ。
 エナジードレインを受けた直後から、松本の『女性化』は急激に加速して、今ではほとんどが女性になっていると言っても過言ではない。
 恐らく『サキュバス(女夢魔)』が現れたのは、松本の本体が男性だからなのだろう。
(エナジードレインで、どんどんレベルが下がっていく……)
 レベル低下に伴い、松本の女性化が進み、恐らく最終的には『女性』となって終わるのだろう。
「……私が、完全に女性化したら、どうなるんでしょうか」
 想像もつかないことに、松本はブルリと身体を震わせる。
「あっ……!」
 考え事をしていたせいか、それともサキュバス(女夢魔)に上手く追いつめられてしまったのか、松本は行き止まりのところまで追いつめられていた。
「来た道を戻らなければ……っ!?」
 慌てて後ろを向くと、すぐそこにサキュバス(女夢魔)が迫って来ていた。
(……っ)
 今まで松本は自分が危険な状況だと分かりながらも、どこか楽観視していた部分があったのかもしれない。LOSTの異変に巻き込まれながらも、自分は大丈夫――……自意識過剰ではなく、予想出来ない未来に完璧な危機感を持つ事が出来なかった、とでも言うのだろうか。
「あ、あ……っ」
 サキュバス(女夢魔)は妖艶な笑みを浮かべ、松本に手を差し伸べる。
 その途端、松本の身体は力が吸い取られるような感覚に見舞われた。
「……っ! や、やめてください……っ」
 松本が懇願するけど、その声や表情すらもサキュバス(女夢魔)にとっては、食事を彩るものでしかないようで、やめる気配は一切感じられない。
 どんどん経験値が奪い取られ、力も失われていき、松本はパソコンの前でドサリと倒れる。

『れべる ガ ぜろ ニ ナリマシタ』

 真っ暗な画面に、白い文字が表示され、現実の松本の姿はゆっくりと景色に溶け込んでいく。

※※※

「……ここは」
 次に目が覚めた時、松本は見知らぬ場所に立っていた。
「ここは、どこ……?」
 不思議なことに、自分がなぜその場所に立っているのか、そして自分の名前、今まで何をしていたのかさえ分からなくなっていた。
「私は……私? ……私は、誰? どうして、ここにいるの……?」
 松本は――……いや、松本だった彼女は周りを見渡し、何も分からない恐怖に怯えている。
 松本・太一という人間は、完全に行方不明となり、LOSTに名前、過去、記憶の失われた『女性NPC』が生まれた。
 これは、LOSTの意志に背いた者の末路――……。
「あなたも、駄目だったのね」
 見おぼえのあるような、ないような、曖昧な記憶の中、ひとりの女性が松本に話しかける。
「残念だわ、あなたはきっと私の願いを叶えてくれると思ったのに」
「……ね、がい……?」
「いいえ、もうあなたには関係のないこと。あなたはこの『LOST』の中で、失われた時間を生きていきなさい――……名前もない、ただのNPCとして、ね」
 それだけ告げると、彼女は松本の前から去って行った。
(分からない、何も分からないけど……私には、何かしなくてはいけなかったことが……)
 残った記憶も、徐々に薄れて行くのだろう。
 松本はふらふらと、フィールドを歩き始めたのだった。
 新たな『NPC』として。


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回は前回シナリオのバッドエンドバージョンですが、
いかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていましたら幸いです。

それでは、また機会がありましたら宜しくお願い致します。
今回も書かせて頂き、ありがとうございました!

2015/8/21