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<東京怪談ノベル(シングル)>


月下の侵入者

 夜空に浮かぶ月を雲が隠した。月明かりを失い、地上はすっと暗くなった。
 白鳥・瑞科はその機に乗じるように、建物を囲む塀に近づいた。辺りを注意しながら身軽に塀を乗り越える。建物に向かおうとすると遠くに人影が見えた。こちらへ歩いて来る。ざっざっという足音。瑞科は塀ギリギリまで後退し、樹木の影に身を潜めてやり過ごした。人が通り過ぎ、足音が遠ざかるのを確認すると、瑞科は建物に向かった。
 この建物は悪魔崇拝教団「セクト」の支部である。瑞科の今回の任務は、この教団に所属し暗殺等を務める実働部隊員の暗殺だ。
 瑞科は優秀な女性である。任務に関する資料は全て頭の中に入っている。ターゲットとなる実動部隊員が本日この支部にいること。今日は出払っている人間が多く、この支部にあまり人が居ないこと。
 人が少ないとは言っても、敵の本拠地に乗り込む事には違いない。人数で囲まれたらさすがの瑞科も手こずるだろう。人に見つからずに、素早く任務を完了させなければならない。

 男は広い廊下を歩いていた。中庭に面した側には壁が無く、石柱が立ち並んでいる。古代の神殿のような建築様式だ。顔を出した月が石柱を照らし、廊下に長い影を作っていた。
「……静かな夜だ」
 男は呟いた。
 そして腰に下げていた剣に手をかけると、剣を抜き、振り返りざまに斬りつけた。ガキィンと音が響く。瑞科のロッドが剣を受け止めた。
「何者だ」
 男が言う。瑞科は剣を弾き返し、背後に飛んだ。短いマントとミニのプリーツスカートがひるがえり、瑞科の太ももが一瞬あらわになる。瑞科は太ももに食い込む黒のニーソックスに、白い膝までの編み上げブーツを着用している。瑞科は石畳の上に華麗に着地した。衣服で抑えているが弾力のある豊満な胸が揺れた。
「名乗るほどの者ではございませんわ。時間もありませんし」
 瑞科が微笑んだ。濡れたような唇はとても魅惑的だ。しかし瑞科には、敵を誘惑する趣味も必要も無い。これは彼女の天性のものなのだ。
「ならば力づくで聞き出すとしよう」
 男は瑞科に向かい突進して来た。男が剣で斬りつける。しかしそこに瑞科はいない。しゃがみこんでいた瑞科は男の不意をついて立ち上がり、白い編み上げブーツのつま先で男のアゴを蹴り上げた。
「ぐっ」
 男はよろめいた。剣が地面にぶつかり、がりっと音がした。
「あのれええ!!」
 激昂した男が剣を振り上げて襲い掛かってくる。
 男は瑞科をあなどっていた。若く美しく豊満な肉体を持ち、それでいて聡明そうな、魅力的な女。しかし戦闘能力はそれほど高くはあるまいと、思っていた。
 瑞科は男の攻撃をすべてかわした。しかし男は瑞科の攻撃をかわすことは出来なかった。男は瑞科と距離を取り、呼吸を整えた。目の前の女は顔色が全く変わらない。凛とした美しい顔のままだ。男は瑞科の衣服を傷付けることすらできていない。
 瑞科は数々の任務を完璧にこなしてきた。これまで失敗は一切なく、敵には指一本触れさせずに勝利してきた。男がそれを知るよしはないが、到底敵う相手ではないのだ。
「うおおおおおっ」
 男が瑞科に向かって剣を振り上げた。
 瑞科は思ったより戦闘が長引いていることを気にしていた。声や物音で他の人間に気付かれてはまずい。早く仕留めなければ。
 瑞科は男に手の平を向け、重力弾を放つ。
「ぐわっ!!」
 男の体は吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「……敵だからといって、あまり苦しませたくはありません。終わりにしますね」
 瑞科はつかつかと男の前まで歩いて行った。歩く度にプリーツスカートが左右に揺れて、スカートの裾が瑞科の太ももに触れた。瑞科は壁に寄りかかるように倒れている男の前で手の平をかざすと、とどめを刺した。

 瑞科は茶色のロングヘアーを手で払った。激しい戦闘の後にも関わらず、髪はさらさらと整っており乱れは無い。ベレー帽もきっちりと着用している。
 瑞科は自分のウエストに手を当てた。彼女の衣類が、引き締まってくびれたウエストにぴったりとフィットしている。そこから上には、形の良い豊満なバストが上着を押し上げている。
 いつも通り、瑞科はひとつの傷も負うこと無く任務を完了した。圧倒的な能力。溢れ出る自信。しかしそれにおごり油断することはない。
 瑞科は空を見上げ、呟いた。
「月が綺麗な夜ですわね……」
 瑞科は任務を終え、教団を後にした。