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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― いつでもお嫁に行けます! ――

「ふぅ……」
 教会に泊めてもらっている代わりに、松本・太一は家事のほとんどを請け負っている。
 少し前に取得した日常スキルの発動で、大抵の家事は苦労なく終えられていた。
(そういえば、ここで日常スキルを覚えましたし、他のスキルも覚えられるのでしょうか? 洗濯や読解などのスキルがあれば、現実世界でも重宝しそうですし……)
 そんなことを考えていると、ふと『洗濯スキルを取得しました!』という文字が表示された。
(え、いきなり?)
 松本が目を瞬かせながら、スキル欄を見ると『洗濯を20回以上した者のみ取得可能』という文字が表示されていた。
(……教会に来て、20回以上の洗濯をしたから、ということでしょうか)
 先日の『消えるイベント』以降、松本は教会にこもる日が続いていた。
 教会の倉庫にある蔵書や、現実世界から持って来た本――と言っても電子書籍なのだけど、つまり本を読む時間ばかりを増やしていた。
(……あの夢を見てから、NPCに対する見方も変わってしまいましたし)
 消えるイベント関連で、松本は夢を見た。
 自分が名もなきNPCとして生きる――という、冗談にならない夢を。
(もしかしたら、この街にも『元・人間』の『NPC』がいるかもしれないんですよね)
 あの夢が事実だとは思えないけど、あまりにもリアルでただの夢として考えることは出来なかった。
(おまけに、この格好ですし、外にはあまり出られないですしね……)
 魔法少女の姿は、人目を引きすぎて、普通にクエストなども出来るはずがない。
(この前の『消えるイベント』でも結構目立っていたと聞きましたし……)
 だけど、これはいい機会かもしれないと松本は思っていた。
 日常とはいえ、スキルがある以上、何らかの時に役立つ可能性が高い。
 色々と調べてみると、日常スキルは戦闘で役に立たないことが多く、他のプレイヤーはあまり取得している者がいないのだとか。
 その割に、イベントの参加事項に日常スキルを持っていること、などというイベントもあるらしく、まったくの無意味ではないらしい。
(……そういえば、今度日常スキルを持つ者のイベントがあると書いてありましたね。まだ正式発表はされてないみたいですし、いつになるか分かりませんけど……)
 しかし、と松本は自分の取得スキル欄を見て苦笑する。
(まるで、ここで花嫁修業でもしているかのようなスキルですね……)
 洗濯まで覚えた今、松本は立派な『花嫁さん』になれるような気がする。
(ですが、現実世界でも役に立ちますし、もっと日常スキルを取得出来るように頑張りましょう)
 その時、ピコン、とメッセージ欄が光る。
 そこは運営からのお知らせらしく、日常スキル『値切り』が新たに追加されたのだと書いてある。
(値切り……)
 スキル名から見ても、恐らく買い物の類で得をするようなスキルなのだろう。
(武器、防具、アイテム……それらを買う時に便利かもしれませんし、取得場所も近いのでちょっと行ってみましょうか……)
 外に出るのは、まだ少し怖かったりする。
 けど、だからと言って何もしないわけにはいかない。
 そんなことを考えながら、松本は出掛ける準備を始めた。

※※※

「……案外、取得しやすかったですね」
 メッセージに記載されていた場所に赴き、松本は見事『値切り』のスキルを取得した。
 しかも、これは5名限定のスキルであり、日常スキルを多く取得している者が有利になるという、松本にとっては嬉しい条件だったのだ。
(そうだ、帰りに晩ご飯の材料を買って……確か今日は向こうの店の方が安かった……)
 主婦の考えのような事に、松本は苦笑する。
(こんな平和的なスキルでゲームクリアまで行ければいいんですけどね)
 無理だと分かっていながらも、松本はそう願わずにはいられなかった――……。


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます!
今回は日常的な内容でしたが、いかがだったでしょうか?
どんどんお嫁さんに近づいているような気がして、
だ、大丈夫かな、とハラハラしております。

気に入って頂ける内容になっていれば良いのですが……。

それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました!
また、機会がありましたら宜しくお願い致します。

2015/9/5