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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 淑女講習、女子力をあげましょう ――

 教会に集まる人に食事を作るため、松本・太一は商店街に買い出しへ来ていた。
 クエストを進める上では、あまり役に立たない場所なのかプレイヤーが訪れることは滅多になく、商店街が松本の貸し切りと言っても過言ではないほど、人がいない。
「すみません、こちらを頂けますか?」
 果物や野菜、そして少々の肉をカゴに入れ、松本は店員であるNPCの元へと向かう。
「いらっしゃい! いやぁ、ここも最近は人が少なくてねぇ! よし、嬢ちゃん、こいつを持っていきな! ついでに、料金も少しだけどまけてやるよ!」
 値切りのスキルを所持しているせいか、NPC店員は酷く親切だ。
(……元・人間だと言われても、不自然ではないほどに人間臭いNPCですね)
 本当に『NPC』なのかと、松本はNPCをジッと見つめる。
(いえ、今は私が気にすることではありませんね…)
 どうにかしないと、自分まで『元・人間』になる可能性があるのだ。
 松本は恐怖にも似た焦りを覚え、商店街を素早く立ち去った。

 ※※※

「これは……」
 何気なく覗いてみた攻略掲示板。
 そこには新規のクエスト一覧があり、新しいクエストが発表されたと書かれてある。
「淑女、講習?」
 まるで現実世界の花嫁修業のようなタイトルのクエストに、松本は少し笑ってしまう。
「これも日常スキル取得のチャンス、ですか……」
 先日分かったことだが、日常スキルは特定のクエストに必要だったり、隠しパラメータに影響したりと、メリットはあってもデメリットはないスキルらしい。
 勿論、そればかりを覚えていても『LOST』攻略は無理だが、のんびり楽しんでいる松本にとって日常スキルは決して無駄な物ではなかった。
「……このクエスト、頑張ってみますか」
 小さく呟いた後、松本は『淑女講習』のための準備を始めたのだった。

 ※※※

「……ふぅ」
 淑女講習に必要なのは化粧をして、ドレスを着こなし、優雅に立ち振る舞うこと――らしい。
(ドレスと化粧品は借りることが出来ましたけど、立ち居振る舞いだけは……)
 どうやらクエストはミスコン的な内容らしく、松本は緊張してゴクリと喉を鳴らす。
(入手できるスキルは『化粧』『身だしなみ』『礼儀作法』――持っていても損はないスキルです。なんとかして、このクエストを成功させて、スキルを入手しなければ……)
 松本は緊張しながらもコンテストで求められることを、ひとつひとつクリアしていく。
 けれど、松本自身は気づいていないのだろう。
 このクエストを経て、自分の『女性化』が更に進むことになろうとは――……。

 ※※※

 コンテストは無事に終わり、優勝は松本だった。
(あ、日常スキルが増えてますね……あれ? 魅力の数値がやけに高くなっているような……もしかして、今回のクエストのおかげ、でしょうか?)
 かくり、と首を傾げながら松本は心の中で呟く。
 男性なら、コロリ、と落ちてしまいそうな仕草を無意識のうちでやってしまう松本。
(ん? 男性の視線が集まっているようですが、なんでしょう……?)
 以前の松本ならば、ここまで女性らしい態度は無意識で出なかった。
 しかし、先ほど『化粧』『身だしなみ』『礼儀作法』のスキルを入手したことで、女性化が進んだ松本は、周りの男性を誘惑するような仕草を無自覚でし始めていた。
 これは魅力の中に隠されている『妖艶』の隠しパラメータが、今回のクエストで大幅に上昇してしまったせいである。
 LOSTの異変に触れずとも、松本自身が『女性化』を進めるようなクエストを選んでしまったがために、自分の浸食度を更にあげてしまったのだ。
 もちろん、彼――……いや、彼女はそんなことになど気づいてはいない。
(新しいスキルも取得できましたし、使う機会があれば使ってみましょう)
 松本は楽しげに微笑みながら、女性化が進んだことにも気づかないまま、教会への道を歩き始めたのだった――……。

―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回は本人が気づかないまま【女性化】が進んでしまったのですが、
内容はいかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていましたら幸いです。

いつも楽しく書かせて頂いております。
また機会がありましたら、宜しくお願い致します。

それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!

2015/9/30