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<東京怪談ノベル(シングル)>


舞い降りた闇 2

 白鳥・瑞科にロッドを向けられた司祭は、首をうなだれている。
「なるべく苦しませずに終わらせます」
 瑞科がそう言うと、司祭の肩が震え始めた。

―怯えているのね。それは仕方がないことだわ。でも大丈夫。安らかにお眠りなさい……。

 司祭の肩の震えが徐々に大きくなってきた。口の端から、くく、というような声が漏れている。瑞科はその様子に違和感を覚えた。何だか様子がおかしい。
 ゆっくりと顔を上げた司祭は、笑っていた。
 瑞科は2、3歩後ろに下がり、司祭と距離をとった。司祭はゆらりと立ち上がる。その体からは禍々しいオーラが立ち上っている。
「私に本気を出させたことを褒めてやろう。しかし同時に、後悔することになるだろうな」
 司祭はそう言うと、杖を振り上げた。瑞科に向け、衝撃波が襲いかかる。瑞科は軽く身を翻してそれをかわした。衝撃波は背後のブロック塀に当たり、塀は激しく砕けた。
 司祭は次々と衝撃波を繰り出してきた。瑞科はそれらを身軽にかわす。

―先程までの弱り切った様子は演技だったというわけね。まだ力を残していたんだわ。

 しかも先程までより凶悪化している。これが司祭の本来の姿というわけだ。司祭のまとう禍々しいオーラは、とても人間のものとは思えなかった。もしかしたら、と瑞科は思う。
 司祭の攻撃を避けながらも、瑞科は距離を詰めた。瑞科のロッドの一撃を、司祭は杖で受け止める。ぎりぎりと押しながら、瑞科は尋ねた。
「あなたこそ、只の人間ではないようにお見受けしますが」
 司祭がくく、と笑う。
「私は、組織ではNO.2といったところでな。このような姿をしているが、人間ではない」
 瑞科がすらりと長い足で蹴りを繰り出すと、司祭が身軽に飛び上がった。着地した司祭は衝撃波を放つ。しかし同時に放った瑞科の重力波がそれを押しとどめる。2人の間で、圧縮した空気の衝撃がぶつかり合う。
「……!?」
 司祭は目の前に迫る波動に気付き、目を見開いた。瑞科の重力波が打ち勝ち、司祭めがけて迫ってきたのだ。司祭は避ける間もなくそれをまともに食らった。
「ぐ……っ!!」
 司祭の身体は激しく壁に叩きつけられ、地面に崩れた。その体勢のまま、少しだけ顔を上げ、瑞科を睨んだ。今度は本当に立ち上がれないようだ。

―今度こそ、終わりにしてあげましょうね、瑞科。

 瑞科は肩にかかる髪を払うと、ゆっくりと司祭に近づいて行った。その目の前に手をかざすと、最期の一撃で終わらせた。
 辺りには1体の悪魔もいない。瑞科は圧倒的な力で、すべての悪魔を殲滅した。相手がかなり高位の悪魔であろうと、彼女にかすり傷一つ付けることは出来なかった。
 瑞科はふうと息をつくと、目を閉じた。豊満なバストに手を当てる。呼吸も心拍も乱れてはいないが、無事に任務を終えたことでいささか気分が昂揚していた。
 ひとつ深呼吸をして、ベレー帽をかぶり直す。瑞科は帰路についた。


 数日後。瑞科は司令室に呼び出された。瑞科の隣には、別のシスター武装審問官がいる。2人は司令から新たな任務の説明を受けていた。

 瑞科が司祭から聞き出した新たな教団の情報を「教会」が調査し、事実であることが確認されていた。「教会」は本拠地とされる場所も把握している。危険な組織であると判断され、すみやかに壊滅するべきという結論に達した。
「奴らのアジトは本拠地と支部の2か所ある。2か所を同時に攻撃し、一気に殲滅する」
 司令が拳を握りしめた。
「白鳥君は本拠地への攻撃を担当してくれ」
「分かりました」
 司令の言葉に、瑞科はためらうことなく頷いた。
 もう一人のシスター武装審問官は支部の攻撃を命ぜられた。支部よりも本拠地の方が規模が大きく危険な任務となる。しかしそれは瑞科の能力が高く評価されているため、より難しい任務を任されたということだ。
「お任せ下さい」
 瑞科は自信たっぷりに微笑んだ。

 自室に戻った瑞科は出撃の準備に取り掛かった。
 クローゼットを開け、彼女専用のシスター服を取り出し、身にまとう。シスター服は特殊な素材で出来ており、彼女のグラマラスな身体にピタリと吸い付くようにフィットする。瑞科はベッドに腰掛けると、ミニのプリーツスカートから伸びる脚に黒のニーハイソックスを履いた。それからブーツを履く。細い指先で、白の編上げブーツの紐を結んだ。
 最後に、クローゼットの中に置いてあった戦闘用ロッドを手に取ると、姿見の前に立つ。鏡に写る自分の目をまっすぐに見つめた。瑞科には、任務に対する不安は無い。それどころか、新たな任務に向かう彼女の心は躍っていた。完璧に任務をやり遂げる、という強い自信があり、それは彼女を更に魅力的に美しく輝かせている。
「そろそろ出かけるとしましょうか」
 鏡の中の自分に微笑みかけ、自室を後にした。
 瑞科は本日も颯爽と出撃していくのであった。