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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― あるべき姿はどちら? ――

「……大丈夫でしょうかね」
 松本・太一は小さなため息をつきながら、同僚が住むマンションを見上げた。
 松本に『LOST』を勧め、MODなども渡してくれた同僚が風邪を引いたらしく、仕事上の連絡もあったので、松本がお見舞いに行くことになったのだ。
「季節の変わり目のせいか、最近は朝晩が冷えますからね……酷くないといいのですけど」
 松本自身、面倒見の良い性格のため、同僚のことが心配で仕方ないらしい。

※※※

「こ、これは……」
 同僚の部屋を訪ねると、想像以上の酷さに松本は眩暈を覚えた。
 足の踏み場もないほどの散らかりよう、キッチンにはカップラーメンやコンビニ弁当のゴミが所狭しと置かれていて、これでは治る病気も治らなくなる、と思ってしまうほどだ。
「仕事の資料を持って来たのですけど、ここに置いておきますね――……それと、しばらく眠るのがいいかと思います」
 松本は呟いた後、魔法を使用して同僚を眠らせる。
 寝る場所ということもあり、ベッドの上だけは比較的綺麗にされていたので、同僚をそこに眠らせ、松本は掃除、洗濯などをして帰ることを決めた。
「まずは掃除からですね、洗濯機に汚れ物を放り込んで、その間に掃除をしてしまいましょう」
 独り言のように呟きながら、松本はテキパキと行動していく。
 前から掃除などは嫌いじゃなかったが『LOST』の日常スキルを取得してからは、どちらかといえば『好き』の部類に入ってしまったかもしれない。
「〜〜♪」
 松本は鼻歌まじりに、掃除機をかけている。
 見る者が見れば、夫を看病して、掃除をする新妻――……のように見えなくもない。
(早く職場に復帰してもらわなければ、私にも結構負担があるんですよね)
 松本は心の中で呟きながら、ベッドの上で眠る同僚を見て、苦笑する。会社勤めのつらいところで、誰かが休めば、その時に動ける別の人間が負担をする――。
 当たり前なのだけれど、今は忙しい時期と重なってしまっているため、松本を含む他の社員達に負担が覆いかぶさって来ているのだ。

※※※

「……あれ、部屋が綺麗になってる」
 あれから数時間後。
 同僚の部屋は引っ越して来たばかりのように片付いており、松本はそれを半日程度でした。
「わりーな、なんか……迷惑かけちまって、そんなちっこいお前に……大変だったろ」
 LOSTの影響のせいか、松本の身長や体重も女性らしくなっており、持っていたスーツや服もサイズ変更が自動的にされていた。
 ある意味、LOSTの浸食が強くなってきていると言っても過言ではない。
「気にしないでください。おかゆを作っていますけど、食べられますか?」
「……んー、あー、なんとか食う。お前が作ってくれたんだし、食うよ」
 よろよろとベッドから起き上がりながら、同僚がソファに座る。
「あっ! 危ない……!」
 けど、高熱のせいか同僚はよろめき、松本が同僚を支えようとしたけれど――……男女の力の差のせいか、床に倒れこんでしまう。
(……私は、こんなに力がなくなってしまっているんですね)
 自分の力の無さに、松本は自分で驚いていた。
 松本の周囲も松本の女性化につき、男性ではなく女性として扱うようになっていた。
 松本自身、それに慣れて来ている部分もあり、今の出来事はある意味衝撃的だった。
「ん? どうかしたか?」
「……いえ、何でもありません」
 松本は苦笑いを浮かべながら、同僚を支えていた。

※※※

「……私は、どちらになりたいんでしょう」
 同僚の家からの帰り道、松本はオレンジ色に染まる夕日を見つめながら呟く。
「いえ、考えても仕方ありませんね。私は、私――……例え、どんな姿になろうとも、私なのですから」
 まるで自分に言い聞かせるように呟いた後、少し重い足を引きずって帰路に着いたのだった。


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回は少し悩む姿を描写させて頂きましたが、
いかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていますと幸いです。

それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら、宜しくお願い致します!

2015/10/11