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<東京怪談ノベル(シングル)>


―夢と現実と・4―

「悪くなかったね?」
「うん、扱った感じもフツーだったよ」
 市場で仕入れた素材を、サバイバル状態に近いシチュエーションで調理したみなもは、その感想を率直に表現していた。流石にゲーム内通貨を消費して買う素材が、野兎や川で釣る魚に劣るようでは話にならない、という懸念は払拭されたようである。
「やけにドライだね? みなもちゃんの手料理だから、もっと喜ぶかと思ったのに」
「彼女の手料理なら、以前のサバイバルで沢山食べたからね」
 照れたウィザードを弄るつもりだった雫が、意外そうに……と云うより、やや不満げに発言する。が、それも軽く躱すかのように、ウィザードはドライな態度で応じた。
 そして食材についての懸念がクリアになると、今度は装備品のチェックに掛かりたいという要望が出て来る。一度フィールドに出て、周囲のキャラがパワーアップしている事実を知った今、以前と同じ感覚で戦ったのでは命取りになる。依って、以後は装備品にも気を遣わなければならないと、雫を除く二人は思っていたからだ。
「俺は魔力で磁場を展開できるから防御の心配は無いとして……雫さんは初歩的な魔術と、それを発動するだけの魔力を備えているね。ただ、防御にそれを割いてしまうと攻撃する際に困る可能性があるかな?」
「うん、防御については防具を装備して何とかするつもりだよ。こんな水着同然の服だけじゃ心許ないからね」
 それが無難だね、とウィザードも頷く。但し、雫の場合はイザとなれば防壁を展開できる程度の魔力は備えている。問題は、設定上は魔力を全く使えないラミア――みなもである。
「ラミアって、文献によって魔力が使えたり使えなかったり、諸説紛々で謎だらけなんだよねー」
「俺も色々調べたが、ラミアは魔力を備えている場合が多いんだ」
 二人の視線が自分に集まっている事に気付き、みなもは『何か言わなきゃダメ?』なムードになっていた。だが、今のところ彼女自身に魔術の存在は自覚できていないようで、返答に困ってしまっていた。
「ステータス一覧に、魔術の項目は無い?」
「んー……魔法コマンド一覧がある事はあるけど、中身カラッポだよ。何の為にこの項目があるのか、あたしにも分からないんだよ」
「うん、全てのキャラは魔力を消費しながらフィールドを往来するから、魔力自体は存在するんだ。けど、それを自然消費するだけでなく、力として発揮する何かが隠されていると、俺は思うんだ。いま君は、魔法コマンド一覧があると云ったね?」
「……え?」
 ウィザードの口から、今まで知らなかった事実が紡がれる。そして話の続きを聞き出してみると……
「全く使えない項目は、最初からメニューに載ってはいないよ。君は何か、まだ試していないコマンドやアイテムがあるんじゃないかな?」
「えー? ……うん、あるよ。武装としても防具としても役に立たないから、アイテム袋の中で放置されてる奴が」
 それは何? とウィザードが問い質す。雫もまた、興味津々で話を聞いている。
「これだよ。腕輪なんだけど、どう見てもアクセサリーでしょ?」
「違うよ、これは魔力の封印を解くタリスマンだよ!」
 えぇ!? と驚くみなもに、着けてごらんよと迫るウィザード。それは、両腕に装着するブレスレットに宝玉が付いた、一見アクセサリーにしか見えない代物だった。が、それがラミアの封印を解く鍵になる、と彼は言っているのだ。
「良いけど……前に着けてみた時は、何も起こらなかったよ?」
「レベルだよ、その頃は未だレベルが低くて、封印の解除に至らなかったんだ。今の君なら、きっと!」
 ホントかなぁ? と云う感じで、みなもはブレスレットを両の腕に装着してみた。すると……
「な、何これ!?」
「力の開放だ! やはりラミアには、魔術を使える能力が備わっていたんだ!」
 眩いばかりの光に包まれ、心拍数が上がる。そしてステータス表を見てみると、それまでは心許なかった数値に変化が表れていた。
「254、だって……」
「え!? あたしは74だよ!?」
「魔術の専門家である俺でも1527だ。普通の幻獣にしては高い数値だよ……で、魔法コマンドに変化は?」
「あ、防護被膜と、視力強化の魔術が追加されてるよ!」
 やはりな……と、ウィザードは自説の正しさを証明できて満悦の様子だった。そしてみなもは、この腕輪にこんな力が隠されていたなんて……と、両腕に輝くそれをしげしげと眺めていた。

***

「しかし、君も雫さんと同様、魔力を防御に使ったら攻撃する際に力が足りなくなってしまう。だから防具で身を固めるべきだと思うよ」
「うん。鱗で覆われた下半身は良いとして、上半身はこれだけだもんね」
 そう、ラミアの上半身は人間の女性を模して形成されているが、それを覆うものは胸元の布きれ一枚だけ。防御力など無きに等しい。
「今までは攻撃される前に相手を倒せていたから、それほど必要性を感じなかったけどね。これからはそうは行かないだろう」
 そのウィザードの意見を素直に受け止め、みなもと雫は防具を選ぶために専門店の門を潜った。そこで雫は肩アーマーと胸当て、それにシールドを買い求めた。翌獣であるガルダが重装甲を施しては軽快性に難が出るという考えから、最低限の防御に留めて素材も革製の軽いものを選択したようだ。
 一方、みなもはと云うと。竜の鱗を素材とした鎧と籠手を装備し、シールドは選択しなかった。これは両腕自体を主武装とするラミアが盾を装備したら、攻撃の邪魔になると判断されたからだった。
「竜の鱗か、良い選択だね。軽いし、防御力も高い。それに対魔力属性が加わるから、ある程度の呪術なら直撃を受けても大丈夫だよ」
「魔力かぁ……今まで意識してなかったから、ちょっと怖いかな」
 慣れれば平気だよと笑うウィザードの言葉を信じ、改めて彼をコーチ役として信頼するに至ったみなもは、やはり微かに頬を紅潮させていた。
「あのー、ラブラブのところ申し訳ないんだけどね。あたしの攻撃魔法の中にある『ブライトソード』って何なの?」
「あぁ、それは刀剣類に魔力を乗せて、威力を倍増させる技だよ。そういう名前の剣がある訳じゃない。ラミアにもいずれ装備される筈だよ、クローは刀剣類に入るからね」
 成る程、それなら刃物を装備しなくちゃダメだねと、雫は初心者向けのダガーを購入した。刀身は短いが切れ味は抜群という、軽快さを売りにするガルダには最適の装備だった。

***

「街中では訓練できないから、一度フィールドに出てみようか」
 その音頭で、一同は街の外に出た……が、今日はログイン数が少ないのだろうか、敵対して来るキャラが殆ど居なかった。
「無駄に魔力が減っていくだけだね」
「微々たるものだよ、15歩で1ポイント減だからね」
 そう言いつつ、3人は皮の袋に入った菓子のようなものをポリポリかじりながら行軍していた。それは一粒で魔力を10ポイント回復させるアイテムであったが、安価で栄養価も高いため、普通に食料として摂取しても問題は無かった。
「何気に美味しいよね、これ」
「プレーンの他にコーヒー、チョコ、苺のフレーバーもあったからね。回復アイテムと云うより、おやつとして用意されたものじゃないかな」
 やはり、中身は少年少女。戦いよりも食欲と云う感じだろうか。そこが戦場であるという事を忘れ、和気あいあいと談笑する彼らの姿があった。

<了>