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最近のラノベにいそうな主人公=私?!
気がつくと私、藤田あやこ(7061)知らない世界にいた。
何故そんな事が言えるのかと言うと、いつも着ている制服もなければ、見たこともない景色だったからだ。そして、私は天蓋付のふかふかのベッドに横になっている。
……夢か……
そう思って、再び眠りにつこうとした時、明らかにおかしな人物が目に入った。
私を覗き込むようにして黒いフードを被った人物が見ている。しかも至近距離で。
「貴方はどちら様?」
至極当然の質問を私はした。
すると男とも女ともつかぬ声がフードからした。
「あー。説明するとちょっと面倒なんだけどね。……君達の世界で言うところの死神ってやつかな。」
私は唖然とするしかなかった。
死神……
「死神?!」
死神が目の前にいると言うことは、私死ぬの?
「あー、死ぬわけじゃないから……って言うか、一回死んでるって言うか……あー、微妙だわ」
「ちゃんと説明してくれますか?」
死神はフードを掻きながら長々と説明した。かいつまんで説明すると、赴任したばかりのこの死神はあろう事か初仕事の日に寝坊をし、よく似た地番にいたはずの人を殺すはずが、間違って私を殺してしまった。と言うことらしい。
「人違いで殺された私がここで寝てる理由は?」
体を触ってみるが温かいし、心臓も動いてる。
「いや、上司がさすがにマズいだろって言うからさ。こう、剣と魔法の世界ってやつで皇女やってもらおうかなって」
さすがに意味が分からない。どうしてこうなった。とつっこみしか出てこないレベルだ。
「あっ、ただの皇女じゃないから大丈夫。こっちのミスだからさ、無敵の力?君達の世界だとチートキャラでしかも記憶引継ぎシステムも導入しました!」
もう、どこのゲームの宣伝だろうと思いたくなるレベルだったが、確かに記憶はある。寝起きだったせいか、朧げだった記憶が戻ってくる。
記憶を持ったままチートキャラとして転生した私はそれはそれは退屈な子供生活をして、今日、父王の命令で政略結婚させられるのだ。
確か相手は緩衝国の王族。戦争が激化し緩衝国としての役目が果たせないと言って父に庇護を求めてきたのだ。父ははっきり言ってサービス精神旺盛で、家族より民の事を優先する人だ。いつもの調子で『ならば、我が国の皇女と其方の国の王子が結婚すれば敵国とて手は出せまい』とか何とかいって初潮前の私は勝手に政略結婚させられることになってしまった。
「それにしても……」
一言文句を言ってやろうと、そう口を開いた時、死神はもういなかった。
純白のドレス、純潔の証であるかのような白いバラ。王族の証の豪華なティアラ。自分が飾られていく。そんな中、左の邪気眼が疼いていた。こういう時はろくな事が起きない。そのろくな事がたいした事でなければ良いのに。そう思いながら私はバージンロードを歩き、神父の前で愛の誓いを口に……出来なかった。
甲冑の兵がいきなり入ってきたのだ。
「迎えに来た!」
兵はそう言った。全員が唖然とし、凍りつく中、動かない私にしびれを切らしたかのように兵は私の前に真っ直ぐやって来ると、
「あの熱い夜を忘れたとは言わせない。君は言ったんだ。私を城から逃がして。どこかで静かに愛を育みましょう。と」
場内が騒然とする。小さな囁きが漣のように聞こえる。
「不貞だ。あんなに若い顔をして……。王族としての恥はないのか」
はっきり言って言いがかりだった。呆然としている私に父が声をかける。
「あやこ、本当なのか?」
「違うわ、お父様。私はこんな方知らないもの!」
真実を告げる。本当にこの男を私は知らない。言ってる事も、存在自体も今知った。しかし、父の目は、周りの目は……やっぱり邪気眼の力も顕在か。
日をおかずに私は、どこかの洞窟へ隠されるように居を移すことになった。所謂流刑だ。身分を隠すように短剣を渡され、表向き冒険者として洞窟の軟体類を苛め、近くの村にある道具屋に売って日銭を稼いだ。
ある時、道具屋に来ていた旅の冒険者の会話から、自分のいた国の現状と私が流刑になった本当の理由を知る。
父の国は魔物が闊歩する酷い国になってしまったらしい。人などいない。魔物とその長、すなわち魔王である父、そして、その眷属しかいないと。だが、父は人間だ。魔物を治める力もない。そこで私はピンと来た。
あの時の王子が邪神だったのだと。邪神は王子に化け父を虜にし国をのっとろうとした。しかし、私がいた。邪神と言えど神の端くれ。私がどういう者なのかうすうす感づいていたのだろう。つまり私は邪魔だったのだ。
私はさっそく行動を開始した。許せなかった。父は確かにお人よしで王としての適性はなかったかもしれない。だが、優しい『人』だったのだ。
そこにつけこみ、魔王にしたその邪神が許せなかった。
邪神の眷属である、山脈龍を小刀で両断し耳目を集め、それを金銭に換えるとともに、自分の色香と父王の封土を報酬にし、魔王討伐のための勇者を募った。
思ったより簡単に勇者達は集まった。
魔王を倒せば自分の知名度は上がり、そこの皇女で若く魅力に満ちた私が手に入る。しかも、倒せなくても貢献すれば封土がもらえ一国一城の主になれる。それで目を輝かせる冒険者が思ったより多かったのだ。
私は彼らとともに内政チートを駆使して戦略核を造り、父の眷属だと言われている魔物たちを殆ど葬っていった。
そして、遂に因縁の対決。父の前に立つとそこには父の面影などこれっぽっちもなかった。いたのは禍々しくも美しいそれこそ魔王だった。
魔王は私の力を評価し賞賛し、共に世界を征服しその後の折半を提案した。が私は拒んだ。
「そんな物を私は望んでいないわ。それに、眷属がほぼいなくなった貴方にその眷属を葬った私が力を貸すと思うの?」
そう、嘲笑した。
事実だった。神はどんな形であれ崇める者がいなければ力を保てない。眷属がいない力を誇示できない邪神などに私が組する価値がない。彼は怒り、容赦ない天災と魍魎を使って私や勇者達を苛んだ。力尽きていく勇者達。私も膝をつき力尽きるのかと思ったその時、急に魔王が苦しみ始めたのだ。顔を上げるとそこには父がいた。
「お父様!」
正気に戻ったのかと駆け寄ろうとする私に父から飛び出した言葉は
「このまま俺ごと魔王を討て!!」
だった。動きが止まってしまう私に父は何度も詫びながら魔王としてしてきた狼藉を述懐し、そして
「過ちは正さなくてはならない。だからお前が魔王を討ちなさい。愛しているよ」
と一粒涙をこぼした。
私は剣を握りなおし泣き叫びながら魔王を両断した。それが父の王としての、父としての最期の矜持だったのだろうから。
結果的に私は世界を救い、その後生き残った勇者の一人と愛し合う中になり結ばれた。
そして、父に似た優しい穏やかな顔立ちの健康な男児を産んだ。
この子が大きくなったら父の話をたくさんしよう。
魔王ではなく、私が愛し、私を愛した誇り高い父の話を。
Fin
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