コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


―― LOST・失世界 ――

『ログイン・キーを入手せよ』
それがLOSTを始めて、ギルドから与えられるクエストだった。
そのクエストをクリアして『ログイン・キー』を入手しないと他のクエストを受ける事が出来ないと言うものだった。
クエストにカーソルを合わせてクリックすると、案内役の女性キャラクターが『このクエストを受けますか?』と念押しのように問いかけてくる。
「YES‥‥っと」
その途端に画面がぐにゃりと歪んでいき、周りには海に囲まれた社がぽつんとあった。
「あの社には大切な宝があるんだ、だけどモンスターがいて‥‥お願いだから宝が奪われる前にモンスターを退治しておくれよ」
社に渡る桟橋の所に少年キャラが立っていて、桟橋に近寄ると強制的に話しかけてくるようになっているようだ。
「ふぅん、まずはモンスターを退治するだけの簡単なクエストか」
小さく呟き、少年キャラが指差す社へと渡っていく。
そこで目にしたのは、緑色の気持ち悪いモンスターと社の中の中できらきらと輝く鍵のようなアイテムだった。

※深沢・美香の場合

「今日は待機時間が長いですし、噂のゲームでもしてみましょうか……」
 そう呟いて、美香はノートパソコンを開き『LOST』を起動させる。
 箱入りお嬢様のせいか、美香はゲーム知識も経験もほとんどない。
 ただ、先日美香の同僚が『LOST』の話をしていて、興味を持って、今回プレイするに至ったのだ。
「……ふぅん、色んな職業があるんですね……私は、武闘術師、にしましょう」
 名前や職業などステータス欄を埋めていき、美香はENTERを押す。
 すると、突然画面が暗転して、カタカタ、と音を響かせながら真っ黒な画面に白い文字が表示されていく。

『これより先はLOSTの領域です。貴方は後悔しませんか?』

不気味な演出に美香は少し恐怖を覚えながらも『しない』にカーソルを合わせ、再びENTERを押す。
「……忠告はしたのに、後悔しても知らないよ」
「えっ」
 女の子の声が耳元で響いたような気がして、美香は慌てて周りを見渡す。
「……誰も、いませんよね?」
 ここは美香に与えられた待機室、美香以外がいるはずがない。ましてや、聞こえてきた声のような少女など、いるはずもないのだ。

※※※

「わ、まるで本当にゲームの世界に入ったみたい……」
 専用ゴーグルを使うと、まるで自分自身がゲームの中に入り込んだような錯覚に陥る。
「あそこが、最初の町ですね」
 様々なNPCが存在して、大勢の人で賑わうマーケットがあり、多くの商人達がプレイヤーを呼び止めるため、いくつもメッセージウィンドウが表示されている。
「薬草はいらないかい? 冒険には必須だよ!」
「武器はいらんかね、何でも切り裂く剣でも、防御に適した盾も、何でも売ってるぜ!」
(よくは分からないのですけど、回復アイテムは買っておいた方が良さそうですね)
 最初の支度金として配られるお金の全部を薬草につぎ込み、買い物を終えたところで、ピコンと音が響き、画面に『♪』マークが表示されていた。
「えぇと、このマークは近くに受けられるクエストがある場合のみ、表示されます……とりあえず、この辺の人に話しかけていけばいいのでしょうか……?」
 美香は恐る恐るキャラクターを動かしながら、近くの少年NPCに話しかける。
「お姉ちゃん! 武器を持ってるから戦えるんだろう? あの中には町の宝があるんだ! モンスターに取られちゃうよ!」
 そう言って、少年NPCは町の中央にある社を指さした。
 それと同時に、画面に『クエスト発生! ログイン・キーを入手せよ!』というクエスト表が表示される。
(モンスターを倒して、ログイン・キー……とかいうのを守ればいいのでしょうか?)
 ゲームの仕組みが分からないまま、美香はそのまま社の中へと入っていく。
 ゲーム慣れしているならば、もっと情報を集めたりするのだろうが、美香は慣れておらず、そのまま指定された社へと向かってしまった。

※※※

「あの小さな社の中に、こんな大きな空間が……ゲームとは不思議なんですねぇ」
 キョロキョロと周りを見渡しながら、美香は呟く。
「あ、宝箱……中身は、薬草ですね」
 入手したアイテムをしまい、美香はどんどん先へと進んでいく。
 すると、2匹のゴブリンが美香の行く手を遮る。
「えっと、た、戦うでいいんでしょうか?」
 もともと基本的なパラメータが強いだけに、攻撃だけで十分ゴブリンを倒せる。
 けれど、防御を一切しておらず、ゴブリンを簡単に倒すことはできたけど、その分、美香も多少のダメージを受けてしまっていた。
「やっぱり薬草を買っていて良かったです、えっと、使っておきましょう」
 薬草をひとつ使用して、美香はHPを回復させる。
 そして、しばらく歩くと――……。

「コレ デ タイリョク ト マホウリョク ヲ カイフク シテクダサイ」

 魔法陣のようなものがあり、その中に入るとHPとMPが全回復した。
「……こういう物があるのなら、さっき薬草を使わなければ良かったですね。少し、勿体ないことをしてしまいました」
 苦笑しながら目の前の大きな扉を開けると、中には玉座があり、そこには先ほどのゴブリンを数倍大きくした下品なモンスターが座っていた。
「ログイン・キーは貴様などに渡さぬ、秘宝を求める愚か者よ、ここで果てるがいい!」
 そう言って、ボスゴブリンは抱えていた斧を美香めがけて振り下ろす。
「くっ、強い……ですね」
 ボスゴブリンの攻撃を避けながら、美香は眉根を寄せる。
「でも、せっかくここまで来たんですし、簡単にはやられたくないですね……」
 美香はそう呟き、スキル欄から武闘術師のスキルを使用してボスゴブリンに攻撃を行う。
「ぐああああっ」
 どうやら、ボスゴブリンは攻撃力こそ強いものの、防御力は紙のような弱さらしい。
「くそっ、ログイン・キーは渡さねぇぞぉっ!」
 襲い掛かってくるボスゴブリンに、美香は再びスキルを使用して攻撃を行う。
「ぎゃあああっ……」
 ボスゴブリンはHPがなくなり、砂のように消えていく。
「……これが、ログイン・キー」
 玉座の上でぷかぷかと浮かぶ鍵に手を伸ばすと――……。
「いたっ!」
 キーボードから弾かれるような痛みに、美香は目を丸く見開く。
「貴方は失う覚悟がありますか?」
 自身のキャラクターの前に現れたのは、赤いフリルと黒いフリルがあしらわれたドレスを身にまとった少女。
「答えてください、貴方は失う覚悟がありますか?」
「……あります、と」
 カーソルを合わせてクリックすると、少女の伏せられていた瞳が開かれ、画面越しに美香を見つめてくる。
「それでは、これをお持ちなさい。このログイン・キーは貴方を至福へと導くと同時に……破滅へと、導く物でもあります――……貴方は、どちらに選ばれるのかしら?」
 奇妙な雰囲気を纏う少女に、ゲームのキャラと分かりながらも美香はゾッとする何かを感じ取っていた。
「貴方に神のご加護があらんことを……深沢美香さん」
「えっ」
 入力した覚えのない本名に、美香は驚く。
(これは、どういうこと……? ただの、ゲームじゃないの?)
 美香は驚きながらもダンジョンから出て、クエスト完了報告を行う。
 そして、彼女の腰かけているベッドに淡く明滅する『ログイン・キー』に気付くのは、これより数分後のこと――……。

―― 登場人物 ――

6855/深沢・美香/女性/20歳/ソープ嬢

――――――――――

深沢・美香 様

初めまして、今回執筆をさせていただいた水貴透子です。
今回はLOSTにご発注いただき、ありがとうございました!
内容はいかがだったでしょうか?
気に入ってくださる内容に仕上がっていることを祈ります……!

それでは、今回は書かせていただき、ありがとうございました!

2015/11/17