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<東京怪談・PCゲームノベル>


―― 錆びた剣 ――
「この『世界』にまた新たなる『悪』が増えた――我らはそれを戒めねばならん」
黒い外套を頭まで被った人物が低い声で呟く。
声から察するに初老の男性なのだろう。
「またか、人間と言うものは理解しかねるね。何で自分から危険に足を踏み入れるのか‥‥」
その黒い外套の人物以外、誰もいないのに別の声――若い男性の声が響き渡る。
「ルネ、勝手に出てくるなと言うておるだろう」
先ほどのしゃがれた声が若い男性を戒めるように呟くが「別にいいじゃないの」と今度は若い女性の声が響く。
「今度の奴は『ログイン・キー』の封印を解除したんでしょう? あの女が封印を解くなんて――どんな奴か気になるわぁ」
けらけらと女性は笑いながら言葉を付け足す。
「ログイン・キーか‥‥奪うのかい?」
「いや、あれはただ奪えばいいだけのものではない。封印を解除された時から主の為にしか働かぬ。つまり――」
初老の男性が呟いた時「主ごと貰っちゃえばいいじゃないの」と女性が呟き、ばさりと外套を取る。
「7人で体を所有しているアタシ達だけど、今日はアタシの日よね? ちょっとからかいに行って来るわ」
そう呟いて女性・リネは甲高い声をあげながら黒い部屋から出たのだった。

――
そして、それと同時に新しいシナリオ『錆びた剣』と言うものが追加された。
まるでリネが『ログイン・キー』を持つ者を呼び寄せるかのように。

※深沢・美香の場合

先日から、美香は『LOST』という人気ゲームをプレイし始めていた。
これが意外と面白く、美香は待機時間を『LOST』をプレイして待つ――ということが、日課になりつつあった。
「けれど、ちょっと不思議なことがあるんですよね……」
 ゲームをプレイした後は必ず、何かを忘れているような、そんな感覚に見舞われるのだ。
(特に忘れていることなんて、ないと思うんですけど……)
 彼女は気付いていない。
 自分が『LOST』に選ばれてしまったということに――。
「それに、これ……なんだか、この前手に入れた『ログイン・キー』に似てる気が……ゲームの中のアイテムが、現実世界にあるなんて、ありえるはずがないですよね……」
 美香は先日見つけた『ログイン・キー』を見ながら、小さなため息を零す。
「とりあえず、この錆びた剣というクエストに挑戦してみましょうか」
 クエスト内容は町から出て、東にある廃墟に来るようにと指示が出されている。
 ここ数日で、美香は多少レベルを上げ、町周辺のモンスターになら苦労しなくなった。
(回復アイテムも持ったし、よし、大丈夫ですよね)
 奇妙な緊張感と共に、美香は指定された廃墟へと向かい始める――。

※※※

「あらあら、ログイン・キーを持つ者って言うから、もっと強そうな人を想像してたけど……こんなに可愛い人だとは思わなかったわぁ」
 指定された場所にいたのは、黒い外套を纏った女性NPCだった。
「……ふぅん。深沢美香っていうの、可愛い名前じゃない」
「……っ、あなたは、誰ですか? どうして、私の名前をっ……」
 現在、美香が失くしているのは過去の失敗の記憶――……普段なら、その記憶があり、慎重に慎重を重ねる彼女なのだが、失敗の記憶がないせいか、普段よりも強気な態度だ。
「あたしはリネ、貴方との関係を聞きたいなら……そうねぇ、味方にもなるし敵にもなりえるわねぇ、あたしとしては敵になりたくないけど。あなた、可愛いし♪」
(どういうことなんでしょう、この人は私の『キャラクター』ではなく、私自身に話しかけてきているような、そんな気がしてなりません……)
「現実世界での貴方も可愛いのね――……うふふ、そんなに怯えなくてもいいわよ。貴方、何も知らずにこのゲームに……あの女に巻き込まれただけなのね。可哀想に」
(巻き込まれた? それにあの女って……)
 目の前の出来事が現実なのか、それともゲーム中の演出なのか、区別が出来なくなってしまいそうになる。
「貴方は、あの女に選ばれたことによって何を失うのかしら……いえ、もう既に失われつつあるわね、貴方自身を作り出す大切な物を――」
 リネと名乗った女性は妖艶に微笑んだ後、ひゅ、と持っていた剣で攻撃を仕掛けてきた。
(――っ! わずか一撃で、HPが残り1まで削られた……!?)
 突然の出来事に、美香は目を見張って驚く。
「ログイン・キーの力は使わないの? いいわよ、使っても。今までの奴らみたいにログイン・キーの力をフルに使って、あたしに立ち向かって来ればいいわ」
 リネの言葉に、美香はキュッと唇をかみしめ、スキルを使用して攻撃を繰り出す。
「あははっ、そのままであたしに勝てると思うの? 無理よ、無理無理! けど面白い! まさかログイン・キーの力を使わず、あたしに立ち向かってくるなんて! くっ、あははっ」
 まるで狂気的な笑い声をあげ、彼女は何度も切り付けてくる。けれど、見えないバリアで守られ、美香は最後のHPを削られずに済んでいる。
「……ふぅん、なるほど。貴方、あの女に気に入られてしまったみたいね、それとも貴方が無意識にログイン・キーに願っているのかしら。力が欲しい、と」
 リネは楽しそうに笑い、そして振るっていた剣をしまう。
「面白いわ、その強気な態度も浸食による影響でしょうね、いいわ、これをあげる」
 そう言って、リネは美香に『錆びた剣』を差し出してきた。
「それ、いつかきっと役に立つ時が来ると思う。あたし、貴方を気に入ったから簡単に死んでほしくないのよ、今までの奴らは呆気なく消えていったからね。けれど、これだけは覚えておきなさい、この『LOST』は闇が深いのよ」
 そして、美香を指さして――……。
「貴方もその闇に呑まれつつある、貴方がどんなエンディングを迎えるのか楽しみね。光溢れる至福の道か、闇に呑まれ、身も心も消える絶望のエンディングか――……」
 リネはそれだけ言葉を残して、そのまま景色に溶けていってしまった。
(一体、どういうことなんでしょうか)
 美香はこんがらがった施行の中で、ふたつの出来事を知った。
 ひとつは、この『LOST』が普通のゲームではないということ。
 ふたつは、その普通ではないゲームに自分自身が巻き込まれてしまったということ――。

※※※

「あら、今日もゲームをしていたの?」
 待機室を覗きに来た同僚が、美香に話しかけてくる。
「はい、これはちょうどいい時間つぶしになりますから」
「ふふっ、ゲームにハマってこっちの仕事を忘れないようにしてよ?」
 からかうように告げてくる同僚に、美香もふふっと笑う。
「あの、ひとつ聞いてもいいでしょうか?」
「何?」
「私、どうしてここのお店で働いているんでしょう? きっかけが思い出せなくて……」
 美香が呟くと、同僚は訝し気な表情を見せた。
「何でって、あんた、結構な過去があったのに忘れたの?」
「……結構な、過去?」
 同僚の言葉に、美香は首を傾げる。
「あぁ、もう、私は行かなきゃ。まったくからかってるのか本気なのか分かんないわね」
 苦笑しながら同僚は待機室から出ていく。
(……冗談ではないんですけどね、私の過去――……何があったんでしょう?)
 首を傾げる美香を見守るように、ログイン・キーが淡い光をたたえていた――……。


―― 登場人物 ――

6855/深沢・美香/女性/20歳/ソープ嬢

――――――――――

深沢・美香様

こんにちは、今回もご発注いただき、ありがとうございました!
今回の錆びた剣はいかがだったでしょうか?
キャラの魅力を描写出来ていれば良いのですが……。

それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!

2015/11/17