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<東京怪談・PCゲームノベル>


絆――ここにある全て

悪趣味なネオンがちかちかと光る中、そのBARは存在した。
渋谷のはずれに『リゾート』と看板が置かれ、文字の部分がぴかぴかと明滅している。
BAR・リゾート――此処はあまり良い噂を聞かない場所だった。怪しげな薬物が売っていたり、少し強面の人が出入りしたりと悪い噂ばかりが飛び交っていた。
しかしそんな場所にも人は集まる、店内を見渡せば若い少年少女がDJの音楽に合わせて身体をくねらせながら踊っている。
良い噂を聞かない場所だと言う事は彼らも周知のはずなのに、それでも彼らはやってくる。
若いがゆえにスリルを求めて来る者も居るだろう。
いつも人が集まっている為、自らの心を蝕む孤独を誤魔化す為に来ている者も居るだろう。
「さぁ、今日も一夜の夢を楽しんでいってくれよ!」
店長らしき若い男性がマイク越しに叫ぶと、店内の若者達も沸きあがったのだった‥‥。

※深沢・美香の場合

「ここに来れば、何か分かると思ったんですけど……」
耳が壊れそうなほどの音楽と人の声に、美香は少し表情を歪めながらため息交じりに呟く。
先日、美香はとあるゲームをプレイして記憶が欠落し始めてしまった。
自分がなぜ今の仕事をしているのかも分からず、ここ最近では暇さえあれば『自分探し』のため、様々な場所を歩き回っていた。
「あら……?」
そんな時だった、BARの雰囲気に合わない女性がひとりお酒を飲んでいるのを見つけたのは――……。
「あの、ひとりですか……?」
「……っ!」
 美香が話しかけると、女性はビクリと肩を震わせ、怯えたような表情を見せた。
「あ、すみません。驚かせてしまいましたか?」
「……いえ、私の方こそ、失礼な態度を……すみません」
 女性は謝ってくるものの、依然として怯えた態度を変えようとはしなかった。
(私、そんなに怖い顔をしていたんでしょうか……?)
 少しショックを受けていると「あ、あの、違うんです……!」と女性が申し訳なさそうに言葉を投げかけてくる。
「私、だ、誰にでもこういう感じで……その、気を悪くさせたらす、すみません……」
「いえ、私ひとりなんですけど、もしあなたもひとりだったら一緒に呑みませんか?」
「……はい、私、紫苑サクラと言います」
「私は深沢美香です、宜しくお願いします」
 美香は軽く頭を下げた後、サクラの隣に腰かける。
「失礼ですけど、貴女みたいな大人しそうな人が来る場所には見えないですよ、ここ」
「そ、そうですか? ……けど、それを言うなら、み、美香さんも、そうですよ」
「ふふっ、そう見えますか?」
 美香が答えると、サクラの表情がスッと陰るのが分かった。
「……ひとりで、いたくないんです。こういう騒がしい場所なら……怖く、ないですから」
 そう呟くサクラに、美香は首を傾げた。
 周りを見渡すと、お世辞にもガラが良いとは言えない場所だ。
 むしろ、家にひとりでいた方が安全面としては強いような気がするけど……。
(人それぞれ、何かしらの事情はありますよね……会ったばかりで、あまり詮索するのも良くないですし……)
 心の中で呟き、美香はグラスの中のお酒をグイッと一気に煽った。
「あれ、お前サクラじゃねぇ?」
「え……?」
 見知らぬ男性に呼ばれ、サクラが振り向いた途端、彼女の顔色がサァッと青ざめた。
(どうしたんでしょう……?)
「高校卒業した後、地元で見かけなくなったけど……そっか、こっちに来てたのか。まぁ、結構な騒ぎになってたもんな、地元にはいられねぇよなぁ?」
「あっ、あ、あぁ……」
 彼女はガタガタと震えはじめ、それと同時に店内に異変が起こり始めた。
(店内のライトが、明滅してる? それに、地震でもないのにグラスが揺れて――……)
「テメェ、またあの時みたいに――っ!?」
「いやああああっ……!」
「……っ!」
 サクラの悲鳴が響くと同時に店内の照明が消え、バリン、と次々にグラスが割れていく。
「きゃあああっ!」
「なんだ!? おい、ドアが開かねぇぞ!」
「ちょっとっ、何よ、これ!」
 店内はパニックになり、サクラに話しかけていた男性もいつの間にか姿を消していた。
「サ、サクラさん……! 早く逃げないと……っ!」
「あ……あぁ……あ、あ……」
 まるで意識がないかのように、ぼんやりするサクラの腕を強引に掴み、美香はBARの裏口から逃げることにした。

※※※

「落ち着いた?」
「……すみません」
 あれから、美香が連れてきたのは人気のない公園。
 自動販売機で売っていたジュースを差し出すと、彼女は震えた手でそれを受け取った。
「……何も、聞かないんですか?」
 どれくらい経ったのか、サクラはジュースの缶を見つめながら美香に問いかけた。
「気付いているんでしょう? さっきの騒ぎが、私のせいだって……」
 サクラの言葉を聞き、美香は(やっぱり……)と心の中で呟く。
 彼女が動揺し始めた途端に、あの騒ぎだから関連性がないとは思えなかったのだ。
「……昔から、こうなんです。パニックになると、誰かを傷つける能力が……私は誰も、傷つけたいとは思っていないのに――!」
(彼女の心には、深い傷があるんだ……)
 まだ会ったばかりだけど、何故か美香はサクラを放っておくことが出来なかった。
「もう、会うことはないでしょう……私みたいな、気味の悪い人間とは距離を置くべきです」
 そう言ってサクラは立ち上がり、そのまま美香の前から姿を消そうとする。
「ま、待って下さい!」
 けれど、美香は彼女を放っておけず、彼女の手首を掴んで呼び止めた。
「私達、お友達になりましょう……!」
「……は?」
 美香の言葉は予想外だったのか、サクラは間の抜けた声で言葉を返してくる。
「あの、私の話を聞いていました? 私とは距離を――……」
「ダメですよ、それじゃ、今のまま進みません。私とお友達になって、色々と変えていけばいいじゃないですか。それとも、私とお友達になるのは……イヤですか?」
 美香の問いかけに、サクラはぷるぷると首を振って否定する。
「良かった、それじゃ、今日から私たちはお友達ですね」
「……あなた、変わってるって言われませんか?」
 握手をしながら、サクラは戸惑ったように呟く。
「私なんかと友達だなんて、ぜ、絶対に、後悔します……どうせ、あなたも、わ、私から離れていくに決まっています……」
「大丈夫です、私があなたから離れません。こう見えて、言ったことはきちんと守る方ですよ」
 美香はにっこりと微笑む。
 恐らく美香は気付いていないのだろう。美香の優しい微笑みに、サクラの心が幾分か救われたということに――……。
 こうして、ふたりはBAR・リゾートにて出会った。
 これからどんな物語を紡ぎ出すのかは、彼女たち次第――……。



―― 登場人物 ――

6855/深沢・美香/女性/20歳/ソープ嬢

――――――――――
深沢・美香様

こんにちは、いつもご発注いただき、ありがとうございます。
今回は「絆――ここにある全て」へのご参加をありがとうございました。
内容はいかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていますと幸いです。

それでは、また機会がありましたら宜しくお願いいたします。
今回も書かせていただき、ありがとうございました!

2015/11/18