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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 聖なる職業、僧侶 ――

「……はぁ、毎日本ばかり読むのも飽きてきましたね」
 あれから、松本・太一は新たな日常スキルを入手することはしていなかった。
 『LOST』にログインしても、教会の蔵書や電子書籍を読むだけ――……。
「君、僧侶として修業してみないかね?」
 そうやって司祭から言われたのは、蔵書のほとんどを読みつくした時だった。
「スキルも入手しておるし、教会での生活にも慣れた、資格はばっちりじゃからの」
 どうやら、松本が所持しているスキル、そして一定期間以上教会を利用している人のみ、僧侶として修業が出来るようになっているらしい。
(そういう風になっているとは知りませんでしたね、僧侶の修行、どうしましょうか……)
 松本自身、『LOST』の異変を恐れ、強くなりたいとは思っていなかった。
 だから、突然転職イベントが発生して戸惑う気持ちの方が強い。
「なぁに、修行と言っても難しいものではない。座学やお清め、お祈りなどの実践だけじゃからの。今の職業が良ければ、転職資格だけ得て保留にしておくことも可能じゃ」
(保留にしておけるなら、受けてみるだけ受けるのもいいかもしれませんね)
 松本は心の中で呟き、僧侶としての修行を受けてみることにした。

※※※

「まずはお祈りじゃ、聖なる祈りが天へ届けばHP回復をすることが出来るからの」
 司祭がやっているように、松本も跪き、お祈りをする。
 すると、日常スキルのレベルが高いせいか、お祈りは難なく成功した。
「僧侶とは、仲間を助けるべきもの。だから仲間を回復したり、補助したりする魔法を多く覚える、さぁ、やってみるがいい」
 司祭に言われ、松本は教えられた通り、お清めをしてみる。
 すると、試験相手として現れた目の前の男性の毒が見事浄化された。
(こういうスキルを持っていれば、アイテムが足りなくなっても困りませんね。ただし、魔法の使い過ぎでMPがなくなると、全く役に立てなくなるという欠点もありますが……)
 魔法を使う職業のせいか、僧侶は防御力も攻撃力も低い。
 だから、MPが空になってしまうのはある意味自分の命にかかわってしまう。
(普通のプレイヤーならば、大して気にならないのでしょうが、私は――……)
 ゲームオーバーになれば、松本自身が『LOST』のNPCになってしまう。
 だから、松本が慎重になってしまうのも無理はないのだ。
(転職さえしなければ大丈夫でしょうし、能力ではなくスキル強化、ということにすればなんとか大丈夫――……でしょうか?)
 松本は少し不安な気持ちで、どんどんクエストを進めていく。

※※※

 そして、すべての修行を終えて――……。
「見事、すべての修行に耐えきったの! これから、そなたは僧侶として名乗ることが出来る、現在保留にしてあるが、ステータス欄の転職をクリックすれば転職できるからの」
 そう言って、司祭は自分の部屋に戻っていく。
「……得られたスキルは回復魔法、状態異常回復――……すべて、神から得られる神聖魔法の種類に分類されていますね」
 ステータス欄で、魔法の確認をしながら、松本が呟く。
 しかも、今まで覚えていた魔法の隣に星マークがついており、今回得た魔法がすべて上級魔法になっていることに気付いた。
(なるほど、神聖魔法だから……)
 これならスキルが変化はしても、『LOST』の異変に巻き込まれるほどの強さ変化はしていないことになる。
 しかも、上級魔法に変化したということは威力は今までとは比べものにならないほどのもの、その点だけは素直に嬉しいと思えた。
(……あとは、僧侶に転職するかどうか、ですが……もうしばらく考えてみましょう)
 松本は小さなため息をついた後、再び教会の蔵書を漁るために書庫へと向かい始めたのだった――……。



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――
松本・太一様

こんにちは、いつもご発注いただき、ありがとうございます。
今回は僧侶の修行でしたが、いかがだったでしょうか?
悩める松本さんを上手く表現できていれば幸いです。

それでは、今回も書かせていただき、ありがとうございました!

2015/11/16