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おもちゃの魔物をやっつけろ!
配達屋さんであり、なんでも屋さんのファルス・ティレイラのところに依頼が舞い込んできたのは昨日のことだった。とあるおもちゃ会社の新商品の着せ替え人形が、発売してすぐに回収騒ぎになった。それはなんでも、夜になると動き出し、暴れまわるらしい。そのため退治してほしいとのこと。親から誕生日プレゼントとして買ってもらった女の子が、夜一緒に布団でその人形と寝ていたときに怪我をしたという話を聞いて、ティレイラは怒りを覚えた。
ティレイラが現場に到着すると、一見普通の倉庫の中からガチャガチャと物が動いている音が聞こえてきた。
「さあ! おもちゃの魔物たち、覚悟しなさい!」
勢いよく扉を開けて、倉庫中に響き渡る声でそう叫ぶと、中で暴れていたおもちゃ達が一斉にティレイラの方を向いた。さすが回収騒ぎがあっただけあって、おもちゃが入っていたダンボールは倉庫の天井近くまで何十個も積み上げられ、その下で何百個の人形達がいた。
人形は水色や白のレースがついたドレスを着用した金髪の少女のようだった。ソフトビニル製の顔に描かれた青い目が妙に光っているように思えた。
倉庫の中に入ると、すぐに扉を閉めて人形が出られないようにした。倉庫内は暗く、光が差さなかったが、すぐに明るくなった。ティレイラの手から炎が生まれ、人形が燃えていたのだ。
その光を頼りに電気のスイッチを探したら、すぐに見つかり、スイッチをONにした。すると、ティレイラが思っていたよりも倉庫は広く、また人形がかなり大量にいることがわかった。また、スイッチを探していた時に気づかなかったが、じりじりと人形達がティレイラに近づいてきていた。
ティレイラは背中に翼を生やした姿で飛び上がり、下にいる人形めがけて炎の球を何個も何個も撃ち付けた。ティレイラの手から放たれた炎の球は大量の人形にぶつかり、人形は瞬く間に燃えていた。また天井近くまで積み上げられたダンボールを上から、ちょんと押すと、床に向かってガラガラと音を立てて崩れていった。その下敷きになった人形は腕や足が取れたり壊れたりして動かなくなっていた。
「なぁ〜んだ。思ったより弱くって、すぐにお仕事終わりそう♪」
上機嫌のティレイラは魔法を駆使して、おもちゃの魔物を調子よく蹴散らしていると、鼻の奥に違和感があることに気づき始めた。ティレイラは火の系統の魔法が得意だ。だから、おもちゃの魔物退治には火を使った。よく燃えて、暴れまわっていたのが、すぐに収まったのでドンドン人形を燃やしていっていた。
「くっさぁ〜い!! もう、何よこの臭い!」
鼻につく刺激臭が倉庫中に充満していた。急いで窓を探して、手当たり次第窓を開けていった。窓を開けたことによって、外からの風が倉庫内に入ってきているはずだが、一向に刺激臭は無くならない。
「もう開けられる窓はないってのにぃ……あぅっ」
ティレイラは何かにぶつかった。それはティレイラの身長の三倍はありそうな高さで、両手を広げたよりも二倍は大きそうな幅のテディベアだった。倉庫の奥に鎮座していたテディベアだが、先ほどの炎で燃えたり、焦げたりしていないので不思議に思った。
翼を使い、テディベアの顔の高さまで飛び上がってみたが、可愛い黒い瞳と愛らしい唇はまったく動かず、触れてみると、もこもこしていて手触りがよかった。
「かわいい! でも、やっぱり……これもおもちゃの魔物? なのかなぁ」
もう少し詳しく調べてみようとテディベアの顔をもう一度よく見てみると、何やら口がもごもご動いている。そう思った瞬間、何かが口から飛び出してきた。咄嗟に交わしたが、背筋がスッと寒くなった。
テディベアの口から出たのは淡黄色のどろどろとした液体樹脂だった。ティレイラが交わしたその液体は下に落ち、ティレイラを攻撃しようと近づいてきていた人形が頭から被っていた。液体を被った人形はみるみるうちに固まっていき、まるでフィギュアのような光沢の体になり、動きが止まった。
「うわぁ……こんなことになるなんて、このテディベアは魔法で動いてるのかも……じゃあ、あの樹脂も魔法の樹脂なのかな。被ったら大変じゃない!」
あたふた慌てながら、テディベアの口から吐き出される樹脂から逃げ回ろうとした。しかし、テディベアのことで少し忘れていたし、鼻が少し慣れたのかもしれないが、ここは有害物質が燃え、刺激臭立ち込める倉庫内。早く依頼を完了して立ち去ってしまいたい。逃げるばかりでは、依頼を完了することはできないのだ。
テディベアの周りを飛んで、相手の注意を引きつつ、さっと視界から消えたとき、テディベアはティレイラの姿を見失い、慌てたような素振りを見せた。ティレイラはテディベアの後ろに回り、首と体の縫い目に向かって、渾身の炎の右ストレートを撃ち込んだ。テディベアの首と体は千切れ落ちんばかりに衝撃を受け、巨体が床に叩きつけられた。
『ブチッ』
どこかで大きな破裂音がした。そう思った瞬間、ティレイラはテディベアの首と体が二つに分かれるように千切れ飛び、本来綿が出てくるはずのテディベアの体内から、あの淡黄色の樹脂が噴水の如く噴き出してくるのを見た。
ティレイラは逃げる暇もなく、樹脂を全身に浴びた。悲鳴を上げようとしたが、口や鼻から樹脂が流れ込んできて一言も話せず、また抵抗しようとしても体が全く動かない。息苦しさと、纏わりついた樹脂が皮膚と一体化しカチカチに固まり、体を締め付けるような感覚に、ティレイラは言葉にならないほどの恐怖を感じていた。
『誰か助けて』
その叫びは誰にも届かない。ティレイラは等身大の人形と化し、大量のフィギュアとともに焼けた倉庫の中で佇むのであった。
やがて倉庫の火事と異臭騒ぎのため警察と消防が駆けつけて、ティレイラは発見された。
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