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―― 乙女を愛する天馬、ユニコーン ――
「予定では、今日……なんですよね」
松本・太一は小さなため息をつきながら呟く。
(ユニコーンが孵化する日ですけど、どうなるんでしょうかね……)
松本は本来男性であり、今は『LOST』の異変で女性化している。
ユニコーンは『女性』に懐くと言われており、男性は角で貫かれて殺される――……と言われている生物だ。
(『LOST』内の生物ですし、どこまで本来のユニコーンの設定を使っているか分かりませんけど、
もしかしたら、私はここでユニコーンに殺される可能性があるんですよね)
これが普通の馬だったら、松本は手放しで楽しみにすることが出来た。
人間社会でも、魔女社会でも馬と触れ合う機会なんて、そんなに多くはないのだから。
(ここでこうしていても始まりませんし、卵のところまで行ってみましょう)
松本は深呼吸をした後、ユニコーンの卵を置いてある場所へと向かい始めた。
※※※
「あ……」
卵がある場所に行くと、ちょうど孵化するところだった。
「生まれる……」
パキ、と卵を割りながらユニコーンが生まれる姿は神々しさがあり、松本はその光景に言葉を失って見入っていた。
そして、生まれたユニコーンがジッと松本を見つめる。
(ど、どうなるんでしょうか)
松本はドキドキしながら待っていると――……。
「……え?」
少し戸惑いを見せながらも、ユニコーンは松本へとすり寄ってくる。
頭を撫でてほしそうにすり寄ってくる姿が可愛くて、松本は自然と笑みが零れたけれど、それも一瞬のものだった。
(ユニコーンに殺されなかったということは、私は『女性』として認識されているということ。つまり、自分の中の『男性』がユニコーンを騙せるほどに薄くなっているということにつながる)
殺されなかったのは嬉しい。
けれど、それを心から喜ぶには事情が事情のせいか出来なかった。
(とりあえず、ユニコーンの件はクリアしたから、今日はログアウトしておこう)
松本はユニコーンにしばしの別れを告げ、ログアウトをする。
※※※
「……え?」
いつものように出張でホテル泊まりだったけれど、鏡を見て言葉を失った。
「この、身体……」
鏡に映った自分の姿、それはもうどこから見ても女性そのものだったから。
(もしかして、ユニコーンを入手したことでまた女性化が進んだ……?)
身体だけを見れば、もう女性でしかなく、男だという証拠は自分の意思のみ。
(……これは、もう女性化が8割から9割は進んでいるということになるのかもしれない)
そう考えた時、ぞくりと背筋が粟立ち、松本は自分の身体を両腕で抱きしめる。
「……っ」
けれど、その仕草さえも女性のようで松本の眉間に深いしわが刻まれた。
「私は、どうなってしまったんでしょうか……これから、どうなるんでしょうか」
誰に問いかけているのかも分からないまま、松本はずるずるとその場に座り込む。
今まで、楽観的に考えていたわけじゃないけれど、どこか大丈夫だという考えがあった。
「……大丈夫じゃ、ない。こんな姿になって、大丈夫であるはずが、ない……」
松本は急に怖くなったのだ。
本当に元に戻れるのか、という現実を突きつけられたようなものだから。
「……っ」
鏡を見ていることすら怖くなり、松本は洗面所から飛び出し、ベッドに潜り込む。
『うふふ、あなたは逃げられないのよ』
『今の状況をどうにかしたいのなら、もう前に進むしかないの』
松本にログイン・キーを渡した女性の声が聞こえ、更に身体が震える。
(もう少し、考えてみましょう……私が、まだ自分を『男』だと認識出来ているうちに、この状況を打破する何かを考えなければ……)
松本は心の中で呟き、目を閉じる。
そして、翌日考えすぎた頭に癒しを与えるかのようにユニコーンと戯れる姿があったのだった。
―― 登場人物 ――
8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女
――――――――――
松本・太一 様
こんにちは、何時もご発注頂き、ありがとうございます!
今回はちょっと怯える松本様を書かせて頂いたのですが、
いかがだったでしょうか?
気に行って頂ける内容に仕上がっていれば良いのですが……。
それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました!
また、機会がありましたら宜しくお願い致します。
2016/2/19
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