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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


 途切れた未来


「……ここで連休に『事件』があったわけね」
 神聖都学園高等部のグラウンドにて、斎・瑠璃は夕闇に染まるそれを見つめていた。本来なら部活動が行われているはずなのだが、今は一人もいない。
「瑠璃ちゃん、ここ……『いる』よ」
「いなければわざわざ繭神さんが私たちを呼び出すわけないでしょう」
 瑠璃と瓜二つの少女、斎・緋穂は傍らに立つ繭神・陽一郎を見上げて「そうだね」と笑った。
 連休時、このグラウンドでは倒れたサッカーゴールの下敷きになって四人の生徒が亡くなった。そして連休明け。夕方を過ぎてから一人でサッカーボールを蹴っていると、その四人と思われる霊が現れるのだという。
 ただ未練を残しただけではなく、明らかに攻撃的な意思を持ってその霊たちは襲い掛かる。すでに三人のけが人が出ていた。とりあえず今週一杯グラウンドの使用停止となったのである。
「ただ呼び出しただけでなく、地縛霊をいたずらに煽って攻撃的にさせている人がいるみたいだよ」
 陽一郎の言葉に瑠璃の眉がぴくりと動いた。
「とりあえず今夜浄霊をしましょう。相手がちょっと多いから……少し、助けを呼んでね」
「頼んだよ」
 そういうと陽一郎は双子に背を向けて歩き出した。


 はじめにこの神聖都学園の敷地に足を踏み入れようとした時、とても大きい学校だなぁという意見が一致したのは確かだ。
 そこは高等部の敷地。黄昏時少し前のこの時間は帰宅する生徒と部活動や委員会活動などに従事する生徒、そして教室で雑談をする生徒など、生徒達の目的は多岐に分かれている。その中にちょろっと侵入したのは山茶花と山丹花。私服で敷地に足を踏み入れたふたりだったが、高校生ではないということよりも別のことで生徒達の気を引いていた。
「ねぇ、あの子たち……」
「あっ、ほんとだ、そっくり!」
「日本語通じるかな?」
 そう、ふたりは外国の血を引く双子なのだ。そっくりの髪色、そっくりの顔にそっくりの瞳の色。本当はいけないと思いつつ生徒のふりをして敷地に忍びこんだが、少し幼く見えるふたりが高校生でないということは分かる人にはわかってしまっただろう。けれども特に注意されないということは来客の多い学校なのだからかもしれないし、見学に来たと思われたのかもしれない。けれどもやはり一番の原因は、その可愛らしい容貌が瓜二つであるということが真っ先に目を引くからだろう。
「ここの生徒としてお兄ちゃんが在籍しているかもしれないもんね、頑張って探そう!」
「そうだね、広そうだけど頑張ろうね」
 互いに声をかけて気合を入れる山丹花と山茶花。思ったより頻繁に声をかけられたり、写真を撮らせて欲しいと言われたりしたけれど、兄を探しているといえば名前と学年を聞かれたりして。けれども未来から来ている兄が本名をそのまま使っているとは限らないから、やっぱり兄の顔を知っている自分たちが探すのが一番で。
 けれどもさすが神聖都学園。高等部だけとはいえ敷地は膨大で、歩きまわっているうちにくたくたになってしまった。運よく中庭らしきところにベンチを見つけ、ふたりは寄り添うように腰を下ろした。
「お兄ちゃん、見つからないね〜」
「というより、疲れたよね〜」
 はぁ……と揃ってため息を付いたその時。

「あれ? 双子の女の子? さっき繭神さんが迎えに行ったけど、会えなかった?」

 え――そう思い声の主を探して顔を上げると、渡り廊下からメガネを掛けた真面目そうな男子が走ってくる。
「髪の長い女の子と短い女の子の双子のお客さんが、繭神さんを訪ねてきてるって連絡があったからてっきりもう合流出来たんだと思ったけど……連絡がうまく行かなかったのかな。繭神さんはこの先のグラウンドにいるはずだよ」
 場所はわかる? ――そう聞かれてとりあえず「大丈夫です」と応えたのは山茶花。「ねえ私達以外の双子って」と言い出しそうになった山丹花の口を封じて。
 男子生徒が去った後、二人は顔を突き合わせた。そして口を開放された山丹花が目を輝かせる。
「ねぇ、山茶花、髪の長い女の子と短い女の子の双子って言ってたよ!」
「うん、そうだね。まさかとは思うけど……」
「絶対そうだよ!!」
 身体中で肯定して、山丹花は勢い良く立ち上がる。そして山茶花の手を引いた。
「行ってみよう!!」
 山茶花もそれに抗いはしない。もし「そう」であったのならば、それはとても素敵な偶然だから。



 あんなに疲れていたのが嘘のよう。ふたりは駆け足でグラウンドを目指す。すると制服姿の長身の男性が、神聖都学園の制服を着ていないふたりから距離を取っていくのが見えた。その男性が恐らく「繭神さん」なんだろうことはすぐに解った。だって佇む二人の髪が、黄昏色へと変わりゆく陽にキラリと光る銀色だったから。
 ふ、と。山茶花と山丹花が辿り着く前に、長い銀髪の少女がこちらを向いた。そして驚いたように目を見開き、大きく手を降った。
「静さんと巴さ――むぐ」
 大声でふたりの本名を口にしながら手を降るのは、紛うことなく先日出会った双子の片割れ、斎緋穂だ。そして慌てて振り返って、山丹花と山茶花を確認するより早く緋穂の口を抑えたのは、その双子の姉の斎瑠璃。
「緋穂、大声で人様の秘密を口にしない」
「ふぁひ……」
 瑠璃に注意された緋穂は、ふたりが自分の前へ到着すると「ごめんね」と綺麗な角度で頭を下げた。
「ううん、むしろ覚えていてくれて嬉しいです」
「ふたりはなんでここにいるの?」
「こちらこそ、それを聞きたいわ」
 山茶花と山丹花が問うと、瑠璃が冷静に返してきた。言葉だけを見ると冷たく見えるかもしれないが、初めて会った時よりも、親しみを覚えてくれているようにふたりには感じられた。
「瑠璃ちゃん、せっかくだし、学食におじゃましようよ。ふたりとも走ってきてくれたし、私たちにはまだ時間があるし」
「そうね。繭神さんにも気を使っていただいたし、行きましょうか」
「ふたりとも、喉乾いてない? おなかすいてない?」
 にこにこしながら問う緋穂に、ふたりは勢い良く何度も頷いて。
「じゃあ学食に行こう! 生徒会長のおごりだから、何頼んでもいいよ!」
 どうやら瑠璃と緋穂は何らかの事情で生徒会長から奢られることになっていたらしい――それだけ理解して、山茶花と山丹花は二人の後についていった。



 クラブハウスサンドセットとオレンジジュース、ミートパイとミルクティーを頼んで、山茶花と山丹花は並んで席についた。いつぞやの喫茶店での時のように、瑠璃と緋穂もその向かいに座る。瑠璃はアイスコーヒーのみだが、緋穂はミルクティーに加えてジェラートも頼んでいた。
 そこで二人が聞いたのは、瑠璃と緋穂はここの生徒会長から「仕事」を受けたということ。ここのグラウンドの一つで連休中にサッカーゴールが倒れる事故があり、4人の死亡者が出てしまった。地縛霊となってしまった彼らが、悪さをしているらしいということ。
「前回は言えなかったけど、私達、『こういう仕事』もしてるんだ」
「夜になったら対処を始めるから、早く帰ったほうが良いわ」
 苦笑する緋穂とふたりを慮って忠告する瑠璃。今度は山茶花と山丹花が顔を見合わせて考える番。
「ねえ静ちゃん」
「うん、巴ちゃん」
 小さな声で互いの本当の名を呼び合って。十中八九、考えていることは同じ。
「瑠璃さん、緋穂さん」
 山茶花がふたりをまっすぐに見て。そして。
「私達にも手伝わせてくれないかな?」
 山丹花が笑顔でそう告げた。



 生徒会長である陽一郎のおかげで、暗くなった敷地には人は残っていなかった。最終下校時間を早めてくれたことに、感謝だ。真っ暗な敷地の中、問題のグラウンドのみライトが付いている。
「山丹花さん、防御の術をかけたけど、無理はしないでね」
「大丈夫! もう、スポーツマン魂とかないのかな!」
 緋穂に言われて頷く山丹花。サッカーボールを抱いた彼女は、特にサッカーに詳しいわけでもスポーツに興味が有るわけでもないが、卑怯なやり方に腹が立って囮を引き受けることにしたのだ。
「臨機応変に他にも補助の術をかけるから、好きなだけ暴れちゃっていいよ!」
「まかせて!」
 緋穂のサムズアップに山丹花も同じようにして応える。
「山丹花、あまり暴走しすぎないようにね」
 どうしても姉が暴走しすぎないか気になる山茶花だったが、やはり一番今考えてしまうのは、地縛霊となってしまった四人をいたずらに煽って使役している術者のこと。人としても魔女としても未熟であるがゆえに、浄霊と術者への対応、両方に手を回せないことが悔しい。
「術者については私達に任せて。必ず仕留めてみせるから」
 そんな彼女の心を読んだように告げられた言葉は瑠璃のもの。肩にそっと添えられた手が頼もしい。
「じゃあ山丹花さん、お願いね」
「うん!」
 元気にグラウンドに降りた山丹花は、ライトを浴びながらサッカーボールを蹴り始めた。



 空気の冷えとともに肌がぴりっと刺激を感じ取った。ボールを蹴っていた山丹花に向かい、どこから現れたのか4つのボールがタイミングをずらして向かってくる。
「山丹花!」
 山丹花と2冊で対になる本、『星と月の物語』を開いた山茶花が、空いた片手で放った光線がうち2つのボールを貫いた。1つは緋穂の防御能力のおかげだろう、山丹花の身体にぶつかったと見えてその直前で溶けるように消えた。山丹花は山茶花と対になる『星と月の物語』を取り出し、開く。同時に一歩足を踏み込み、それを合図にボールが爆発した。圧縮したエネルギー弾のようなものでボールを貫いたのだ。
 だがそれで終わりてはない。姿を現した四体の地縛霊が、山丹花の足元のボールを奪おうとするかのように近づいてくる。
「貴方達のスポーツマン魂は一体どこへ! むおお! 卑怯な事して恥ずかしくないのですか!」
 その怒りの言葉が発動媒体となり、3体に衝撃波を食らわせた。
「山丹花!」
 落ち着いて、と言いたいところだがそれどころではない。山茶花は地縛霊達よりも、突然未来を閉ざされた彼らの無念を利用しているのであろう術者に怒りを覚えていた。でも優先すべきは、彼らの浄霊。ピンッと人差し指で残る1体を差し、一筋の光を放つ!
 目的は浄霊だ。魔法で力づくで消すのではない。まずは魔法で弱らせる――怒り心頭の山丹花のやや大雑把な攻撃に対して、山茶花は姉の取りこぼしに着実に対応していく。しばらくそんなやり取りが続いた頃、明らかに4体の動きが鈍ってきたのがわかった。
「おまたせ!」
 その時、声を弾ませながらグラウンドへ降りてきたのは緋穂。そのだいぶ後ろから瑠璃がゆっくりと歩いてくる。術者への対応が無事に終わったのだろう。
「打ち合わせ通り、弱らせてくれたんだね。ありがとう。後は浄霊するだけなんだけど……」
 緋穂は二人が手にしている本を交互に見つめて、少しだけ考えるようなしぐさを見せた。さっと浄霊を済ませるなら、緋穂がさくっとやってしまえばいい。けれども緋穂が選んだのは。
「その本、少しだけ触らせてもらってもいい? せっかくだから、浄霊にも手を貸して欲しいんだけど」
 頷くふたりの空いた手と手を繋がせ、緋穂がふたりが本をもつ手を支えるように下から触れる。三人で円を作るように立った。地縛霊たちが、そのまま動かない三人に向かってのろのろと近づいてくる。
「『絶対大丈夫だから』、目を閉じて彼らが天へ還れるように祈って」
 山茶花も山丹花も緋穂の言葉に従い、目を閉じて祈る。近づいてくる霊たちが怖くないといったら嘘になるけど、緋穂が触れている手がほんわかと暖かくなって、その熱が身体中を満たし、そして山茶花と山丹花が繋いだ手から混ざり合っていくのを感じると、なんだか安心できたのだ。
(まるで……)
(お母さんに抱っこされているみたい……)
 瞼を閉じていてもわかる。
 自分たちが、暖かい光を発していること。
 そしてその光に触れた地縛霊たちの気配が、薄れていくことが。

 ――ありがとう――。

 空耳かもしれないけどそう聞こえた気がした。
 光が収まった時、そこは安全なグラウンドへと戻っていたのだった。
「力を貸してくれてありがとう!」
「術者は力を封じてあるから、然るべきところへ連行するわ、安心して」
 緋穂と瑠璃の言葉は聞こえているのだが、山茶花と山丹花は先程の光と温もりで少しばかりぼーっとしてしまっている。
「車を呼ぶわ。送って行くわよ」
 スマホを取り出した瑠璃。緋穂がふたりに近づいて小声で囁く。
「ごめんね、無理させちゃったかな?」
「ううん……」
「初めてで、少しびっくりしただけです……」
 ふたりの役に立てて嬉しい、その気持は山丹花も山茶花も同じだった。


            【了】



■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

【8721/―・山丹花様/女性/14歳/学生】
【8722/―・山茶花様/女性/14歳/学生】


■         ライター通信          ■

 この度はご依頼ありがとうございました。
 またご縁を頂けて、とても嬉しく思います!
 アレンジOKのお言葉に甘えまして、このような形にさせていただきました。
 いかがだったでしょうか?
 少しでもお気に召すものとして仕上がっていることを願いつつ。

 また、前回お話の中でプレゼントいたしました「ペガサスのシャープペンシル」を今回アイテムとして付与させていただいております。
 前回お渡しできずに申し訳ありませんでした。

 この度は書かせていただき、ありがとうございましたっ。