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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


Homunculus in NisemonoLand
 日曜日の秋葉原は騒がしい。
 家電を求めて電気屋へ向かう人、同人誌やグッズを求めて専門店へ向かう人、休日出勤をこなすために会社へ向かう人――実にさまざまな人々が、思い思いに行き交っている。
「なあ、しってるか?」
 青霧・ノゾミは、頭の上からのんびりと降ってきた声に即答した。
「知らない」
 上のほうの空気がくしゃっと動く。のんびりの主である道元・ガンジが「ええ〜?」と顔をしかめたんだろう。わかっているから、ノゾミは見ない。
「まだ、なんにも、いってないのに……」
 重い空気がどよどよとノゾミの頭に降り積もる。重たい。鬱陶しい。
「じゃあ言えば? 聞いてあげるから」
 ぱあっと空気が軽くなって、ノゾミの頭からキラキラ飛び立っていった。
 まったく。目の玉以外はどこぞのギャングスタなくせに、中身はそのまま3歳児だ。
 ガンジのどでかい顔がにゅうっとノゾミの耳元に迫り、どでかい口からこっそり小さな声音が漏れ出した。
「あきはばらには、メイドさんが、いるらしいぞ?」
 せっかくの休みに秋葉原へ行きたいとダダをこねたのは、そういう理由か。最初にわかっていたらひとりで行かせたのに――いや、それは無理か。こいつをひとりで街に放てば、1メートルおきに職質を受けることになる。どこで正体がばれるかわからない。
 つぶらな瞳を向けてくるガンジを見上げ、ノゾミはため息をついた。
「それ、本物じゃないからね」
 秋葉のメイドはただの一般人。衣装はサテンの安っぽいやつだし、紅茶だって淹れられない。よって見に行く価値なし。ノゾミはそう言おうとしたのだが。
「ニセモノ、か! おでと、いっしょ、だな」
 思いもしない方向から喜ぶガンジを見て、気が変わった。
 自分もガンジも、人に造られし偽りの命――ホムンクルスだ。ニセモノの人間がニセモノのメイドに惹かれるのは、言ってみれば必然だろう。
 そう思ってみれば、秋葉原は自分たちによくなじむ。この街にはニセモノがあふれているから。
「……見に行ってみる? ニセモノのメイドさん」
「いぐぅ!」

 かくして。
 2時間待ちを経て、ガンジとノゾミは秋葉で人気のメイド喫茶への入店を果たしていた。
「らぶらぶビーム♪」
「や、やられたぁ。きゅんきゅん、だぁ」
 イスを壊さないようにずっと中腰状態なガンジがうれしそうにのけぞった。
 その大きなリアクションを受けて、相手をしているメイドさんにも力が入る。
「ごりらぶビームびびびび♪」
「うわぁ。おで、もう……もう……」
 はしゃぐガンジの右隣、渋い顔をしながら紅茶――味でわかる。ちょっと高めのティーバッグだ――をすすっていたノゾミのもとへ、店の奥から新たなメイドさんが襲来した。
「ん? ボク、サービスとか頼んでないですけど」
「えっと、青霧・ノゾミ様……ですよね? お電話なんですけど」
 メイドさんが差し出すコードレスの受話器を取るノゾミ。
 イヤな予感しかなかった。誰に告げたわけでもない自分たちの行き先を探り当て、電話をかけてくる相手など、ひとりしか思いつかないから。
「なんですか?」
 名前を名乗ることなく、ノゾミが訊いた。
『回収チームが全滅した。そのへんに犯人がいるはずだ。ウチから持ってかれたもんごと仕末してこ』
 ぶつり。通話相手は最後の「い」を言い切らないうちに電話を切った。そういう奴なのだということは理解しているし、自分の立場も承知しているから文句は言わないが。
 やれやれ。ノゾミがガンジに鈍い視線を向けた。
「……ガンジ、まだ生きてる?」
「え? おで、まだ――いきてる、な」
 ガンジは観念した表情で、剃り上げた頭を掻いた。
「ボクたちはさ、生きてるうちは自由に死ねない。死んだところで、死なせといてもらえるはずもないけどね」
 電話といっしょに一万円札を数枚メイドさんに渡し、ノゾミが立ち上がった。
「このまんま、おやすみ、してたかったな」
 たくさんビームを浴びせてくれたメイドさんに、ポケットからつかみ出したありったけの札と小銭を握らせ、ガンジもまた立ち上がる。
 こうして休日はあっさりと終了。ふたりは日常へと足を踏み出した。

「てき、どこだ?」
「このへんにいるらしいけど、不明」
 ガンジが鼻をひくつかせ、辺りを見渡した。DNAに狼の遺伝子を刻み込まれた彼は、ライカンスロープとしての能力の一部を人間体でも使うことができる。
「っ!」
 ガンジが唐突に右手を横へ伸ばし、握った。人から見えないよう、そっとノゾミにその掌を見せる。
「どうやら向こうはひとりじゃないね」
 2メートル先に落ちた氷の小さな塊を拾いあげ、ノゾミがガンジの掌に乗せた。
「ついでにボクたち以外の人が死んでも構わないらしい」
 ガンジが自分の掌をあらためて見やる。そこにあるものは、自分の手でつかみ取ったライフル弾と、ノゾミが氷針を飛ばして撃墜したアサルト弾。それを握りつぶしてポケットにしまい、細く息を吹いた。
「あきはばら、けいびする」
 ガンジは、あらゆる兵器を研究、開発する研究所を守る警備員のリーダーだ。普段は自分と同じように人の手で造り出された“仲間”のために働く彼だが……。
「おでといっしょの、ニセモノ、まもるんだ」
 主に研究所外での活動に従事するノゾミだが、今日ばかりはガンジと同じ気持ちだ。首輪つきの兵器が主以外に向けていい感情ではなかろうが、この数時間で彼はこの街に、第2の故郷とでもいうような愛着を感じるようになっていた。
「つきあうよ。じゃあ早速」
 人の流れを読み、それに乗り、割り入り、やり過ごし、ノゾミは人混みの片隅へとたどり着いた。
「ばれないようにじっと我慢してたのはよかったけどね」
 キャップを目深にかぶり、背を丸めていた男の腕をつかみ、そのシャツの袖から霧を送り込む。
 男はとっさに逃げだそうとしたが、遅い。ノゾミの能力で生み出された霧は、捕らえた者の感覚を狂わせるだけでなく、物理的に凍りつかせる。
 服を残して体だけを凍らせられた男が、悲鳴をあげようと口を開いたが。
「おっと、俺の口のがデカかったぜェ」
 狼の牙に口ばかりか顔そのものを噛み裂かれ、そのまま絶命した。
「獣化は人目につかないところでやろうよ」
 血が噴き出さないよう、男の死体をより固く凍らせ、キャップをその頭にかぶせなおしたノゾミがため息をついた。
「こっちのがいろいろ早ぇからよ。ぶっ飛ばしてくぜェ!」
 フードを目いっぱい引き下ろして顔を隠し、ガンジが駆けだした。
 人狼化したガンジは身体能力が数倍に引き上げられ、頭の回転もそれに応じて加速する。そればかりか、獣の猛りに引きずられて言葉遣いまで変わる。
「フサフサの腕毛が丸出しだけどね」
 ノゾミが言いながら後を追った。

 ガンジとノゾミが街を行く。
 時に暗刃を伸ばしてくる敵を密かに葬り。時に一般人をそうと悟られないよう助け。時にガンジが、アニメかなにかの宣伝コスだと思った一般人に握手を求められ。同意にノゾミをガンジ同様のコスプレイヤーだと勘違いした女子にツーショット写真をせがまれたり……。
 そして。
 プスプスプス――サイレンサーで音を抑え込まれた拳銃弾がガンジの腹を穿つ。
「こういうのフリーハグってんだろ? 初めてだからよ、うまくできたかわかんねぇけどな」
 ガンジは自分を撃った女をそっと抱きしめて頸骨をねじり砕き。
 女とコンビを組んでいた男のナイフを腕の剛毛で受け流しつつ、その耳の穴へ小指の爪を突き込んで脳を貫いた。
「……ツーマンセルでお互いにバックアップ。訓練はされてるみたいだけど、肝心の実力が足りてない」
 男の骸を道の端に座らせ、凍らせたノゾミが苦い顔で言った。
「そんだけじゃねぇなぁ」
 ガンジがだらりと垂れ下がった女の顔をつまみあげる。
 カチカチカチカチ。死んでいるのに引き金を引き続けている彼女の顔は、驚くほどに無垢な陶酔で満たされていた。
「なぁ、これってよ」
「そうだね」
 女の首にも骸の首にも、同じペンダントがかけられていた。そのペンダントトップは、伝統ある宗教から破門された過激派の印である。
「殉死は最高って、バカに吹き込んでるクズがいやがる」
 鼻に皺を寄せ、ガンジが吐き捨てた。
「身勝手な教義を世界に押しつけたくて、ウチの兵器データを盗んだわけだ。自分こそが本物だって言い張りたい人は大変だね」
 ノゾミが肩をすくめた、そのとき。
「人間面をした化物どもに真実の光はけして届かぬ!」
 人々を押し退け、躍り出た男が、右手に握り込んでいたものを突き出し、左手でそこから突きだしたピンを引き抜いた。
「手榴弾」
 ノゾミの言うとおり、手榴弾が投げつけられた。これが男の狙いどおりに爆発すれば、なにが起きたのかわからず呆然としている人々が何人も吹っ飛ぶことになる。
「ちったぁ形振り構えよクソがァ!」
 ガンジが牙の並んだ口を大きく開けて。
 手榴弾をくわえて飲み下し。
 腹の中で、起爆させた。
 ずむん! 音の低い衝撃を口から噴き出すガンジ。その勢いでアスファルトに叩きつけられ、弾む。
 手榴弾を投げた男が笑う。これで1匹は葬れた。あと1匹は――
「長くは保たない。さっさと起きろよライカンスロープ」
 真実が知れないよう、薄く張った霧で人々の感覚を惑わせていたノゾミがガンジに告げる。
「うるせぇ。ノドが痛ぇんだよ」
 ダミ声で返したガンジがヘッドスプリング。かろやかに立ち上がって男の頭を鷲づかみ。
「巻物ばっか読んでっから昔話は知らねぇか? 狼男を殺したきゃ、銀の弾でも持ってこいや」
 ひと息に握り潰した。
「……これ、どうするの?」
 人々がノゾミの霧の効果から解き放たれれば、当然この有様を目の当たりにし、大騒ぎすることになる。
『見せて差し上げればよいでしょう。世界の真実を。人造の化物の所行を』
 頭上から降ってきた声を、ガンジとノゾミが仰ぎ見た。
 そこには通電性を極限まで高めた金属コイルを縒り合わせた翼を広げ――耐弾、耐爆、耐刃、それぞれに特化した硬度の異なる合金を折り重ねた“ダマスカス・プレート”の天使が在った。
『神の与えたもうた試練を乗り越え、私は聖衣を得た。――証明されたのです。すべての人々を正しき道へと導くことこそが私の使命であるのだと』
 ありがたいお言葉を聞きながら、ガンジが小首を傾げた。
「バカのボスはクズじゃなくてアホだったなぁ」
「中身がアホでも、あの殻はお利口だよ。開発番号までは知らないけどね、R5研で造ってた近接航空支援型強化外骨格だ」
 げんなりした顔で説明するノゾミ。
『紛い物ども! 真なる神の子たるこの私の裁きを受け、煉獄の熱光すら届かぬ闇の底へと落ちなさい!』
 天使は空中でぐらつきながらも腕を伸ばし、その指先から紫電を放った。
「シロウト丸出しのくせしやがって……!」
 頭目がけて落ちてきた雷を横っ飛びでかわし、ガンジが牙を剥く。
「ウチご自慢のAIがフルサポートしてるんだよ。素人でも新兵くらいには働ける」
「チっ、墜ちやがれェ!!」
 ガンジが跳躍し、右手の爪を伸ばしたが。
「アヅっ!!」
 コイルの翼に触れて痙攣。受け身もとれずに墜ちた。
「あの翼は電磁気発生装置だ。触ると痺れるよ」
「先に言えやぁ!」
 想像を絶する高圧電流が、あの翼には流れている。数百キロの鎧を数十キロの中身ごと宙に飛ばすには、研究所が秘匿するオーバーテクノロジーをもってしてもそれだけの出力が必要なのだ。
『ふ不敬なな。か神の子たるわ私にふ触れるとはは』
 宙の天使が、言葉を妙に震わせながらガンジを嘲笑った。
「せっかくだから実戦データくらいは持って帰ろうか」
 ノゾミが氷針を飛ばして攻撃。
 しかし、ダマスカスの殻に擦り傷ひとつつけることはできない。
「おらぁ!」
 近くのビル壁を蹴って三角跳び、宙へ駆け上がったガンジが天使の胸に回し蹴りを叩き込んだが、天使は少しバランスをクズしただけで、逆にガンジを蹴り落とす。
「硬ぇな!」
「最新鋭だしね」
 どうやらまともな攻撃は通らない。ガンジの力をもって連撃すれば殻を破れる可能性はあるが、空中ではそれもままなるまい。
 ノゾミは中空で紫電を再チャージする天使を見て。
「とはいえ、絶縁は完璧ってわけじゃないみたいだね。まあ、出力が大きすぎるし、外骨格だって電気じかけで動いてるんだしね」
 続けてガンジを見て。
「ということで、ガンジは何秒がんばれる?」
「ちょ、おま! 鬼かよ!」
 ガンジが思わず高い声を上げた。ノゾミがなにを要求しているのかはわかるが、わかるからこそ従ってたまるか。なにせたった今、無様に落ちたばかりなのだから。
 しかし。
「ホムンクルスだよ。ガンジと同じ、ニセモノさ」
 これも、わかってしまった。
 ホムンクルスは主の指令に逆らえない。研究所があの外骨格ごと犯人を抹殺しろというなら従うだけだ。
 そしてガンジは、このニセモノだらけの場所を守りたいのだ。……ノゾミ同様に。だから。
「近くによ、ケバブ屋とかあったっけな?」
「名物だからすぐ見つかるんじゃない? 後で買い占めてあげるから」
 言い返しながら、ノゾミが霧を操る手に力を込めた。すると。
 ぱたり、ぱたりと、呆けた人々が倒れていった。
『これはまた面妖な……邪なる業(わざ)を使いますね』
「――霧を濃くして、まわりの人たちを眠らせた。ようするに冬眠だね。凍傷にならないように手加減したつもりだけど、こればっかりは起こしてみないとわからないな」
 なんでもない顔で言うノゾミだが、その頬は青ざめ、粘つく汗にまみれている。長く戦えるほどの力はもう、残されていない。
『背徳を浄化せし神の雷よ!』
 紫電が再びホムンクルスたちへ落とされた。
「R5研に言っとけ! 雷落とすんなら範囲攻撃できるようにしとけってよぉ!」
 こちらも再び跳躍したガンジが、空中で体勢を崩して10センチ下へ落ちた天使を脚をつかみ、たぐり、背中に取りついて――左右の翼を、その両脇に抱え込んだ。
『ふ、不敬ですよ! 離しなさい!』
 毛が焼き切れ、電流に神経を侵されて激しく跳ねまわる肉が焦げ、血が沸騰する。凄絶な苦痛に耐えながら、ガンジが狼の口をニヤリと笑ませた。
「み見たことともねねねえかかか神みみ様さままの名まま前かた騙るや奴のののがが、ふふ不敬いいいだだだろろろ」
 焼かれながら、ガンジが体重をかけて天使を揺すり、下へ、下へと引きずり落としていく。天使は当然これに抗うが、いかな最新技術とはいえ、大ぶりなガンジを抱えて飛べるほどの力はなかった。
「そのまままっすぐ」
ノゾミが着床地点に無数の氷針を撃ち込んだ。細い氷は日光を受けてすぐに溶けて水たまりを作る。
 ゆっくりと墜ちゆく天使。右の翼が水たまりに触れ、左の翼がアスファルトに触れた瞬間。
 太い電光が滅茶苦茶にうねって弾け。
 でたらめに跳ねた天使の体は、二度と動かなくなった。
「科学なんて大層なものじゃない。ちょっとした理科の実験さ」
 基本的に人間が電線にぶらさがっても感電はしない。なぜなら感電は電位差――電圧の差が生じることで起こる現状だからだ。
 ノゾミの氷針は純水である。純水は絶縁体であり、いくらかの不純物が混じったとしても、アスファルトと比べれば圧倒的に通電率が低い。
 ガンジは天使の翼というむき出しの高圧電源を電位差のある2点に触れさせ、通電路を作り出したのだ。
 そしてさらに、人体とは良質な通電物質である。外骨格は絶縁体だが、装着者を機械的に補助する必要があることから、どうしても通電箇所を持たざるを得ない。結果、通り道を求めた電流は外骨格の隙間をくぐり、格好の中継道である人体へと殺到した。
 ガンジの身体能力とノゾミの特殊能力、そして天使の翼の電流、すべてが噛み合わなければ成すことのできなかった、あっけないエンディングであった。
「神様は何千年も戦争してるって話だけどさ」
 無傷の殻の内で焼けぼっくいになっているはずの犯人に、ノゾミがささやいた。
「“本物”の戦いはあっという間に終わるんだ」
 ライカンスロープの超再生能力を発揮して傷を癒やしたガンジも、渋い顔でつけ足した。
「輪廻転生とかすんならよ、来世ってやつまで憶えとけ。ま、迷惑だからもう生まれてくんなって感じだけどなぁ」

「ダメだ。おで、はら、へったまま、だぁ」
 屋台のケバブをひと塊喰い尽くしたガンジが情けない声をあげた。
 彼の獣化能力は細胞を活性化させ、細胞を人から狼へ、狼から人へと置き換える。副産物として、常軌を逸した再生能力をも備えるわけだが……それらを成すには壮絶な熱量を必要とし、結果として彼に恐ろしいまでの飢餓をもたらすのだ。
「もうお金がないよ。メイドさんにほとんど渡しちゃったからね」
 苦笑するノゾミ。
 ガンジはつぶらな瞳をパチパチしばたたかせて。
「オムライス、たべたいなぁ。ごりらぶケチャップ、いっぱい、かけてもらうんだ」
 ニセモノのメイドさんが持ってきてくれる、冷凍食品のニセモノオムライス。
 ノゾミは言いかけた否定の言葉を噛み殺し、かわりに薄くうなずいた。
「そうだね。それはボクも食べてみたいかな」
 ニセモノの人間ふたりがニセモノの天使を殺した痕跡は、研究所から駆けつけたバックアップが綺麗に消した。
 そうして守られた仮初の平和を見やり、ノゾミはガンジの腕を引く。
「臨時ボーナスを即払いしてもらってメイド喫茶へ行こう。また並ぶことになるけどいいよね。夜はこれから始まるんだから」
 もうすぐ日が暮れて、ニセモノの太陽が街を照らすようになる。ホムンクルスにふさわしい、ホンモノのない時間がやってくる。
「いぐぅ!!」
 ノゾミとガンジは軽い足取りで、宵闇の隙間へとその体をすべり込ませていった。