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―― 彼を取り巻く運命の輪は緩やかに回り始める ――
「……はあ」
松本・太一はパソコンの画面を見ながら、大きなため息をついた。
(闇の街の住人達の情報、あれがすべて正しいとは言い切れませんよね……)
こういう問題は片方だけが正しいわけじゃない。お互いにお互いの言い分があって争いが起こってしまうのだから。
(けれど、それに沿って動くしか今の私には出来ないんですよね……)
「誰も知らぬ遺跡と、地下神殿……」
この探索をするしか今の自分が出来ることは見つからない。
「やっほー、さっきから黙ってばかりだけど、どうしたのー?」
チャット画面が表示され、瀬名・雫が話しかけてきた。
「……いえ、誰も知らぬ遺跡と地下神殿について考えていただけです」
それに松本はもうひとつだけ気になっていることがあった。
(白は世界を浄化へ、黒は破滅へ――……これが一体どんな意味を持つのか……言葉だけを聞いても微妙な感じなんですよね。そもそも『白』と『黒』が何を指し示すのかも分からないですし)
再び松本の口からため息が零れる。
(現実世界を『浄化』して『LOST』世界を再生するとか、あるいはその逆か……正否の判断が出来ない以上、考え込むだけ時間の無駄ですかね……)
謎が謎を呼び、その謎が新たな謎を呼びよせる。
まだ解決していない謎だけが残り、松本を悩ませている。
(LOSTを知れば知るほど、その実態から遠ざかっていく……そんな気がするのは、私の気のせいでしょうか?)
松本はしばらく考え込んだ後、ゆるく首を振る。
(やめましょう、それよりは今後どんな行動を取るかを考えなければいけません)
そうして、松本は再びチャット画面へと視線を向ける。
(……何をするにしても情報収集が必要ですね)
松本自身は男であるが『女性らしい』方が聞き込みをしやすいこともあり、あえて今の状況を甘んじて受けており、瀬名に対しても『女性』として接している。
「瀬名さんは、こういった怪奇現象に詳しいと聞きます。LOSTのことで何か知っていることはありませんか?」
カタカタ、とキーボードを打ち、松本は瀬名に問いかける。
「例えば、誰も知らぬ遺跡についてなど……」
すると瀬名からの返事はすぐに返って来た。
「あの遺跡はいい評判聞かないんだよねー。行ったって人に話を聞いても、ダンジョンの内容が全員ばらばらなんだもん。庭園のような場所だったって人もいれば、お城風のダンジョンだって言う人もいる。あたしは行ったことないから、どれが本当なのか分かんないんだけどね」
(行った人が全員違うことを言うダンジョン……)
確かに瀬名が言う通り不思議の域を超えているような気もする。
「ただ最深部まで到達した人が、とある物を手に入れたって言ってたなー。あたしも聞き覚えのないアイテムだったから、名前は忘れちゃったんだけど……」
(瀬名さんはLOSTの中でもベテランの部類に入るプレイヤー、そんな彼女が聞いたこともないアイテムと言えば……結構な物なんじゃないでしょうか?)
「何? もしかして『誰も知らぬ遺跡』に行ってみたいの? だったら、知り合いからコードを手に入れてあげようか?」
コード、という聞き慣れない言葉に松本は首を傾げる。
「普通はクエストをクリアしてダンジョンを出したりとかなんだけど、誰も知らぬ遺跡だけは人から人へ伝わるコード方式なの。しかもコードを渡せるのは一人だけ。まだ誰にも渡してないって人を知ってるから、欲しければ手に入れてあげるよ?」
瀬名の言葉に「是非宜しくお願いします」と松本はすぐに返事を打つ。
(やはり彼女は頼りになりますね……)
心の中で感謝しながらも、瀬名が送ってくれるコードを待つことにした。
どうやら瀬名がコードを入手して、松本に送るまでに1週間はかかるらしい。
(その間に私もアイテムを集めたりしておきましょう、限られた人しか行けない場所ならそれなりの危険があるはずですから……)
そんなことを考えながら、松本はひとり震える手を強く握りしめたのだった――……。
―― 登場人物 ――
8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女
TK01/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人
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松本・太一様
こんにちは、いつもご発注をありがとうございます!
今回は情報収集でしたが、いかがだったでしょうか?
楽しんでいただける内容になっていますと幸いです。
それでは、今回も書かせて頂きありがとうございました!
また機会がありましたら宜しくお願い致します!
2016/6/21
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