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―― 一角獣は何を夢見る ――
「……誰も知らぬ遺跡、か」
松本・太一はため息と共にポツリと言葉を零す。
「レベルアップさえもリスクを伴うなんて、結構なゲームなんですね。これは……」
けれど、以前感じた死に戻りによる浸食より、レベルアップ時の侵食の方がマシな気がする。
そう考えて、松本は力の底上げを試みていた。
「一角獣持ってるなら、一時的な融合も出来るよ」
そう言ったのは、LOSTに詳しい瀬名・雫。
今回は彼女の力が必要だと思い、掲示板を通じて助力を願い出ていた。
「君のレベルとかステータスバランスを見れば、神聖魔法はほとんど入手できると思うよ? 魔法カスタマイズの所で取得できるからやってみるといいよ〜」
瀬名のアドバイスを受け、松本はステータスメニューから魔法カスタマイズを選ぶ。
「そういえば、今までこの欄は見てなかったけど、魔法カスタマイズか……」
普通に魔法を取得できるものもあれば、付加要素をつけることも可能。
しかし付加要素を付ける場合は特殊なアイテムが必要ということで、今の松本には付加要素をつけることは出来なかった。
(聞いたことないアイテムばかり……レア系のアイテムか何かなんでしょうか?)
松本が首を傾げていると「付加要素をつけるにはモンスターのアイテムが必要なんだよ」と瀬名が疑問に答えてくれた。
(今はまだ私には手に入れられない物……なら、魔法取得の方に専念すればいいんですね)
松本は心の中で呟き、現時点で取得できる魔法すべてを取得する。
「あ……」
一角獣を所持しているせいか【ユニコーン憑依】のスキルを取得した途端、松本の体が熱く、そして立っていられないほどの目まいに見舞われた。
(こ、これは……)
がくり、と膝をつき、自分の身体に違和感を覚える。
「……ユニコーン?」
天を突くように額から伸びる角、おしりの辺りからふさふさの尻尾。
(これがユニコーンの獣化、でもほとんど人間の姿……?)
角や尻尾こそあるけれど、ほぼ人間を保ちながら姿を変えていた。
「ふわ〜、きっれー……! 一角獣との融合って、そんなあ感じになるんだー!」
近くで見ていた瀬名は感動したのか、メッセージウィンドウに表示される文字がかなり高速になっている。
(あ、融合化の際にのみ使える魔法も開放されてる)
ユニコーンの固有スキルとして【完全治癒】が開放されていることに気づく。
(体力魔力全開、病気や状態異常も完全回復……ただし、1回の戦闘で2回までの使用――)
便利ではあるけど、回数制限があるから使い方次第で戦局は一変する強力な魔法だ。
(これは使える、他には……【自己蘇生】死亡直後に1度だけ自動蘇生する魔法)
松本の置かれている立場として、この自己蘇生の魔法はとても有益な物になる。
けれど、強力な魔法を入手したせいか、松本はその分【女性化】が進んでしまった。
(……私は、あとどれくらいまで動けるのでしょうか)
そもそも最後まで侵食されるとどうなるのか、それさえも分からないのだ。
(……ううん、怯えていても仕方ない。なんとかやれるところまでやらなきゃ)
いつか来る『結末』の日に、やりのこしがあって後悔しないように。
いつのまにか松本は力を得ることへの自重をやめていた。
それはいつか辿り着く最後のために、松本自身が前を向き始めたということ。
「……松本ちゃん、何か吹っ切れたような感じだね」
松本の様子を見ていた瀬名がポツリと呟く。
「あたしも色々情報を集めるよ、あたしだって……何も出来なかったって後悔したくないから」
瀬名はそう言って、そのままログアウトをした。
恐らく情報集めに奔走してくれるのだろう。
(大丈夫、私は大丈夫……)
自分を奮い立たせるように心の中で呟くと、どこかで女性の笑い声が聞こえた。
それが励ましなのか、嘲りなのか、まだ松本は判断することが出来なかった――……。
―― 登場人物 ――
8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女
TK01/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人
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松本・太一様
こんにちは、いつもご発注をありがとうございます。
今回は前を向き始める、というテーマで書かせて頂いたのですが
いかがだったでしょうか?
気に行って頂ける内容でしたら幸いです。
それでは、いつもご発注ありがとうございます!
また機会がありましたら、宜しくお願い致します!
2016/7/16
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