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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 彼が選ぶのは聖と邪 ――

「……職業を、どうしましょうかね」
 松本・太一は小さなため息をつきながら、ポツリと言葉を零す。
 先日のクエストで得た情報をまとめていると『聖』と『邪』、どちらかに偏った職業でいるのはまずいのではないか、と考え始めた。
(偏りがまずいのなら『聖なる僧侶』から、別の職業に移動することも考えなければ……)
 今までに得た知識をフル動員させて、松本はどの職業になるのがいいか悩み始める。
(星輪士(ゾディアック)は闇属性っぽいからやめておいた方が無難だろうし、日輪導師(サンフレア)も光一択っぽいからやめておくべき……)
 考えれば考えるほど、松本はため息ばかりが出ていた。
(消去法でいくと『祈祷術士』か、もしくは別の両方併せ持つ職業を探すか、ですけど……)
 そんな時、『LOST』のチャットメッセージが受信を知らせてきた。
「やっほー! 元気〜?」
 文字越しでも元気と明るさが見える瀬名・雫に、松本は思わずくすっと笑ってしまった。
(そうだ、瀬名さんなら何か知っているんじゃないでしょうか……?)
 彼女ほどの知識を持つ者はそうそういないはずだ、と考え、松本は今悩んでいることを瀬名に相談することにした。

※※※

「なるほどね〜、それなら確かに『祈祷術士』もいいと思うよ」
 瀬名の言葉に『祈祷術士』になるための方法を考えよう、と松本が心の中で言いかけた時「でも」と瀬名が言葉を付け足してきた。
「滅錆士がオススメだよー、あたし的には、だけどね!」
(滅錆士……?)
 聞き慣れない職業に松本は眉をひそめながら、その職業について質問を投げかける。
「名前だけ聞いたら闇系の職業に聞こえるだろうけど、どっちでもあって、どっちでもないの」
「……どっちでもない?」
「両方に対して弱点っぽい職業なんだよね、その分、他の職業より魔法力とか少し落ちるけど」
(……両方に対しての弱点か)
「けど、パワータイプには弱いから……うーん、悩みどころだよねー」
(……祈祷術士にするか、滅錆士にするか……もう少しだけ考えてみよう)
 松本としては両方の属性を持ちたい、けれど完全治癒や自己蘇生、ユニコーン憑依も常時発動できるだけの高いMP、もしくはMP回復能力を有した職業、もしくは装備が必要と考えた。
「瀬名さん、MPが上昇する装備やアクセサリーについてご存知ではないですか?」
「MP上昇……うーん、そういうのって聖系の職業しか装備出来ない物が多いんだよね……」
 松本の問いかけに、瀬名は少し申し訳なさそうな表情を見せた。
「あ、いえ、別にいいんです。気にしないでください」
「あたしの方も色々調べておくから、何か分かったらすぐに連絡するからね! でも両方の属性を持つ職業とか大器晩成型だったり、言い方は悪いけど中途半端なところまでしか上がらなかったり、どっちかと言えば地雷職の可能性が高いよ?」
 瀬名の言葉に、松本は少し複雑そうな表情を浮かべながら頷く。
(……でも、あの言葉を聞き逃すことは出来ません)
 以前のクエストで聞いた言葉――……すべてを知った時『聖』属性でいられるか、という意味深な言葉……。
 松本の置かれている状況からすれば、決して楽観的に考えることは出来ない。
(まだまだ情報が足りなさすぎる。もう少し集めなければ……)
 あまり考えもせずに職業を変えると、自分自身の命を危険に晒す可能性がある。
 だからこそ、松本は慎重になるのだろう。
「さて、あたしは色々聞き込みをしてくるね」
 瀬名はそう言ってログアウトしていく。
「……私は、どこへ向かえばいいんでしょうね。やるべきことが多くて、何から手を付ければいいのか分からないですよ」
 ため息をつき、松本はパソコンの画面を見る。
 その時、悩む松本を笑うようにバッグの中のログイン・キーが淡く明滅を繰り返していたのだった。



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

TK01/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注を頂きありがとうございます。
今回は職業変換に関することでしたが、いかがだったでしょうか?
楽しんでいただける内容に仕上がっていましたら幸いです。
それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら宜しくお願い致します!

2016/9/16