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<東京怪談ノベル(シングル)>


 テスト・プレイ

 レンガ造りの家が立ち並ぶ中を松本・太一は一人歩いていた。
(ここが異世界なのでしょうか?……)
 そう思いながら周りの景色をキョロキョロとしながら見る。
 普段太一がいる世界とはだいぶ異なり、周りには左右に建ち並ぶレンガ造りの家、その2、3メートル先には大きな薔薇のアーチがあり、さらにその奥からは大きな時計塔が見えていた。
 まるでファンタジーのような世界だ。
 それもそのはずこの世界は異世界なのだから―――。

 数時間前。
 先輩魔女が人間であり、魔女である太一の所へとある依頼をしてきた。それは“ギャルゲーのテストプレイ”をして欲しいとの事だった。
 いわゆる「お試し」プレイと言うものだ。
 その先輩魔女は人間文化である萌えの一端「ギャルゲー」に心酔し、自らも異世界にシステムとして取り組んだギャルゲーの世界を創ったのだった。
 彼女の話によると……その世界は、異世界転移で異能力に目覚めた少年少女達が魔物と戦い友情や恋愛を育む予定らしい。
 現時点でこの世界には登場人物不在で住民、魔物はエキストラだけ。
 現に太一自身も異世界に転移してきた時は誰もいない殺風景な広場にある魔方陣から転移してきた。転移と共に太一の姿はこの世界に伴い、少女の姿をした黒髪魔女の姿をしていた。
 太一へと先輩魔女は、
『お願いしても良いかしら?』
 と、にっこりとした笑みを浮かべながらお願いをした。それに対して太一は、苦笑をしながら心の中で、
(……断れません……)
 溜め息と共にそう呟き、そして依頼をやむなく承諾したのだった。


 暫く進んだ先にある薔薇のアーチを潜った太一は思わず目を見開いた。
 真っ先に目に飛び込んできたのは美しく聳え立つ大きな時計塔、その近くの中央には広場があり、広場の側には小さな噴水があった。そして周囲には様々な店などが幾つも並んでいた。
 そこは大きな街の中だった。
 太一が最初に転移した場所とは違い、人が街の中を行き通っていた。
 おそらく街の中にいる人間達は先輩魔女が述べていたエキストラなのだろう……。
 そう思いながら太一は近くにあるベンチへと足を進めると、そこに腰掛けた。そして彼女は小さなモニターのようなものを出現させ、ステータスを表示すると不思議そうな顔をした。
「なんで“ヒロイン”なのでしょうか。いえ、ステータスの装備欄にもそう書いてあるし……」
 可愛らしく首を傾げながら表示された装備欄を見る太一。
 彼女は再度自分の身に着けている服、装備、などを確認をし、手で自分の顔に触れる。
 その姿はどう見ても“ヒロイン”そのものの姿に他ならなかった。
 おそらくだが、この異世界にシステムとしてギャルゲーの世界を取り組んだ為、太一は“ヒロイン”として設定されているだろう。
 それが先輩魔女が言っていた「お試し」プレイの一貫なのかもしれない……。
 そしてさらに指でステータスを操作していくと彼女は異能力の欄に目を止め、それを確認する。
 そこには“氷の華”と言う文字が記載されていた。説明欄の方へと目線を向けていく。そこには、
 『能力……掌から氷などを生み出し、それを操れる能力』
 と記載をされていた。
 おそらくだが、この能力は魔物と戦う為の能力なのかもしれない。
 そう感じながら太一はステータスを閉じ、そして空を見上げた。そこには澄んだ青空が広がり、それを見て太一は率直に綺麗だと感じた。
 周りの景色を見てもこれが創られた世界だととてもではないがそう感じなかった。
 それ程までにこの世界は美しかった。
 この世界を創った先輩魔女はこの世界に対して何かしらのこだわりを持ち、そして完璧にまでこの世界を創造している。太一は不思議とそう感じた。
 そして太一はベンチから立ち上がり、歩き出そうとしたその時、一人の若い青年とぶつかった。
 ぶつかった拍子に太一の体がグラリと揺れ、地面へと倒れそうになった。その瞬間太一の腕を青年は掴み、支えた。
「大丈夫ですか?」
 そう問われ、太一は答えようとした。その時、太一の目の前に突然三つの選択肢の文字が浮かんでいた。

 1『有り難うございます。大丈夫です』

 2『ふん。別に、大丈夫に決まっているじゃない』

 3『有り難う……』

 それを見、太一は内心驚きながらも頭の中で納得をした。
 ここはギャルゲーの世界だ。
 ようするにこの選択肢……シュミレーションロールプレイングゲームのような会話を青年とし、ギャルゲーならではのイベント展開などをしていくのだろう……。
 太一はチラリと青年の方へと視線を動かす。青年は不思議そうな顔を太一へと向けていた。
 太一は視線を戻し、宙に浮かんでいる文字の1番の選択を選び、指でその文字を押した。

「有り難うございます。大丈夫です」

 すると太一の口から自然と選択肢と同じ言葉が滑り出した。
 (なるほど。こうやってプレイするものなのですね……)
 彼女の言葉を聞き青年は薄い笑みを浮かべながら彼女へと言った。
「そう、それなら良かった」

 こうして、この世界のゲームはスタートしたのだった―――。



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一様

こんにちは、ご指名の方有り難うございます、せあらです。
この度はご注文の方本当に有難うございました。
ギャルゲーのテストプレイでのお話しという事でしたのでシュミレーションロールプレイングゲームを少し書かせて頂きました。
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
この度は書かせて頂きまして本当に有り難うございました。

せあら