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<東京怪談ノベル(シングル)>


第三章 淫魔

 瓦礫が降り注ぐ。城に使われた石材は重たく、それにひき潰されたガーゴイルたちの断末魔が絶えず瑞科の耳をくすぐった。
「安らかな、死を……」
 そう瑞科はいのりを捧げて、その青い瞳を空に向ける。
 美しい夜空の天井が頭上を覆っていた。
 無数に輝く星たちは、死んだ者の魂だという。
 であればきっと、ここにいるもの達は無事に星になれたのだろう。
 そう瑞科があたりを見渡すと、自分が立っている位置以外は、全て瓦礫に埋もれていた。
 当然、自分が来た通路もそう。
 これで余計な横やりは入らないだろう。
 そう瑞科は礼拝堂奥の豪奢な扉を見つめる。
「雷鳴よ」
 そう瑞科はおもむろに愛剣を抱きしめる。胸の間にそれを挟み愛おしそうに表面を撫でた。
 すると、その刀身が明るい輝きを放ち始める。
 瑞科はその剣の柄を握り。そして。
「道を切り開いて」
 一振り。直後すさまじい轟音と共に放たれた雷撃は瓦礫を引き裂いて道を作り、目の前の扉に激突、それを吹き飛ばした。
 瑞科は新たに開かれた道を悠々と歩む。そして真っ暗なその一室に足を踏み入れた。
 まず気が付いたのは独特のにおい、食べ物が朽ち果てたすえた臭いと、栗の花のような甘い香り。
 次の瞬間、部屋の中心に灯りが灯った。
「なるほど、そう言うことだったのですね……」
 瑞科は告げる。
「サキュバスが、教団を利用していたと、そう言うことだったのですね」
 その名を呼ばれた悪魔が、尻尾を揺らしながら瑞科を振り返った。
「無粋ね……」
 サキュバスは告げる。
「しかも女、いらないわ。私のテリトリーに足を踏み入れたこと。後悔させてあげる」
 次の瞬間、ベットを中心に魔方陣が展開された。そして瑞科が目にしたのは暴力の嵐だった。
 まず解き放たれたのは火焔の龍、それが咢を広げ瑞科に突貫する。
 次いで生成されたのは絶対零度の氷の刃。
 それが視界を覆う雪のように降り注いだ。
「あはははははは、悪魔にとって陣地防衛は得意分野なのよ。昨日は派手に力を回収したから、遊んであげるわ!!」
 そう甲高く叫んだサキュバスは今度は両手に小型の魔方陣を展開させた。
 右からは紫色の剣。
 そして左からは金色の腕が召喚される。
「死んで!」
 そして解き放たれた剣が地面に突き刺さると、その地点の空間が裂け、汚泥があふれ出した。
 それは洪水のように瑞科を襲う。
 次いで生み出された巨大な腕を濁流の中に突っ込みサキュバスは瑞科を探す。
「これで生きていたならば、そうね、餌として使ってあげる、あなたをあられもない姿にして、劣情をさそうオブジェに仕立てて、町に投げ捨ててあげる。そうすればもっと多くの男たちが私のもとに訪れるに違いないわ」
 そして高笑いを上げるサキュバス。
 彼女は敗北を知らないのだろう。
 それも当然だ、ここまでの魔力、行使できる者はそういない。
「あははははははは」
 だから、恐怖という物を味わうのは今日が初めてになるだろう。
「…………え?」
 その瞬間、汚泥をまさぐっていた腕が動きを止めた。
 次の瞬間、その腕が、真っ二つに裂けたのだ。
 そして最後に、爆風。炎も、氷も、闇も、全てが切り伏せられ。まき散らされた。
 次いでサキュバスが見たのは、傷一つなくその場に立つ瑞科の姿。
「そんな……」
 サキュバスは言葉を失った。最大級の魔術を三つも使って傷一つおわない、そんな存在を見たことがなかったからだ。
「淫魔は魔力を奪いため込むことができると聞きます、どれほどの人間から力を吸い取とったのですか?」
「おまえ!!」
 命の危険を悟るサキュバス、次いで彼女の眼前には特大の魔法陣が展開された。
 これこそ全力の切り札。すべての者を冥府にいざなう、ハデスの隻腕を召喚する魔術だ。
 しかし、もはやこのような茶番に飽き飽きした瑞科である。
「雷鳴よ!」
 そう片手で剣を振るうと、瑞科の刃から光の刃が噴出する。
 それが魔方陣を焼きつくし、そして。
「そんな!!」
 サキュバスを射抜いた。
 纏う衣装を焦がされ、ベットから叩き落とされたサキュバスは。
 真っ黒になった服を脱ぎ捨て、起き上がる。
 その瞬間にはもう瑞科はサキュバスの目の前にいた。


第四章 復讐の誓い

「え?」
 次いで瑞科はその首元に刃を突きつけた。
「楽しかったですよ、これほどまでに多彩な手品は見たことがありません」
 サキュバスの顔が、恐怖と屈辱で歪む、両目に涙を浮かべた。
「……くっ。まだ。まだ手品はあるわよ」
「本当ですか? 楽しみです、最後に見てみたいですわ」
 サキュバスはにやりと微笑むと、指を鳴らす、次の瞬間部屋の最奥がライトアップされた。そこには幼い少女と、それの後ろに控える蚊の化物のような悪魔がいた。
「さぁ。どうする?」
 サキュバスがつぶやくと瑞科は走った。その蚊のような悪魔を切り捨てて少女をその両手に抱えた。
「もう、大丈夫ですよ」
 直後聞こえたのはサキュバスの高笑い。
「あはははは、人間とは愚かね、いつだって命を優先せざるおえない」
 サキュバスは姿を消していた、そして声だけが部屋を満たす。
「待っていなさい、次こそは必ず貴方を殺す、私のおもちゃにしてあげる」
 その強がりを聞いて瑞科は微笑んだ。
 そして瑞科は少女の手を引いて城を後にする。
 これにて教団は壊滅したため彼女がまた魔力を蓄えるには手間がかかるだろう。
 前と同じような犠牲は出ない。そして彼女が動き出せばすぐにわかることだろう。
 だから瑞科は己に誓いを立てた。
 もしあの悪魔がまた活動を再開するようなことがあれば、真っ先にこの手で倒す。
 そう決意を新たに、教会司令への電話をかけた。
「任務完了です」
 
エピローグ
 サキュバスはその身から失ってしまった魔力を惜しんでうめき声をあげた。
 とある町の路地裏で、彼女は復讐に燃える心を理性でかき消す。
「絶対に殺してやるんだから」
 そう妖艶に微笑んで、サキュバスは夜の街にくり出した。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『白鳥・瑞科 』
『サキュバス(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はOMCご注文いただいて、ありがとうございました。
 鳴海です。
 今回は前編後編ということで楽しく書かせていただきました。
 瑞科さんの魅力をうまく描けていれば幸いです。
 それでは、また機会があればよろしくお願いします。
 鳴海でした。ありがとうございました。