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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― それは偶然か、必然か ――

「……これは、偶然なんでしょうか」
 松本・太一は小さなため息と共に言葉を零す。
 瀬名・雫に協力をお願いして、色々と調べてもらって知ることが出来た職業。
「滅錆士……」
 松本は『錆びた剣』という重要アイテムを所持している。
 そんな彼の前に舞い降りてきた職業の名前。
「もしかしたら、錆びた剣を元に戻すことが出来るのでは……?」
 偶然、こんな職業を知ることが出来たとはとても思えず、誰かの意図を感じて、松本はブルリと身体を震わせた。
 そんな時『LOST』にメッセージが届いた。
 相手は瀬名であり、彼女は『滅錆士』について色々と調べてくれている。
 その間に松本は無事転職できるように、レベルアップに励んでいるのだが、無課金だとどうしても限界が来てしまい、なかなか思うようにレベルアップが出来ない状態だった。
『やっほー♪ ちょっと調べもの休憩の雫ちゃんだよー♪ そっちはどう?』
 文章だけでも明るい雰囲気に、松本は少しだけ笑ってしまう。
「一応レベル上げをしているんですけど、なかなか思うように出来ません――と」
 メッセージを返すと、1分も経たないうちに返信が来た。
『んー、お金かかっても大丈夫ならいい方法とかあるよ? 経験値増加のアイテムとか、レアドロップ率上昇のアイテムとかねー』
(……なるほど。つまり『課金』ということですか)
 そんな風にレベル上げをしてもいいのか、という思いはあるけれど、それで滅錆士への道が開かれるのならば、という思いも彼の中にはあった。
 しかし、松本は気づいていない。
 自分が無意識に追い詰められ、ストレス過多となり、視野狭窄になっているということに。
『千円なら2倍の効果、五千円なら8倍、一万円なら15倍の経験値をもらえるよー』
「……ならば、一万円のアイテムをいくつか買っておきましょうか」
 すると、松本の言葉に驚いたのか瀬名が慌てたように返信をしてきた。
『えっ、一万円だよ!? たくさん買って大丈夫なの?』
「大丈夫ですよ、と。今は少しでもレベルをあげなくてはいけませんから」
『……大丈夫ならいいけど。無理はしない方がいいよ?』
 恐らく瀬名の方は気づいているのだろう。
 金額面ではなく、松本の精神面を心配しているのだから。
 強くなれば強くなるほど、松本はリスクが高くなっていく。
 瀬名はそれを分かっているからこそ、課金してまでもレベルをあげようとしている松本を心配しているのだ。お金を使い、強くなったところで『LOST』の異変の影響を受ける。
『じゃあ、あたしは滅錆士の情報を引き続き調べるね』
 少し焦っているように見える松本を心配しながら、瀬名はメッセージを終了した。

※※※

 あれから1時間後。
 松本はアイテムを使用して、レベルを20ほどあげた時、異変が起こった。
「……あれ?」
 ぐらり、と目の前が揺らぎ、松本は床に膝をつく。

『ズルをしちゃ、ダメよ』

 頭の中に直接響いてきた甲高い声に、心臓がばくばくと早鐘を打つ。
 まるで森の中で獣と対峙しているような、そんな不安や恐怖が松本の心を襲う。

『他の人で許されることも、あなたがすると許されない』
『今回までは許してあげるけど、次にズルをしようとすれば……『捨てる』わよ?』

 その言葉を最後に、息苦しさ、不安、恐怖が嘘かのように消え失せた。
(今のは……?)
 パソコンの画面を見ても、普段と変わりない。
(今のは現実だったんでしょうか、それとも……疲れすぎて白昼夢でも見た?)
 夢だと割り切って、レベル上げを続けることも出来たが、なぜか松本はそれが出来なかった。
 心の中に沁みついたような恐怖が、松本にアイテムを使用したレベル上げを続けさせてくれなかった。
(とりあえず、明日にでも瀬名さんに連絡をしてみよう)
 恐らく松本に話しかけてきた彼女は『LOST』の異変の最終地点にいる者。
 松本を巻き込み、多くの人を巻き込んだ張本人。
(……何も分からないまま消されるのだけは、ごめんです)
 バッグの中に入っているログイン・キーを見ながら、松本は心の中で呟いた。


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

TK01/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます!
今回は課金をする話でしたが、いかがだったでしょうか?
面白いと思って頂ける内容に仕上がっていましたら幸いです。
それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら、宜しくお願い致します。

2016/10/4