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<東京怪談ノベル(シングル)>



 異世界の記録

「ここ……ですね……」
 松本・太一は目の前の洞窟を見ながら小さく呟くように言った。

 数時間前。
 青年と共に街の中を歩いていた太一は往来の真ん中で一人泣き崩れている女性の姿を見た。周囲には人だかりが出来ており、それを太一達は疑問に感じながら人だかりを掻き分けて女性の側へと駆け寄った。
 話によると街の中に魔物が現れ、女性の子供を拐って行ったのだった。
 周囲には魔物と戦える者は一人もおらず、女性は子供を取り返そうと必死で追い掛けようとしたが、周囲の人間達に止められた。
 もうどうする事も出来なかった。
 愛する我が子を魔物に拐われ、絶望の淵に立たされ、ただただ涙を流すしかなかったのだ。
 その話を聞き太一は、
「安心して下さい。子供さんは必ず連れて帰ります」
 そう女性へと優しく告げた。それを聞き女性は涙ながらに太一に「お願いします」と頭を下げたのだった。
 そして現在太一達は連れ去った魔物の情報を頼りに洞窟の前にいた。
「では行きましょうか」
 神妙な面持ちで青年は太一へとそう声をかけた。青年の言葉に太一は深く頷き、そして二人は洞窟の中へと足を踏入れた。
 洞窟の中は闇のように暗く、そしてひんやりと肌寒い冷気が漂っていた。
 このままでは暗くて何も見えない。
 そう思い青年は一つの宝石に似たアイテムを取り出すと、それを宙へと投げる。すると太一達の周囲が暖かな光に包まれ、それと同時に一メートル先の場所を明るく照らしたのだった。
「凄いですね」
 思わず感心したように言う太一に青年は不思議そうな顔をして言った。
「あれ? 松本さん知らないのですか? これ“光の結晶”と言うものなんですよ。このアイテムを投げると周囲にある程度の光を与えるのです。結構便利で使っている人も多いみたいですよ」
「そうなのですね。実は私駆け出しで……あまり知らなくって……」
「そうでしたか。ならばこれは結構クエストなどの時に役に立ちますので覚えておくと良いですよ。敵の目眩ましなどの効果もありますしね」
 そう言いながら青年は薄く笑った。
 (アイテムにも色々あるのですね……)
 内心太一はそう心の中で関心をした。


 暫く先に進むと太一達は目的の魔物を発見した。それは巨大なトカゲの姿をした魔物だった。魔物は壁の隅で泣いている小さな子供へと近づき、そして大きな口を開きながら子供を食らおうとする寸前のところだった。
 それを見、青年は瞬時に動いた。
 すでに手にしていた剣で青年は魔物の背後に近づき、斬りつけたのだった。魔物は絶叫に似た悲鳴を上げ、膨大なダメージを受けながらその場をのたうち回っていた。
 その隙に太一は子供を即座に自分の後ろへと下がらせると魔物の方へと両手をつきだし、唇を動かした。

「“氷の華”」

 すると魔物の足元から水のようなものが一瞬で広がりその場を凍らせた。そしてそれは次第に大きな美しい氷の華を咲かせた。
 それは透明で美しく、思わず誰もが魅了してしまうような華だった。
 そしてその花弁の氷の刃が魔物の体に深く突き刺さった。魔物はその攻撃を受け、一瞬で光と変化し、その場から消え去った。
 魔物が消え去った後に小さな氷で出来た華がひらひらと美しく宙を舞っていた。
 おそらく“氷の華”の破片に近いものだろう……。
 太一は掌に乗るその華を見可愛らしいと感じ薄く笑った。
 そして太一のすぐ側にいた子供が急に大声を上げながら太一へと抱きついてきた。
「うわぁぁぁん」
 子供は恐怖に耐えきれず思わず泣いてしまったのだった。無理もない筈だ。こんな場所に拐われ、魔物から食べられようとしたら誰だって恐怖を感じられずにはいられない。
 それが況してや幼い小さな子供ならば尚更だ。太一は子供を優しく抱き締めた。
 そんな中、青年は太一へと話しかけた。
「やりましたね松本さん! 凄かったです。とても駆け出しとは思えない」
「有り難うございます」
 太一はそう言い青年へと礼を述べた。
 あの時、青年は子供を助ける為に瞬時に動いた。それも自分より先に。その事を一瞬思い浮かべながら太一は青年に好感を抱き微笑を浮かべた。

 その後。
 太一達は子供を母親の元へと帰した。
 女性からは何度も何度も礼を述べられ、周囲の人間達からは称賛の声が上がった。
「助けてくれて有り難う」
 そう子供から礼を言われ、太一は嬉しく感じた。
 先程太一は自分のステータスを確認した。するとステータスにはレベルの表示が1から2へと上がっていた。
 太一は嬉しそうに抱き合う親子を見ながら一つの事を感じ、思った。
 それは、この世界はゲームにおける能力の数値、肉体操作、感情感知や感情操作、運命操作などを使ったフラグの管理などが行われている。現に先程魔物との戦闘で肉体操作を確認し、レベルアップ機能などを感じ取った。
 肉体操作に関しては子供を早く助けねばと言う思いが働き、確かめる余裕がなかったのだがそれでも自分が思うとおりに……いや、自分の体そのもののように動いた。
 そして感情も同じようにこの世界の人間達に備わり、記憶も少なからず存在していた。それは自分と差ほど変わらない普通の人間だと感じでしまう程だった。

「君が無事で良かった」

 そう太一は心から安堵し、子供へと薄い笑みを浮かべながら言ったのだった。



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一様

こんにちは、せあらです。
この度はご指名の方をして頂き本当に有り難うございました。
「テスト・プレイ」からの続きと言う事でしたので、今回はクエストを交えたお話しの方を書かせて頂きました。
少しでも楽しんで頂けましたら嬉しく思います。
書かせて頂き本当に有り難うございました。