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<東京怪談ノベル(シングル)>


白鳥瑞科の憂うつ

 そこは教団本部地下99階。
 そこでは眼前を覆うように巨大なモニターが展開され、中央には戦地の詳細な地図。左右には計八台の小型モニターが設置されてドローンからの映像が送られていた。
 それを見る限りでは三部隊で悪魔の軍勢を追いこんでいる最中の様だった。
 眼下には大量のオペレーター、そしてその情報を一括で管理、戦況を把握し、作戦を立案、指揮するのは『 白鳥・瑞科 (しらとり・みずか) 』であった。
「A班、よろしいですわ、そのまま出口に追い込んでください」
 いつもの戦闘服ではなくスーツに身を包んだ彼女は司令官席に座り、足を組み替えた。
「B班、タイミングはこちらで指示いたします。敵隊列の横から攻め崩してください」
 その指示に合わせて地図上の交点が形を変えていく、悪魔の兵団を一か所に追い込んでいくのが目に見えてわかった。
「C班後詰です、退路を断ちつつ飽和射撃、A班とB班に立て直す時間を与えて。あとは自然に両班が殲滅してくださいますわ」
 そう告げると瑞科は指示を出すことをやめた、チェックメイトである。
 敵の全滅は時間の問題だった。


    *   *

 教団本部の噴水が左右に割れて一台のスポーツカーが姿を現す。
 そのハンドルを握るのは瑞科であり。
 彼女は今日の仕事を終えて帰宅するつもりだった。
 瑞科は心地いい気だるさの中にいた。シートの滑らかな皮に手をかけて一息つく。そして缶珈琲に口をつけて一つため息をついた。
 身をよじらせるとぎちりという音が車内に響く。エンジンをかけた、自宅までの道のりはとばして三十分とやや遠い。
 紅いスポーツカーがやみを裂いて進む。だがその闇の中で浮かび上がるように発行しだしたのは瑞科のスマホ。
 突如通話の要請である。耳につけたインカム型の受話器のボタンを押す。
「瑞科さま、今お取込み中でしょうか
 ディスプレイに表示されたのは支部長の文字。
 先ほど悪魔殲滅策に協力した支部の、支部長からの連絡だった。
「様付けはやめてほしいと言っておりますのに」
「いえ、戦績を考えれば当然のこと。それより報告したいことがございます。緊急事態です」
「その割には落ち着いているようですわね」
「ええ、緊急事態と言ってもあなたに悪魔の手が迫っているというだけですから」 瑞科は少し驚いた。
「業を煮やして私を直接襲おうとしている? それは無意味でしょう?」
 直接の強襲など無意味だと何度か教えているはずなのに学習能力がない、そうため息をつく瑞科。
「状況は?」
「悪魔が三体。飛行タイプですね。約七分でそちらと接敵します」」
「では森の中で迎え撃つのがよいでしょう」
 そう瑞科はハンドルをきった。道路を飛び越え森の手ごろな場所に車を止め、車から降りてトランクを開いた。
 トランク内部に設置されていたランプで灯りをともすと、そこに収納されているすべての武装がありありと照らし出される。
 黒光りする銃器、刀。防御用の札やアーマー、無線機。
 突発的に神魔霊獣と遭遇した場合に必要なすべてのものがそこにそろっていた。
 瑞科はその中から状況に適したアイテムを一つ一つ自身に取り付けていく。
 スーツのネクタイを外し薄手のグローブをつけた。
 黒いストッキングをなぞるようにベルトを回し固定。光沢のある黒ストッキング、それに包まれた太ももが窮屈そうに締め付けられた。
 そしてその柔肌とベルトの間にナイフを刺していく。
 そして瑞科は短いスカートを抑え立ち上がり、しなやかな足を軽く地面に叩きつける、するとヒールのかかと部分に刃が出現する。
 最後に小型の退魔刀をその手に握り、赤いフレームのメガネをかけて闇を見据えた。
 メガネのフレームに手を沿えると暗視スイッチを入れた。
「健闘をいのります」
 その時支部長がそう告げた。
 それに瑞科は静かに。
「はい」
 とだけ答える。
 そして優しげな眼差しを鋭く変え、頭上に迫る悪魔たちを見た。
「では、始めますわ」
 そう告げると、司令官の返事も待たずにインカムを投げ捨てる、それが地面に落ちるよりもはやく瑞科は森の闇へと突っ込んでいく。
 木々の枝や葉を吹き飛ばしながら瑞科は森の中を飛ぶように駆ける。
 頭上で羽ばたく影。悪魔の嬌声、げひた笑い声。
 それが瑞科の気配を森の中で見つけると散開。
 四方から瑞科へと襲いかかった。
 だが。
 その手が瑞科に触れる瞬間短刀で切り飛ばした。
 次いで迫る悪魔たちを、枝に手を置き宙返りするように飛んで回避。
 そして回転しながら、太もものナイフを抜き森の中へ放った。
 直後悲鳴、それを尻目に瑞科は地面に着地。さらに森の奥へ駆けていく。
 瑞科は森という物を熟知していた。そしてその身軽さで樹を足場に三次元的な動き披露する。
 ブラウスが引っ掛かりそれで裂けてこぼれそうになる胸を押さえながら。
 樹の陰に隠れて音だけで悪魔たちの居場所を割り出した。
 直後木陰から躍り出た瑞科は驚いて急停止をかけた悪魔の翼を真っ向から叩き切った。
「ぐああああああ!」
「痛がっても、だめですよ」
 そう瑞科がトドメをさそうと近寄るも悪魔は最後の悪あがきとばかりに両手で魔方陣を描く。
 火焔の上級魔術を奏で、この森ごと瑞科を焼き尽くすつもりなのだろう。
 それを阻止しようとゆっくり瑞科は歩み寄る。しかし。
 その瑞科を阻止しようと飛来する隻腕の悪魔。
 その目は欲望と復讐で満ち満ちている。だがそれも無意味。
「邪魔です」
 踵を振り上げる瑞科、黒いタイツ越しに見えるのは赤いショーツ。
 細く健康的な足は長く天を貫くように伸ばされた。
 それを。瑞科は悪魔の顔面に振り下ろす。
 踵落とし。しかしそのヒールは刃と化している。
 つまり、そのヒールはわずかな抵抗感と共に脳に突き刺さり、悪魔一体の機能を停止させた。
 直後二体目が羽交い絞めにしようと後ろから迫る。瑞科は動けないと思ったのだろう。だがその考えは浅はかだった。
 瑞科のヒール、その刃は射出され、脳に埋め込まれる。瑞科は自由になった脚で悪魔を蹴って後方宙返り。
 次いで着地、スカートが舞うがそれを瑞科は左手で抑え。
 右手を悪魔に突き刺した。
 心臓を一刺し。その断末魔が森に響く。
 その森を赤く染め上げたのが、先ほど翼を切り裂かれた悪魔である。
「そのようなことをしても無意味ですよ」
 そう瑞科は穏やかに悪魔に告げる。
 悪魔は両手から炎を噴出させ、森を焼いていった。
 赤々と照らし出される瑞科の顔。
 美しい髪はオレンジ色に照らし出され、瑞科はメガネを投げ捨てる。
 それはあっという間に熱で歪み飴細工のように形を変えた。
「これ以上無駄に被害を広げてはいけません」
 しかし悪魔は下卑た笑いと涎をまき散らしながら何事かを叫んだ。
 その反応に瑞科は溜息をついて。そして。
 両手を前に突き出した。
 神聖なる力が両手の先端に集まっていく。
 それは重力を歪め、引力となり、周囲の炎を集め始めた。
 重力弾の応用である。
 これにより森は再び闇に包まれれる。
 照らし出されるのは悪魔と瑞科だけ。
「あ! ああああ!」
 その光景に恐れをなして這いずって逃げようとする悪魔。
 それを冷たい目で見下ろして瑞科は炎をさらにさらに圧縮する。
 圧縮率が高まるにしたがって、発せられる温度は高くなり、その温度によって、スーツが焦げていく。
 黒いスーツはより黒く変色し、焼けて穴があけば露わになる真っ白な肌。
 さらには胸の下の部分から腹部、肩、そしてスカートが焦げ付いていく。
「私を倒したいのであれば」
 圧縮完了、野球ボール大になったそれを左手でコントロールしながら瑞科は駆けた。
 狙うは翼のもがれた悪魔。
 それを蹴り上げ。
「一個大隊は連れてきた方が、よろしくてよ」
 次の瞬間悪魔を蹴り上げる瑞科。そしてその頭上舞う悪魔へと左手の火球を放った。
 その火球は夜空に帯を引き上空3000Mで爆発すると。
 まるで第二の月のように地上を照らしだした。


 エピローグ
 瑞科は車まで戻るとミラーに映る自分の姿を見てため息をついた。
 戦闘服でなければ瑞科の超人的なアクションについて来れず破損してしまうことが多いのだ。 
 特にこのスーツは一般流通している日常品なので破損がひどい。
 スカートは焼け焦げまるでパンティーを隠せていないし。
 炎を抱えていたせいで下乳からへその下にかけて肌が露出してしまっている。
「やはり戦闘用のスーツも開発すべきでしょうか」
 そう悩ましく思いながらも瑞科は車に乗り込み自宅を目指して車を出した。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『 白鳥・瑞科 (しらとり・みずか) 』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は東京怪談ご注文いただきありがとうございました。
 鳴海です。
 再び瑞科さんと会えることになりとてもうれしいです。
 瑞科は気高く美しいキャラかと思いますので、その面を重点的に書かせていただきました。
 今回は思いのほか色気のある描写を乗せられなかったので、一緒にご注文いただいた日常編の方で頑張らせていただきたいと思います。
 それでは鳴海でした、ありがとうございました。