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<東京怪談ノベル(シングル)>


白鳥瑞科の日常

 朝の光が肌を照らす。
 カーテンの隙間から漏れる光は筋のように、『 白鳥・瑞科 (しらとり・みずか) 』の体を撫でるように。一直線に伸びる。
 日の光を受けて鮮やかに輝く髪。
 喉をはじくようなくぐもった声と、シーツの衣擦れの音が重なって響く。
 午前十時。休みは少し寝すぎたこの時間に瑞科はいつも目を覚ます。
 髪の毛が汗ばんだ肌に、胸に流れるように張り付いた。
 瑞科はカーテンを引く、強い光がその鮮やかな青い瞳を輝かせた。
 そして猫のように背を伸ばすと。体にまとわりついた髪の毛を払った。
 瑞科は上半身に何も纏っていなかった。 
「今日も、いい天気ですわね」
 魔を滅した人の世。そこに降り注ぐ朝日が、瑞科は何より好きだった。
 
    *   *

 瑞科はトースターにパンを突っ込んでシャワーを浴びる。
 バスタオル一枚で部屋まで戻り。
 今日の予定を思い描きながら服に袖を通した、白を基調としたコーディネイトで、ブラウスとロングスカートの清楚系である。
 すこし屈んで、おもむろに冷蔵庫の中身を確認、玉子とチーズしかない。 
 なんとなくわびしい思いをしながら、食料品を買いに行くことを決意する瑞科である。
「いってきます」
 そう朝食を取り終った瑞科は自分の部屋にそう告げて部屋をでる。
 エレベーターが最上階までたどり着く間に瑞科はメールや教団本部で異常はないかチェックする。
 オフと言っても瑞科の仕事は緊急性が高い、戦い続ける限り本当に戦場から離れられるときなど来ないのだ。
 そして瑞科は町に出た。休日ともあれば人通りは多くなる。
 瑞科の家は都心の高層マンションなのでそこから五分歩けば商業施設にたどり着く。そこでは食料品から車まで、日常で必要なものは全ておいてあるのだった。
「ヒーローショーですか?」
 瑞科の視線がショッピングモールの入り口にとまる。そこには色とりどりの人間たちがたっており子供たちと交流していた。
 正義のヒーローにあこがれる少年たちはきっと、本物のヒーローの苦悩は知らないのだろう。
「でも、それを知らせないように戦うのが、私の務めですから」
 そう子供たちに微笑みを向けると瑞科は食料品売り場に直行した。
 瑞科はそこで手早く一週間分の食料を購入する。
 たまの休みなので手の込んだ料理でも作ってみようかと思い、圧力鍋とキャベツ、そしてひき肉等も買う。
 そして、女性の買い物とは長いものである。
 いつの間にか正午を回った時計を眺めて、瑞科は歩き出した。服屋などを眺めながらゆっくりご飯どころを探し、瑞科は喫茶店に入って軽食を取ることにした。
 大きな歩道橋の根基にある喫茶店で、外のテラスに珈琲とサンドイッチを届けてもらう。
 風を感じながら瑞科は珈琲を喉に通す。
 やっと一息つけた。そう街を見回していると。瑞科の頭に何かが当たった。
 それがテーブルの上に転がる。
 それは、赤くて、緑色の下手がついていて、甘酸っぱい香りのする。
「イチゴ?」
 そして上を見ると瑞科は信じられないものを見た。
 空を舞う大量のイチゴ、そして。
 真っ逆さまに落ちてくる子供。
「いけません!」
 そう瑞科はテーブルの上に立つと大きく跳躍した。
 そして空中で少年をキャッチすると、ロングスカートを巻き上げて着地。
 瑞科は顔を真っ赤にして、スカートを上から降ろした。
 と言っても、紫のローライズは一瞬衆目にさらされてしまったわけだが。
「大丈夫ですか?」
 そう瑞科は少年を下ろす。すると少年は興奮した様子で告げた。
「おねーちゃんすごい! けど、血が出てるよ?」
 そう少年が指さすのは瑞科の豊かな胸の部分。確かにそこにはピンク色のシミがついている。
「これは、たぶん……」
 瑞科はボタンを一つ外して中身を見ていみた。
 その谷間に手を突っ込んだり、横から持ち上げて形を変えたりして目的の物を探す。
 瑞科の豊かな胸は形を変え、さらに今の戦闘でほんのりかいた汗がブラウスを透けさせ、だんだんと紫色の下着が露わになる。
 それに比例して少年の顔が赤く染まっていった。
「イチゴのせいですね、御心配ありがとうございます」
 そう告げると瑞科は緑色のへたを胸の間から取り出して笑った。
 直後、保護者と思われる女性が現れて少年を連れて行ったが、問題はこれからである。
「このままでは帰れませんね……」
 そう瑞科は自分の手荷物を見やる。そこには先ほど買った上着が一着。
「着替えるしかありませんか……」
 瑞科は仕方がないのでトイレの個室で着替えることにした。
 ブラウスを脱ぎ、イチゴのエキスをぬぐう。
「ああ、ブラまで……」
 お気に入りのレースが付いたブラを外すと、衝撃で胸が揺れた。
 公共施設でこんな格好になるのは初めてだ、そう思うと頬が熱くなる。
「ああ……」
 下着までは買ってこなかった。上着一枚だけで町を歩かないといけないのか。そう思うと眩暈がする瑞科だった。

   *   *

 その後は無事に家にたどり着くことができた瑞科は自宅のトレーニングルームの扉を開けた。
 ダンベルやバーベルと言った筋力強化用の物から、超常の力を伸ばす謎の装置まで沢山あった。
 その一室に入ると瑞科はトレーニングウェアに着替える。柔らかい素材の体にフィットするタンクトップ。同じ素材でできた、ホットパンツ。髪の毛をポニーテイルで纏め、さっそくランニングマシーンの電源を入れる。
 その直後だった。
 瑞科のお尻のポケットでスマホが震える。
「きゃ」
 小さな悲鳴を上げると、顔を赤らめて瑞科は耳にかけたインカムのボタンを押した。そして走りながら通話を開始する。
「どうされました? 支部長」
「ああ、瑞科様実はですね……」
 そう支部長が何を話すべきか考えている最中に後ろから沢山の声が聞こえてきた。
「大変です瑞科さん。東方の古城が浮上しました」
「大変です瑞科さんアトランティスが発見されました」
「大変です瑞科さん、魔王を名乗る者からビデオメッセージが」
 自分が一日いないだけでてんやわんやになっている支部の様子を聞いて少し瑞科は微笑んだ。
「まだまだ、私を休ませてはくださいませんのね」
 そう瑞科は唇をなぞると告げる。
「この後支部に向かいます。悪魔たちを殲滅する作戦をたてましょう」
 

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『 白鳥・瑞科 (しらとり・みずか) 』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 OMCご注文ありがとうございます鳴海です。
 今回は日常編ということで、瑞科さんがどんな人物なんだろうと、沢山想像して書きました。
 気に入っていただけたなら幸いです。
 それでは今後ともよろしくお願いします!