|
―― 乙女が血に染まる時 ――
「……さて、準備はこれくらいで大丈夫でしょうか」
沢山買いこんだ杖と刀を持ちながら、海原・みなもは小さく息をつく。
「みなもちゃん、そんなに刀と杖を買い込んで何をするの?」
みなもに呼ばれた瀬名・雫は彼女が持っている刀と杖の量に驚いている。
「しかも、それ一番安いやつだよね? 役に立つとは思えないけどなぁ……」
みなもの考えが分からず、瀬名は首を傾げるばかり。
「魔術で強化した杖術や刀術で、強くなるための努力をしてみようかと思いまして」
職業を持国天にしたみなもだったが、更なる上を目指すために地道な努力をしてみようと考えたのだ。
「でも、みなもちゃんの場合、あんまり強くなりすぎると……」
瀬名が言いづらそうに呟く。
そう、みなもは『LOST』に選ばれたもの。
強くなればなるほど身体が、心が侵食されていく。瀬名はそれを心配しているのだ。
「……よく考えたんですけど、強くなかったら『LOST』の異変を調査することも出来ません。それにこのログイン・キーはあたしに何かをさせようとしている。弱いままで達成できるほど甘いことじゃないような気がするんです」
みなもの考え。それは『楽をして強くなろうとしなければ、侵食は最低限で済むのではないか』というものだった。
「強くなるたびに侵食されるのであれば、もうあたしはとっくに壊れていると思うんです」
「それは、確かにそうだけど……も、もしその仮定が違ったら、みなもちゃんは――」
「元に戻るためにも、あたしは強くなることを選びます」
きっぱりと告げるみなもの瞳からは強い意思が感じられ、生半可な覚悟で決めたわけではないということが伺える。
「人間だの神様だの言う前に……極めてみるにもいいですよね。この『LOST』には命がけで強くなれるというわけではなく『レベル』という努力の概念があるんですから」
「……わかった。みなもちゃんがそう言うなら、あたしも協力するよ」
瀬名の言葉に、みなもは嬉しそうに笑う。
「なら、あまり人目につかないフィールドとかありますか? 強化した刀術とかを試したいので、人が多いフィールドだと迷惑になりそうですし……」
「あ、知ってるよ。新フィールドが出来てからあまり人が来なくなった場所ある」
瀬名の案内で、そのフィールドに移動して、みなもは自分を鍛えるために動き出した。
※※※
「くっ……!」
魔力で攻撃力を増幅した武器で魔物を倒した後、ボロリ、と武器は崩れ落ちてしまう。
「これで32本目だね。武器を魔力で増幅するっていうのはいいけど、その強い力に武器の方がもたないって感じなのかも」
壊れた武器を見ながら、瀬名が冷静に分析をしていく。
「……この武器だからもたないのか、それとも魔力自体にすべての武器がもたないのか、どっちなのかを把握する必要がありそうですね」
みなもは小さく息をつき、持っていた刀を地面に落とす。
彼女の周りには32本の刀、そして杖はそれ以上の数、壊れた武器が散乱しており、その中で全身を赤黒く染めて自然に笑う姿は妙に歪で瀬名はゾッとする何かを感じ取っていた。
「でも、武器は壊れてしまいますけど、この魔力を武器に流し込むのはいいアイデアだと思います。ここぞって時に使えるから最後の手段としても使えますし」
みなもは壊れた武器を見下ろしながら、冷静に呟く。
「でも戦闘中は装備の入れ替えが出来ないから、その一撃で魔物を倒せなかったら……その後はピンチに陥りそうだよね。だから技の使い時を間違えると大変なことになるかも」
瀬名の言葉に、みなもは頷く。
「はい。それは分かっています。あたしはあたしなりに頑張って『阿修羅王』を目指そうと思うんです、そのためにも……また、協力をお願いしますね」
みなもが申し訳なさそうに言うと、瀬名はにっと笑いながら「もちろん!」と笑いながら言う。
(でも、大丈夫なのかな……?)
瀬名は心の中で呟きながら、ちらりとみなもを見つめる。
血に染まった中で微笑んでいたみなも。その笑顔はとても自然なもので、だからこそ瀬名は余計に危うい何かを感じ取っていた。
(……何も起こらなければいいけど)
心の中で呟きながら、瀬名はみなもをジッと悲しそうに見つめるのだった。
―― 登場人物 ――
1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生
NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人
――――――――――
海原・みなも様
こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回はレベルアップのために奮闘する彼女、という内容になっていますが
いかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容になっていますと幸いです。
それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら宜しくお願いします。
2016/10/9
|
|
|