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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 不便な身体、必殺★悩殺シーン? ――

「あ、松本さん。ごめん! 尻尾踏んづけちゃった……」
「……いえ、大丈夫なので気にしなくてもいいですよ」
 侵食が進み、一角獣化してから、松本・太一は何度もこういう目に遭っていた。
 額の角が壁にぶつかったのをからかわれたり、今のようにお尻の尻尾を踏まれたり、など……けれど誰も不思議に思わない所を見ると、他の人間からは『昔からこうだった』という認識しか持たれていないということが分かる。
(……まだこの身体に慣れていませんし、どうも仕事がやりづらいですね)
 松本は小さなため息をつきながら、尻尾が曲がらないようにして椅子に座る。
 普通に座ると尻尾が折れるような形になり、痛みが松本を襲うのだ。
(……何か痛まないような椅子がないか、今度備品庫に行って探してみましょうか)
 再度小さなため息をつき、松本は自分の仕事に取り掛かるのだった。

※※※

 無事に仕事も終わり、松本は家へと戻って来ていた。
「やっぱり、すごいですね……」
 風呂場の鑑で自分の姿を再確認しながら、松本が呟く。
 額の角は見たままで鋭そうなもの、ある意味凶器にもなりえそうでゾッとする。
(これ、15センチくらいはありますよね……? 廊下の角を曲がる時とか気を付けないと、ついうっかりで誰かを刺してしまう――というのもあり得ない話ではないですし……)
 そして、松本は視線を尻尾へと落とす。尾てい骨の辺りから膝上から生えたそれは人間にはありえないもので、松本は何度目になるか分からないため息を零す。尻尾を覆う獣毛も白くつやつやしていて手入れを怠れば、すぐに汚れてしまいそうなほどだ。
(ブラッシングが大変そうですね……他にも獣毛がありますし……)
 身体の方は全身を覆っているのではなく、胸部や前腕などの一部のみ。
「これ、普通にボディシャンプーで洗っても大丈夫なんでしょうか……」
 人間用のを使い、獣毛が痛む可能性はないのだろうか、と松本は真剣に考え、ペット用のシャンプーでも買うべきか、と心の中で呟く。
 しかし、どの動物用を買えばいいか分からず、結局今はまだボディシャンプーで洗うことに決めた。
(とりあえず、早くお風呂に入ってしまいますか……このままでは風邪を引きそうですし)
 松本はそう心の中で呟いた後、湯船に足をつける。
「……ふっ、ん……!」
 人間の時はそこまで思わなかった温度なのに、なぜか一角獣娘になると酷く熱く感じた。
「……42度なんですけどね、もう少し温度を下げるべきでしょうか」
 ちゃぽん、と足を浸けていた湯船から出て、はぁ、と松本はため息をつく。
 一角獣娘になり、不便なことが沢山出てきてしまい、松本はため息をつくのがクセになってしまったようだ。
(今日はシャワーだけにしましょう)
 シャワーの温度も下げて、松本は軽く身体を洗う。
 本来の性別が男性だというのに、妙な色気があり、恐らく他の人間が見たらゴクリと喉を鳴らすこと間違い無しだろう。
 ――もちろん、本人はそのことに気づいていないのだけど。
(あ、着替えも尻尾の穴をあけておかなくては……)
 スカートを着用するなら尻尾をさげておけば大丈夫だが、パンツスタイルとなるとそうもいかなくなる。
 幸いにも他の人間は松本に尻尾があるのは当たり前という認識なので、尻尾を出しても騒ぎにならないことだけが良いことなのかもしれない。
(それにしても、どんどんゲームと現実の境界が曖昧になっているような気がしますね……これが『侵食』されていくということなのでしょうか)
 松本自身、一角獣娘になったことで恐怖はあったけれど、パニックは起こしていなかった。
 それは『魔女にされた』という過去を持っているからなのだろう。気持ち的には安定していても、やはり湧き出てくる疑問だけは解消できず、何とももやもやした気持ちが心に溜まっていく。
(……考えても仕方ないですよね、まずはひとつひとつ解決していかなければ。焦っても状況は悪くなっていくばかりなのですから……)
 松本はそう心の中で呟いた後、再びシャワーを浴び始めるのだった。



―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――

松本・太一 様

こんにちは、いつもご発注頂き、ありがとうございます。
今回は現実世界でのお話でしたが、いかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていますと幸いです。
それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!
また機会がありましたら、宜しくお願い致します!

2016/10/20